死に至る海岸線 後半
テオとその父を家へ帰した後、宿で話し合いを行うレオン達。その表情は暗い。
「今日の任務自体はなんとかなったが…」
4人の視線は彼女に向く。
「…何故私が狙われるのかしら?」
「あの黒いのはオリビアの方を見て上質な魂が、とか言ってた。治癒魔法とか使えるからじゃねえの?」
「可能性はありそうだな。俺は遠くからしか見えなかったんだが、何だったんだ?あの黒い魔物は…?」
「魔物かどうかも分かんねぇぞ。あいつ、ヴィンスの奴と何か喋ってた。魔物は言葉話さねぇだろ?」
「確かにな。じゃあなんて呼べばいい?」
「あいつ、あの黒い奴の事を彷徨える幽霊って言ってた。流石にそれが通称なんじゃねえの?」
「よし、明日ギルドに行って彷徨える幽霊に関する情報を調べる。それと同時にギルドへ協力を取り付けるぞ」
バーニィの発言に皆が同意する。
◇◇◇
翌朝。彷徨える幽霊と昨夜の話をする為、ギルドへ向かうレオン達だったがそこで見たのは自分達が思いもしないものだった。
「な、何があったんですか!?」
「裏ギルドの襲撃だ…」
「裏ギルド!?」
「ねぇノア。裏ギルドってなんだっけ」
「お偉い貴族様が邪魔者でも消す為に殺しでも依頼してる組織なんじゃねえのか?知らんけど」
「ほえー。よく知ってるね」
レオン達が現場の話を聞いている中、ノアとシャルは裏ギルドとは何かを話している。
「スライさん!?大丈夫ですか!」
「やめとけ。今彼は意識を失っている。下手に動かしては駄目だ」
「す、すみません…。ですがこちらも非常事態でして…」
「悪いがここ程の事とは思えんな。他を当たってくれ」
ギルド職員に冷たくあしらわれ、追い出されるレオン達。
「ふざっけんなよ!仲間の命の危機なんだぞ!」
「向こうも同様の危機に合ってんだ。落ち着けよノア」
「これが落ち着いてられるかって、、すまん」
怒り心頭のノアがバーニィの方を向くと自分以上に、しかしながら冷静に怒っているバーニィの姿があった。
「自分達の危機は自分達で守るしか無いって事だな。彷徨える幽霊について何か少しでも情報を得られないか調べるぞ。オリビアは今日絶対に単独行動するなよ」
「え、えぇ…。分かったわ」
「すみませーん!」
レオン達にギルドから出てきた女性が声をかける。
「さっきはうちの職員がごめんなさい。貴方達、何かしにギルドまで来たのよね?」
「貴方は?」
「私はミラ。この街のギルド職員として働いてます。数年前までは王都で働いてたんだけどね、向こうは子育てが大変だから去年ここに引っ越して来たの」
「何故声をかけてくれたんですか?」
「貴方達ってうちが出した指定依頼をやってくれてるパーティーでしょう?力になれるか分からないけど、話だけでも聞かせてくれない?」
5人はお互い顔を合わせ、彼女に話をする事に決めた。
「そうだったの。彷徨える幽霊、ね…。私は聞いた事は無いけど、ギルドの資料保管庫なら何か情報があるかもしれないわ。ギルドマスターに確認してみる!」
「ありがとうございます。僕達は夕方彷徨える幽霊を倒しに行くのでその時に来ます」
「分かった。私はギルドに居るから声かけて!」
数時間後。
レオン達は昨夜倒し損ねた彷徨える幽霊を倒す準備の一環として、街の図書館に来ていた。
「彷徨える幽霊ね…ねぇなぁ…」
「みんなちょっと来て!」
シャルが5人を呼ぶ。
「この本に載ってるこれ、似てない?ノア」
シャルが見つけたのは王国にまつわる伝説を集めた古い本。
「似てるな、黒いローブ姿の髑髏…。でもこれ彷徨える幽霊じゃねぇぞ?」
図の上には『死神らしき魔物』と記載がある。
「いや、案外当たりかもしれないぞ?死神といえば、死人の魂を持ってくやつだろ?あいつはオリビアの魂を狙ってる。共通点はある」
「皆ごめん、遅れた。今度は何か見つけた?」
3人が話している所にレオンが合流する。
「あぁ。それっぽい奴を見つけた…おいレオン。オリビアは?」
「え?さっき皆で話してたじゃないか。話し声が聞こえたよ」
「…どういう事?オリビアは来てないよ?レオンと一緒だと思ってたのに」
シャルの発言の後、全員が同じ結論に至る。
「「「「「連れ去られた」」」」」
◇◇◇
