-Prologue- 願い
あぁ、我等を救い給え。尊き女神よ-
誰かが教会で祈っている。全身をコートらしきものに包み、顔はフードで見えない。
やめて。私はそんなのじゃない。
救え?誰かが私を救ってよ。助けてよ。
私には何も無い。もう私の周りには誰も居ないのに。
-そんなことを考えるんじゃない。お前の側には私が居るだろう?-
あんたは消えてよ。無理なら私が消えるから。
-無理だな。ここから逃れるには自分の存在を誰も認知しなくならなくてはな-
………
-そうやって都合が悪いと無視か。いつまでそんな子供じみた事をするつもりだ?…まぁ、いい。お前が自由になる事は叶わん。ここから出るとすれば、私と共にだ-
何でこんなことになったのかな…
-お前が生きる事を望んだからだろう。お前が死ねば、先の悲劇は起こらなかった-
あれは…あんたが私を騙したから…!
-騙してなどいない。あれは契約の結果だ。見ろ、信者が帰って行くぞ-
いい。興味ない。どうでもいいよ…こんな偽物を信じてる人なんか…
-お前が偽物だろうと信者にとっては本物だ。事実、我等の肉体には神が宿っているそれは何故か。分かるよな?お前が…-
あぁ…早く楽になりたい…ここから解放されたい…
……消えたい…
誰か、私を――して…
◇◇◇
信者らしき人物は教会から出てくると、空を見上げ、太陽に向かい手を伸ばす。
「我が主よ…貴方の仰ることは正しかった。私が、私こそが天からの遣いなのだ!役目を果たします…勇者抹殺を…」
虚空に向かってそう叫ぶと、空に浮かび、飛び去っていった。
「何?あいつが勇者の抹殺に向かった?不味いな…」
「しかも、最近奴らも動いているらしい。このままでは我等が主とあの御方の野望が…」
「あぁ…ここは俺が行く。お前は魔王城に待機していろ。ソウルのやつも警戒しておけよ」
「グリム…分かった。あいつに勇者を殺されないようにな…」
「任せておけ。お前も気を付けろよ」
そう言うと、グリムは転移魔法でその場を離れる。
一人になった彼の元に、誰かがやって来る。
「何の用だ。ナイトメア」
「いきなりきついなぁ、ジョーカー。こんなとこで仲良くお喋りか?」
「黙れ。貴様には関係ない」
「ヴァーミリオンか…懐かしいな。前にそこを襲撃した時にいい女と戦った…」
「お前の昔の話など知ったことではない。失せろ」
「まぁ、そう言うなよ。俺も勇者と戦いに行こうかと思ってな」
「なんだと…?お前に出撃の許可は出てないぞ」
「もう、あの契約は履行した。もう自由にさせてもらうとするかな…?」
「それを聞いて、私が許すと思うか?」
ナイトメアを睨むジョーカー。
「お前とやる気は無い。まだ、な…」
そう言い、もと来た道へ振り返るナイトメア。だが、ジョーカーは未だに彼を警戒している。
「そう睨むな。だが、いずれはある事だ。じゃあな」
「…」
◇◇◇
真っ暗な空に、黒い雨が降る。その空の中をただ突っ切り、上空へと飛び続ける者とそれを追う誰か。
「…様、無理です!これ以上御身体を酷使してはなりません!」
「出たいのだ…この世界から!お主も分かるであろう!?」
「ですが…それには楔が無くならない限り、無理です!」
「何故だ…何故、我等はこのような仕打ちを受けねばならぬ。ただ、『魔王』を取り戻すべく、この世界から出たい。それだけだというのに!」
「冥王様…」
誰かの叫びが虚しく響いた。