第1話 私が殺しかけました
ちょっと不思議なお話です。
ガゼボでアフタヌーンティーを楽しむのは、赤バラがある側に侯爵令嬢アイリス、そして青バラがある側に王太子ルシアン。
優雅に紅茶を嗜み、そしてアイリスはその美しくも長いピンクの髪を少し触ってルシアンに告げる。
「殿下、今日は一段と温かい風が吹いていて気持ちいいですわね」
「そうだね、アイリス。それに紅茶も美味しい」
「よかったですわ、兄の治める領土で茶葉が今年は良く採れたそうで、送っていただいたの」
「そうか、ライナス殿が。後で礼を言わねばな」
「私から伝えておきますわ!」
アイリスはそっと紅茶の入ったティーカップを持ち上げてゆっくりと喉を潤す。
「そういえば、妃教育は順調か?」
「ええ、勉強もうまくこなせておりますし、所作やマナーなども問題なくこなせておりますわ」
「さすがだな、助かる」
「殿下の隣に立つためですもの。このくらいできて当然ですわ」
なんとも優雅で気品あるひとときがこの空間には流れていた。
二人は5歳の時からの婚約者で同い年。
母親同士が王立学園時代の学友で仲がいいことから、社交界で会う以外にも頻繁にお茶をして楽しんでいた。
そして同い年で誕生日も同じ男の子と女の子、つまりは今こうして優雅にお茶を楽しんでいるアイリスとルシアンも顔を会わせるようになり、惹かれ合った。
アイリスが7歳の頃からすでに妃教育は始まり、賢く気立ても良かった彼女はなんなく教育をこなしている。
そして今年の秋の誕生日には結婚をということで、明日は結婚宣言パーティーが大々的に開かれることになっている。
「明日の結婚宣言の衣装はもう決めているのか?」
「ええ、もう決めておりますわ。淡いブルーのドレスですわ」
「それは君に似合うだろうね。楽しみにしているよ」
◇◆◇
こうして結婚宣言パーティーが開かれ、そこには多くの貴族たちが参加していた。
王太子の結婚宣言という大きな舞台、そして妃となるアイリスのお披露目を皆楽しみにしている。
「いよいよですな、ライナス殿」
「ええ、これで肩の荷が一つ降ります。妹の晴れ姿を見れて私も嬉しいですよ」
襟足の伸びたジェイブルーの髪、そしてアメジストのようなくっきり紫の瞳は妹が現れるであろう大階段の上を見つめている。
すると、どこからともなく歓声と共に大階段の上を歩く男女の姿が皆の視線を集める。
「おお!!!! 殿下だ!!」
「アイリス様、綺麗!!!!」
二人とも見目麗しい美貌のため、会場中は大いに盛り上がりを見せている。
「いよいよですわね、殿下」
「ああ、アイリス」
そしてゆっくりと一歩、一歩、その歩みを進めて階段を降りてゆく。
(ようやくこの時が来たのね)
アイリスは長い妃教育と共に亡き母親のことを思い出して歩く。
そして、感極まって呟いてしまった。
そう、思わず呟いてしまったのだ。
「アイリスは幸せですわ、ルシアン様」
「──っ!!!!!!!!」
その瞬間、アイリスの隣にルシアンはいなかった。
ルシアンは階段から転げ落ちて、床に倒れ込む。
そして、彼はそのまま意識を手放した──
そう、アイリスのせいで……。
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