オリビアはレオンと近い距離で自身を狙う魔物の情報が無いか探していた。
「なかなか見つからないわね。そもそもあれがどういった魔物かも分からないし…」
「オリビア、こっち来て」
「シャル?どうしたの?」
「オリビア?」
レオンが隣の列から声をかける。
「シャルが呼んでるみたい。そっち行ってくる」
「分かった。気を付けて」
オリビアがシャルの声がする方へ向かう。
「何か見つけた?シャル」
「うん。手がかりっぽい」
「オリビアにも見て欲しくてな」
続けるようにバーニィの声が聞こえる。
「何を見つけたの、って…貴方は…」
オリビアの目の前にはシャルもバーニィも居なかった。その視線の先に居たのはー。
「レオー」
オリビアが直ぐ様レオンを呼ぼうとするが、口を塞がれ、両腕を拘束される。
暴れて抵抗しようとするも、睡眠魔法を使われ強制的に眠らされる。
「オリビア?呼んだ?」
「ううん、大丈夫。そっちで探してて」
「見つけたと思ったんだけどな、違ったみたいだ。何かあれば呼ぶ」
レオンがオリビアの方へ向かおうとするも、声を真似され妨害される。
その何者かはオリビアを連れ去り、この場から消える。
◇◇◇
レオンが図書館を飛び出そうとするも、バーニィに肩を掴まれ止められる。
「一旦落ち着け!何か痕跡は無いか探すぞ。レオン、オリビアの会話最後に聞いたのはお前だよな。どこに居た?」
「…ここより反対側。向こうの方だ」
レオンとオリビアが居た場所へ向かう。抵抗したような痕跡も見当たらなかったが、紙切れが1枚落ちていた。
『何も報告するな。お前達のみで昨日と同じ時間、同じ場所へ向かえ。万が一他人が確認できた場合、女の命は無い』
この文章を確認した4人は回復薬や装備を整え、ギルドへ向かう。
「皆、早かったわね。って…あれ、あの女の子は?」
「…待機させてます。何かあるといけないので。僕達はこれから討伐に行ってきます」
「そうだったの。気を付けてね」
「ママー!」
レオン達がその場を離れようとした時、ギルドの扉が開き男の子が飛び出してくる。身長からして4歳くらいだろうか。
「ルイ!」
「え」
「…?ルイ、お仕事終わるまで遊んで待ってなさいって言ったじゃない!」
「もーつまんない!おうち帰る!」
「お子さんですか」
「うん。うちは父親が居ないからね、私が仕事の時は見てくれる所で待ってもらってるの」
「ルイ君…というんですね」
「…この子の父親の名から取ったの。あの人もう居ないから」
「…ねぇママぁこの人たちだれ?」
「ママが一緒にお仕事してたの。これから冒険に行ってくるんだって」
「そうなの!じゃあルイのパパと同じだね!」
レオンが腰を下ろし、ルイと同じ目線に立つ。
「…君のパパは冒険に行ってるのかい?」
「うん!ずっと行ってるからまだ会ったことないの!」
「ルイ君!お姉さんともお話ししよ!」
レオンとシャルがルイと話す中、バーニィがミラに話しかける。
「もしかして、ルイ君のお父さんは…」
「えぇ、もうこの世に居ないわ。多分去年頃じゃないかしら」
「…直接看取った訳ではないんですね?あの子も会った事無いと言ってるし」
「それどころかあの人はルイの存在も知らないわ。私が言わなかったから」
「…」
「生きてたら、多分今年で三十一ね。冒険者時代に何かやったんだと思うわ。呪われてるって言ってたし」
「……僕達の師匠も、呪いの関係で三十で死ぬと言ってました。体調を崩しがちになり、最期は僕達の前から姿を消しました」
「え…」
「その人の名は、ルイス·バーネット。聞き覚え…ありますか?」
ミラはひどく驚いた顔をしている。レオン達を見渡し、何かを理解したような表情になる。
「そういう事ね…ルイスがやりたがってたのって、君達を強くする事か」
「すみません…僕達では師匠を止められませんでした。助けてあげる事も…」
「なーにを謝ってんのよ。私は一人であの子を育てる事にしたの。寧ろ死ぬって分かってたルイスに負担を背負わせたくなかった。勿論、簡単な事じゃなかったけどね。今日貴方達と会えて良かったわ」
「…何故?」
「何故って、そんなの当たり前でしょ。ルイスの事話せる人なんて、こっちには居ないからね。どんな事してたのかも聞きたいし」
「…終わったら五人で話しに帰ってきます。師匠の話も聞いてみたいです」
「えぇ。気を付けて行ってらっしゃい」
◇◇◇
「ん…ここは…」
オリビアが目を覚ます。両手両足は拘束され、柱に縛られている。
辺りを見回すと、船の内部のようである。自分は乗っていないが、ここは昨日戦ったあの船であると判断した。
「目覚めたか、至上の魂を持つ者よ。まさか丁寧に用意されているとは思わなんだ。人間とは理解しがたいものよ」
「貴方が…テオのお父さんを狙った魔物ね?」
「儂は魔物ではない。かつては儂も理の内に生きる人間だった。だが理を超えたこの力を手にし、今まで存在し続けておるのだ」
オリビアはこの髑髏の発言の要領が掴めなかったが、髑髏の手に現れた黒い炎を見せられ否応なしに理解させられる。
「それは…何…?」
「説明した所でどうしようもないがな。お主の魂は上質過ぎて触れられん。かと言って直接取り出そうものなら、精神の揺れが魂に響く。そこでこれにお主の魂を吸収させるのだ。痛みは無いぞ、直に意識を失う。そのままお主は人としての意識だけが死ぬ」
「嫌。そんな事にはならないわ。すぐに私の仲間が助けに来てくれる。それに私が抵抗しない筈が無いでしょ」
「お主こそ考えが甘いの」
髑髏の雰囲気が突如変わる。空間が冷え、オリビアは身体中に重みを感じる。
「何故儂が素直に話したと思う。ここから逃がさぬ自信があるからよ」
オリビアを縛り付けた柱が魔力を奪い始める。
「くっ…早く防御壁を!」
「無駄じゃ。そんな魔力消費の大きい魔法がこの状況で使えるわけが…うん?」
髑髏の言った通り、確かにバリアを貼る事は出来なかった。しかし、土壇場で魔力で魂を身体から逃さないよう抵抗出来ていた。
「ほぅ。自分自身の魂を捉える事が出来るとは。やはり儂の目に狂いは無かったようだ。どこまでその抵抗が保つか、見ものじゃの」
その場にオリビアを残し、髑髏は部屋を出る。
◇◇◇
夕暮れ時。レオン達は昨日と同じ海岸線にやって来ていた。しかし、彼らの纏う雰囲気はまるで違う。
「必ず取り返すぞ」
レオンの言葉に無言で頷く3人。この中で誰よりも責任を感じているのは彼だろう。
「レオン、焦るな。俺達をここに強制的に来るように仕向けたって事はオリビアが生きてる可能性は高い」
「大丈夫…大丈夫だ。行こう」
レオンの言う『大丈夫』とはバーニィ達に言ったものだが自分に言い聞かせているように彼等は感じ取った。
「見つけたぞ、昨日と同じ船。作戦確認だ、まずは俺が船の錨を下ろして動かなくさせる。それと同時に三人であいつが連れてる魔物を狩る。俺もすぐに合流する。終わり次第、全員で内部に突入するぞ」
「でもよ、どうやってオリビアを見つけんだ?船の構造なんか知らねぇぞ」
「そこは…全員で手当たり次第探していくしか無いな。行くぞ!」
バーニィが一番に近付き、持ち前の身体能力を活かして船に飛び乗り錨を下ろす事に成功する。
「皆、いいぞ!」
レオン達3人は身体強化を使い、鎖部分を利用して船に乗り込む。
そこに居るのは昨日と同じ多くの骨兵だった。
「時間かけてられねぇからな!さっさと通らせてもらうぜ!」
バスタードソードを大きく横に振り、骨兵達を砕いて行くノア。
「私達の仲間、返してもらうんだから!」
シャルは脚の身体強化と魔闘拳を使い、敵を一気に粉砕していく。
「さぁて…今日は優しくしてやれねぇぞ?」
バーニィが放つ闘気に、まるで一瞬怯えたような骨兵達。
しかしそれも束の間、すぐに襲いかかってくるも一撃一撃を的確に当て、骨兵の弱点である魔石を砕いて仕留めていく。
「どけ」
下へ続く階段の前にはノア達が対峙している以上に骨兵達が集まっている。レオンの行く道を阻止するかのように。
「俺は自分に何があってもオリビアを連れ戻す。そう覚悟してここに居る。だから…邪魔するな。複合魔法-炎雷一閃-」
レオンが剣の刀身に炎を纏わせる。そのまま横一文字に斬撃を放つと、一瞬の閃光の後骨兵達が次々と爆発し、砕け散っていく。
魔物達に脇目も振らず階段を降るレオン。
「必ず君を見つけ出す」
◇◇◇
「よーし!俺達もレオンに続くぜ!」
周囲の敵を全滅させたノア達3人は一足先に降りたレオンの後を追う。
「…?どれだ?」
ノア達が見つけたものは通路の先にある4つの扉。
通路の左側にある、手前から2番目の扉が開いたままになっている。
おそらくレオンはそこに行ったのだろう。
「レオンも重要だが、オリビアを早く探さないとだな…」
「バーニィ、俺ら三人固まって動いてちゃ時間がかかって仕方ねぇ。ここから先は別に行動してレオンと合流できればよし、できなくてもオリビアを見つけ出せればよし。そう考えようぜ」
「…ここから先何があるか分からないんだぞ?」
「そんなのさっきまでもそうだったじゃねぇか。今更だよ。なぁシャル?」
「全くもってその通り。お兄ちゃん、私達を信じて?」
苦い顔をするバーニィ。最年長として、2人から出た提案は受け入れがたいのだろう。
「…分かった。今俺達が言い争う時間すら勿体ないからな。良いな、無事に帰って来いよ」
「お互いにな。死んだら殴る!」
「全員でカナンに帰るよー!」
ノアはレオンの向かいの扉を、バーニィとシャルは手前の左右の扉を選び中に入っていった。
◇◇◇
「なんだここ…」
『何があるかも分からぬまま、我が内部に入ってきおったか』
バーニィの辺りは真っ暗であり、手元に火球を発動させる。
しかし、少し視野が広がるだけで部屋の全貌が見える事はない。
「声が聞こえるって事はここが当たりの部屋かい?」
『違うな。儂はこの船に縛られておる。お主達の動きは全て把握済みだ』
「そうかい。なら出るよ」
バーニィは踵を返し、部屋を出ようとするが扉が見つからない。
『儂が欲しいのはあの娘だけじゃが、せっかくやって来た餌を逃すつもりは無い。その火球を向こうに照らしてみるといい』
「…なんだこれ」
◇◇◇
時を同じくして、バーニィの反対側の部屋へ突入したシャル。
扉を開ける直前に手甲に魔力を流し防御体勢を整えていた。が、予想とは裏腹に何も起こらない。
「何ここー!?何も見えないんですけどー!」
『我が内部へよく来た…と言っておこうかの』
「誰?オリビアを攫ったやつ?」
『儂ではない。だが娘はこの船におるぞ。この部屋では無いがな』
「じゃあ敵だ!」
『その通り』
「なら、この部屋ぶっ壊す!魔闘拳-Lv4-」
シャルの周囲にスパークが流れ始める。発動させた魔力を両手のひらに集め、バチバチと音が鳴る。
「せーぇのっ!」
両手を合わせると、シャルを中心として大爆発が起きる。
『儂の内部に居ると分かってやっておるのか?とてもまともとは思えんの』
「だいじょぶかなと思って!って、何これ?」
バーニィとシャル、それぞれの前にあったのは自分達を丸ごと写し出す巨大な鏡であった。
『それは移魂鏡じゃ。説明せずとも何が起きるかすぐに分かる』
2人とも身体に電流が一瞬走ったような、違和感を感じる。
「どういう事だ…鏡に俺が写らなくなったぞ」
「何これ。私鏡に居ないんだけど?」
『お主の魂はその鏡に奪われたのじゃ』
「魂を…」
「奪われた…?」
『時が経てばお主達も自意識のみが崩壊するぞ』
◇◇◇
少し時は戻り、先に突入したレオン。己の直感だけを頼りに進んでいく。
「ここは…」
レオンは再度扉の前に対峙し、剣を構える。
そこには強力な結界が展開されていたからである。
「-抜剣三連-」
ルイスからもらった剣で三連撃を放ち、結界を破壊するレオン。その中に入ると柱に縛られて意識を失っているオリビアが居た。
「オリビア!」
「レオ…ン?」
オリビアはレオンの声に反応するも、意識が朦朧としているようだった。
彼女の拘束を解き、両腕で抱きとめる。
「良かった、本当に…無事で…」
「レオン…まだ…」
「早くここを出よう。君の安全が確保出来たら俺はあいつを倒しに行ってくる」
レオンはオリビアを抱きしめたまま、再度剣を取り天井に向ける。
「-焔柱-」
天井に穴を空け、脱出に成功するレオンとオリビア。
岩に寄りかからせ、オリビアを落ち着かせる。
「さっきは確認出来なかったけど、あの髑髏に何もされてないよね?」
「ごめん、レオン…もう一度私をさっきの部屋に連れて、行ってほしいの…」
朦朧とした意識の中で、オリビアは力強くレオンの手を握る。
「…何故?君は命を狙われてるんだよ」
「私の…魂はもう半分ぐらい奪われてるの…。今こうして話しているけど、自分の意識があの船にあるのを感じるのよ…」
一度安心したレオンの表情が、先ほどと同じように緊迫したものに戻る。
「レオン、お願い…私はまだ捕まってる…」
意識を失い、手から力が抜けるオリビア。レオンはその手を掴んで居たものの、葛藤しながらその手を離す。
オリビアの手を優しく置き、彼女を護るように防御壁を張る。
「ごめん…ここで待ってて。君の魂を取り返してくるよ」
再度船にレオンは突入する。
◇◇◇
「魂がこの鏡に奪われてる…?それなら!」
「開かない箱はこじ開けるしか無いよな!」
シャルとバーニィの取った選択は同じだった。両者とも、鏡を破壊したのである。
『なんと…迷いなくその選択を取られるとは。だが、その鏡を破壊した責任はお主達で取ってもらうぞ』
その頃のノアは部屋に居た大量の骨兵達に苦戦していた。
「馬鹿やろー!こんな多いとか聞いてねぇよ!てか俺雑魚退治多くねぇ!?」
バスタードソードを振り回し、骨兵を倒すも敵は無尽蔵に湧いてくる。その大剣では時折壁にぶつかり、かなり戦いにくそうである。
「マジでどうなってんだ、この数…ん?」
ノアが部屋の奥に光る何かを見つける。中央に赤い宝石が取り付けられた杯らしきものがある。
そこから一定のペースで頭蓋骨が落ち、そこから骨兵が誕生している。
「見つけたぜ!お前だな!」
ノアは骨兵を踏み台にして、一気に近付きバスタードソードで杯を切って破壊する。
切られた杯がずり落ちる時、辺りに叫び声が響き渡り宝石が破裂して周囲の骨兵達も消滅する。
「ふー…この部屋は外れみてぇだな。レオンが入ったとこ行くかー」
ドオォォォン!
その時丁度レオンが船を破壊してオリビアを避難させた音が聞こえていた。
「誰だ?船で大規模魔法使ってんのは、ってそりゃ昨日の俺もか!」
◇◇◇
自分が空けた穴から船に入り込むレオン。
オリビアが囚われていた部屋に戻ると先ほどまで彼女が捕まっていた柱に触れてみる。
すると自分の身体が柱に吸い込まれそうになる。
「多分これだよな…」
意を決して柱に吸い込まれていくレオン。
その中は神秘的な空間が広がっていた。円柱状に広がるその場所はレオンでも魂が保管されているのだと気付ける程だった。
「よく来たの。儂の収集部屋へ」
「お前か!」
すぐさま切りかかろうとしたレオンだが、髑髏にあるものを見せられ攻撃が止まる。
「まぁ待て。目先の事に囚われて目的を見失っとらんか?お主はこれを取り戻しに来たんじゃろ?あの娘の魂を」
髑髏が見せたのは鏡の中に眠るオリビアの魂。
「まさかあれを破られるとは思わなんだな。半分程しか奪えんかったわ。生者であれ程の魂であれば、儂はここから脱する事ができよう」
「あんたはなんの為に魂を集めてるんだ」
「一つはここから出る為の力に変換する為、もう一つは趣味じゃな。こっちもかなりの上物じゃ、見てみぃ。滅びた一族の英雄の魂じゃ。これは輪廻の輪に乗りかけていたのを偶然拾ったものじゃがあの大虐殺の夜にこいつを手に入れる事が出来るとはのう…」
「そんな話興味が無い。オリビアを返してもらう」
「無理じゃ。ここに入る事は出来ても魂を取り返せるのは己自身か、それに非常に近しい者のみー」
髑髏が言い切る前にレオンは鏡に手を伸ばす。触れるとそのまま手が鏡の中に入る。
「やっぱり。呼んでる気がしたんだ」
「馬鹿な…お主達はそれ程までに…!」
レオンを掴み、止めようとするも間に合わず鏡に入り込まれる。昨日オリビアを狙った攻撃と同じものを撃とうとするもやめる。
「この鏡の効力は儂が一番分かっとる。この状態では何もできん。…どうやら儂も、お前さんと同じ所へ行ける時が来たかもしれんぞ」
鏡には何もせず、上をただ見上げる髑髏。
◇◇◇
鏡の中は絶えず揺らめき、形が一定しない変わった空間であった。
その1カ所にレオンは強く惹かれるものを見つける。
膝を抱えうずくまるオリビアの魂の欠片。
『レオン…来てくれたの』
彼女にレオンは優しく手を伸ばす。
『君を迎えに来た』
その手を取るオリビア。
『どうやって…ここまで来れたの?感覚で分かる。私自身がここに居ない。船から降りてる』
『僕が降ろしたんだ。後先の事なんて気にせず、君の事だけを考えてここまでやって来た。昔からね』
『何それ…告白?』
オリビアがくすりと笑う。しかし、レオンは真剣な表情のままだった。
『そう捉えてもらっても構わない。でも、ここから出たらちゃんと伝えるよ』
レオンのまっすぐな言葉に顔が真っ赤になるオリビア。
『ちょっと…もう言ってるのと変わらないんですけど?それにこんな場所でする話でも無いし!』
『ははっ。さぁ帰ろう?』
オリビアを抱きしめ、レオンとオリビアの魂が重なり合う。
レオンの周囲を淡い光が舞い、まるで祝福を受けているようであった。
◇◇◇
「戻って来たか。勇者よ」
「突然なんだ」
「その鏡に入り、肉体を保ったまま戻って来た人間など見た事が無い。この儂ですら無理だった」
「そうか。俺は貴方とは違う、悪いがここで倒させてもらうぞ」
「良いじゃろう。相手をしてやる」
レオンは髑髏に切りかかるが、その黒い骨は硬く刃が通らない。
「なんて硬さだ…!-身体強化-」
「ほぉ、重ねがけか。なかなかやるの」
髑髏は自分の周囲に佇む黒い霧を操って自分の分身を生み出す。
挟み撃ちを仕掛け、レオンに水砲を浴びせる。
「人間に水責めは苦しかろう?」
上に飛び上がり、水責めを脱するレオン。
飛び上がった勢いのまま攻撃に移るが一方は硬度により、攻撃が効かないがもう一方は黒い霧の為攻撃は当たらない。
そのうちどちらが本体かも分からなくなり、2体の髑髏に翻弄されてしまう。
「うおおおお!!」
遂に本体の動きを見切り、剣は髑髏の眼窩側面を捉える。
剣は切る事は出来ず頭蓋骨の側頭部にヒビを入れるに留まる。
「お主の全力がこれなら、儂を倒す事は出来んぞ」
「まだだ!」
レオンの強い叫びに部屋に保管されていた魂が反応する。魂は飛び出しレオンに近付いていく。
異変を理解したのは髑髏のみであった。
「そんな事があるとは!」
レオンの方を振り向き、接触を阻止しようとする髑髏。一歩及ばずその魂はレオンを周囲を周り最後に一度だけ触れる。
「なんだこの感じ…力が溢れてくる!」
「目先の事に囚われていたのは儂の方じゃったか。まさか生き残りが居たとは…。なら話は別じゃ…お主の魂、もらうとしよう!」
「いいや、俺は絶対に皆と帰る。貴方と決着をつけて!」
髑髏は分身を消し、場所を船上に変える。レオンが周囲を確認している中黒い霧を収束させ攻撃を放つ。
「くっ!」
間一髪のところで攻撃を防ぐレオン。
そこにノア達が戻ってくる。
「レオン!」
「俺達も加勢するぞ!」
「そいつがノアが見たやつだね!」
レオンの元へ来ようとしていたノア達だが黒い霧を使った檻に拘束される。
「邪魔するでない。儂の最後の戦いじゃ。まさに最期に相応しい相手。熟しとらん所も評価が高い。お主の未来に期待じゃな」
「今、その期待に応えてやる!」
剣を握り直すと剣に炎、足に風魔法を付与し更に加速する。まっすぐ突撃するレオン。
「攻撃が単調じゃの。それでは簡単に対応されて終いじゃ」
黒い霧を細め、縄のようにさせてレオンに何本も向かわせる。
「-瞬光-」
「何じゃと!?」
髑髏の視界からレオンが消える。レオンは瞬光を使って髑髏の背後を取った。
「-烈火斬-」
攻撃力と身体能力が上昇していたレオンは髑髏を縦半分に切り裂く。
「見事」
「いや、皆の協力が無ければ貴方を倒せなかった。これは全員で掴んだ勝利だ」
「そうか…お主、やはり勇者に向いとると思うぞ…」
髑髏は崩れ去り、その場に何も残さず消えていく。
ノア達を拘束していた檻も消え、安心したのも束の間、船が大きく音を立てて壊れ始めている。
「本体が消えたからだ!すぐに向こう戻るぞ!」
「駄目だ、間に合わねぇ!海に飛び込もう!」
レオン達4人は甲板を走り、海におもいきり飛び込む。が、身体は濡れておらず、よく見ると水が避ける形でまっすぐ海岸に繋がる道が出来ている。
「皆!早くこっち来てー!」
「オリビア!おーし、皆走れーっ!」
レオン達の後ろでは船が崩壊を始め、かなりの勢いの波が迫っている。水を操作して道を開けるオリビアもかなり苦しそうだ。
オリビアの元へ到着するや否や全員波が届かない位置まで移動する。レオンはしっかりオリビアを抱きかかえている。
「君の魂、取り返せたよ」
「ありがと。私が一つに戻っていくのを感じるわ」
その様子を見ていたシャルは何かを思ったかのように表情がにやついている。
「あれあれあれ〜?何、二人いつの間にそういう関係になってんの〜?」
「!ち、違う!」
「そういうんじゃないから!」
恥ずかしそうにオリビアを降ろすレオンはシャルの言葉に一生懸命否定するが全く説得力が無い。
「え〜??ま、別に応援しますけど〜」
「なぁバーニィ。俺さ、あの骸骨がオリビアを攫ったとは思えねぇんだけど」
「俺もそう思ってたとこだ。あいつ、船に縛られてるって言ってた。となると、俺達とあの骸骨を戦わせた真犯人が居るって事になる」
「…後でもっかいギルド行くか?」
「あぁ。そうしよう」
船の残骸が残る海岸。そこにカイデンがやって来る。
「魂の操者…まさかあんな子供に斃されるとは。随分弱体化に成功していたとみえる。いや、部外者に斃されるようでは最早失敗か」
魔力で船を引き上げ、その中に降り立つ。
「やつが集めた殆どの魂に興味は無いが、やつ自身の残骸と…そう、これが欲しかったのだ」
カイデンの目の前にあるのはレオンの祖父、ルーファス·ヴァーミリオンの魂。
「この二つを奴に捧げれば…捧げれば?渡してやるだけだ。ソウルイーターの強化に繋がるからな」
◇◇◇
「なんという事だ。まさかあいつが斃されるとは、計算が狂った。しかしまぁいい。それ以上のものを見つける事ができたのだから。まさかヴァーミリオンの遺児が居たとはな!エリオット·ヴァーミリオンの息子、レオン·ヴァーミリオンに違いあるまい!これは是非ナサニエル様に報告すべき事案だ…!そうすれば私は…!」
ギルドの自室で声を荒げるスライ。そう、オリビアを連れ去ったのは彼だったのである。
「スライさーん。お客様が来てます」
コップにある水を飲み、時計を確認すると既に終業時間である。
「今か?…もう業務時間外だ。明日にしてもらってくれ」
「いやー、それは困りますね」
「何?」
その声の主は鍵を折って無理やり部屋に入ってくる。
同僚の職員の声から青年らしい声に変わる。
「な…何者だお前は!」
「貴方が装った裏ギルドの者ですよ。どうです?あなたの特技、なかなか上手いでしょ?」
顔が真っ青になるスライ。腰に隠し持っていたナイフに手を掛ける。
「そのナイフで私をどうにか出来ると思っているなら考えが甘いですね。いや、裏ギルドを使った時点で考えは甘いかぁ〜」
「若造が!!」
スライはナイフを投げようとしたが、全身に痺れを感じ動けなくなる。頭痛とともに喀血を起こす。立っている事が出来ず、倒れてしまう。
「ま、まさか…」
「何かやりたい事があったみたいですけど、残念でしたね。よく言われません?詰めが甘いって」
「…!」
「裏ギルドは無駄な殺しはしないんですよ?でもこれは、うちの名を傷付けた必要な殺しか。最期に役立てて良かったですね」
◇◇◇
「え!?」
「容態が急変したみたいでね…スライさん昨夜亡くなったのよ」
オリビアからスライに連れさられた事を聞いたレオン達は、問い詰めにギルドへ来ていたがミラに亡くなった事を聞かされる。
「無事、解決できたのね?」
「えぇ。もうこの街の事件は僕達が解決しました」
「あ、お兄ちゃん達だ!」
ミラの後ろからルイが顔を覗かせる。
「冒険おわったの?」
「まだだよ。また冒険に行くんだ」
「えー…またルイに会いにきてくれる?」
「勿論。また来るよ」
ルイの頭を撫でるレオン。ルイも撫でられて嬉しそうな顔をする。
「じゃ、話はまた今度来た時にでもしましょうか。忙しいんでしょ?」
「助かります。次はゆっくり出来るようにここにきます」
レオン達が街を出ようとした時、2人の親子から声をかけられる。
「あ、あの…!」
「テオか!もう大丈夫だよ。お父さんは?」
「先日はありがとう。正気を失っていたようで…。ご迷惑をおかけした」
「僕から言う事はもうありません。あの時言わせてもらいましたから。不快に感じたらすみません」
「そんな。君達のおかげで暮らしていける。感謝してもしきれない」
頭を下げるテオの父。レオンは手を差し出し、握手を求める。
「これからは二人で前を向いて生きていこうと思う。本当にありがとう」
「二人ともお元気で」
馬車に乗り込むレオン達。一時は危機もあったが、その表情は明るい。
「オリビアが連れさられた時はまじで焦ったぜ!」
「こんな事初めて有ったもんな。もっと成長しないと」
「私は戦いに参加出来なかったのが少し悔しいわ。一緒に戦えれば皆をサポートできたのに」
「でもねオリビア?ノアもお兄ちゃんも敵に捕まっちゃったから最後レオンだけで戦ったんだよ?」
「おい!シャルも捕まってただろーが!」
「はははっ。まぁ今こうして皆無事で居るんだ。それで何よりだよ」
「レオン…そうだな。全員で帰れるんだ、何も問題ないな」
出発するレオン達の馬車を関門の上から見下ろすヴィンス。
「まさか僕が捨てた依頼をCランクパーティーが攻略するとは…。彼等は評価以上の実力があるという事か。だがSランクになり、勇者になるのはこの僕だ…邪魔はさせないよ」
◇◇◇
耳に波の音が鳴り響いたような気がして、その音で目が覚めるレオン。
「夢か…随分懐かしい頃の事を見たな」
「レオン…?どうしたの…?」
隣で眠るオリビアがレオンに声をかける。まだ夜中という事もあり、声には眠気がある。
「五人で冒険してた頃の夢を見たんだ」
「そう…。久しぶりにこっちに戻って来たからかな?」
レオン達は条約を結ぶ日が訪れるまで、故郷であるカナンに戻ってきていた。
「…船に居た髑髏の幽霊と戦った時の夢だったよ」
「私がギルドの人に捕まったやつね。あの時のレオン、とってもかっこよかったよ」
隣で横になるオリビアの手をレオンは優しく、しかし力強く握る。
「急にどうしたの?この手」
「絶対離さない。これから先もずっとだ」
「しっかり掴んでてね。私も離す気は無いけど」
オリビアの言葉を聞いた直後、レオンは彼女は抱きしめ、口吻を交わす。
「俺が守る。約束する」
「私も君を守る、そして支える。お互いにね」
夜更けの雨の音が5人の故郷に拡がっていく。
◇◇◇
王国のとある北の地にて。2人の男が地下遺跡に侵入し、何かを探していた。
「お、おい…本当にこんな所にあるのかよ?」
「間違いねぇ。俺がわざわざ国が管理する資料庫に行ってまで調べた情報だぞ?そんなに信用できねぇってのか?」
「そ、そうじゃねぇけどさ…手付かずの遺跡に俺らだけだぞ…?心配にもなるって…」
「ったく、情けねぇなぁおめぇは。そんなんだから俺の子分呼ばわりされんだ。しっかりしろ!」
「わ、分かったよ…。ん?お、おいあれ…」
長身の男が指を指す方向には石碑らしきものが見える。その男が指したそれを認識すると、男は慌てたように駆け寄る。
「聞いてた通りじゃねぇか…ほんとにあるとはな!」
「え…。おい、ちょっ…待ってくれよ!なんだよ、そんなに慌てて…」
「情報が確かなら、この石碑はこの先に眠ってるとんでもねぇもんを記したやつらしい…」
常用する文字とは違う文字で記されているその石碑を読み進める男。連れてきたもう1人を置いて石碑を解読すると、更に奥へ足を進める。
「なぁっ!そんな奥行って大丈夫なのかよ!?」
「おいおい…俺が信用ならねぇか?待て、見つけたぜ」
そこには棺らしきものが蔦に覆われて安置されている。
「よし、袋に入れてあるあれ、寄越せ」
「ほんとかよ…?それ王族かなんかの棺だったりしねぇのか?」
「そんなもん心配要らねぇよ。探してる物はこの中にある…!」
男は蔦を引きちぎると、棺らしき物の箱に手をかけ、隙間を作り、棒を挟ませ抉じ開ける。
「…?な、なぁ…。何でこんなもんが中に入ってんだ…?」
「知るかよ。ただこいつを探してたんだ…」
-ごくろう。これで私達は解き放たれる-
「な、なんだ?この声は…」
「…?お、俺はなんで…」
-礼としてお前達二人とも私達と共に居る事を許そう-
2人の命は声の主にあっさりと奪われる。
-さぁ私達も行こうかアナスタシア-
ご覧いただき、ありがとうございます。
後編も一万字を超えてしまいました。
当初の考えでは一編に纏めた上で一万字程を想定していたのですが、プロットが膨らみかなりの文量になった時点でまずいと感じました。
更には書くほどプロットに無いものも生まれてきます。流石に分けて正解でしたね。2部もそろそろ始められるよう、頑張ります!
閲覧ありがとうございます。
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