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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゾ・ン・ビ・ノフ・ク・シュ・ウ

※この作品には「嘔」という文字と「吐」という文字がひんぱんに使われております。身の危険を感じた方は閲覧をお控えください。


この作品のコンセプトは「読んだ人が思わずもらいゲ○をしたくなる話」です。

 


 その男の死はとても無残なものであった――



 とある田舎の村にその男はいた。男は家族のいない独り者で職に就かず・・・いや、村の中では職に就くことも許されず、村人全員から「ある理由」で嫌われ、そして差別を受けていた。


 激しい雨が降っていたある夏の日の夜、雨の激しさと同調するかのように、怒りに達した村の若者たちによって広場に連れてこられたその男は、集団で殴る蹴るの暴行を受け、やがてぐったりとして動かなくなった。

 その男はすぐに、村人たちによって小高い丘の上に運ばれていった。運ぶ最中、全身傷だらけのその男の体内から大量の血がしたたり落ちていたが、全て雨によって流された。小高い丘の上には長い年月によって朽ち果てた石像が立っており、その像の前にあらかじめ掘られていた穴に、棺にすら入れてもらえない状態で、そのまま土の中に埋められてしまった。



「何で? オレ・・・な・・・ん・・・」



 その男は埋められたときに、わずかながら意識があった。薄れゆく意識の中で、なぜ自分がこのような理不尽な暴行を加えられたのか納得がいかない様子だった。



(全て・・・終わりにしよう)



 そう強く誓ってその男は息を引き取った。この夜、雨は激しく降り続いていた。




 それから13日後の夜――


 この日も雨が降っていた。13日間、誰も寄り付かなかった小高い丘の上にある怪しげな石像の前、少し土が盛り上がった場所から――


 青白い人間の手らしきものが、まるで人知れず生えてきた雑草のように土の中から飛び出していた。すると、雨に打たれたその青白い手が


 〝ピクッ〟


 と、まるで電気で痺れたかのように一瞬だけ動いた。その後、しばらく動きがなかった青白い手が突然、ギュッと雨で濡れた地面を握りしめたとき、


 〝ゴロゴロゴロ・・・ガッシャーン〟


 この日の夜は雷雨のような強い雨ではなかったのだが、不思議なことに一度だけ大きな雷が発生して石像の上に落ちた。

 するとその雷にエネルギーを与えてもらったかのように、青白い手が力強く動き出した。やがて泥だらけの地面から少しずつ人の形をしたものが這い出し、全身が地面から現れるとしばらく動きを止め、その後ゆっくりと立ち上がった。

 出てきたのは・・・13日前に殺された「その男」だった。そう、その男は



 ――ゾンビとなって復活したのだ。



 立ち上がったその男・・・いや、ゾンビは、しばらくふもとにある村の方向を見つめてから、1歩・・・そしてまた1歩・・・村に向かって歩き出した。



 ※※※※※※※



 翌日・・・この日は雲ひとつ無く晴れ渡り、朝から気温が高くなっていた。この日は村の夏祭りが行われるので、村人たちは朝から準備に追われていた。

 人々は朝から祭りを心待ちにしていて、とても楽しい雰囲気が満ち溢れていた。14日前にあった「出来事」など誰も気に留めていなかった。


 一方、ゾンビは、とてもゆっくりとした足取りで一歩一歩、村に近付いていた。ただ、殺された時の外傷がひどく、傷口の腐敗が早く進んでおり、時折何か液状のものが指先からポタッ・・・ポタッ・・・と垂れていた。


 祭りが始まった。村人は全員集合していており皆、祭りを楽しんでいた。酒を飲み、料理を振る舞い、楽器を奏で歌い踊っていた。


 ――この後、村に起こる惨劇など知る由もなかった。


 村の入り口には見張り台が建っている。元々は山賊や狼から村を守るための物であったが、ここ10年は村が襲われたこともなく、人々は平和に暮らしていた。


「おーい、そろそろ交替するかー? 」


 村の若者が見張り台に上ってきた。お祭りを楽しみたいので交替で見張りを担当している。上ってきた若者はかなり酒に酔っているようだ。


「今年はいつになく盛り上がっているよなぁ」

「あぁ、あの男がいないからな」

「おいおいよせ、あの男の話は・・・酒が不味くなる」


 見張り台からは祭りの様子もうかがうことができた。楽しそうに歌い踊る村人を遠目に見ながら見張りの若者が言った。


「しかし・・・良かったのかな? あの男で」

「仕方ないだろ、他に対象者がいないんだ・・・アイツが適任だ」

「そうだな・・・『あのお方』もわかってくださるよな」

「ああ、さっき『姫様』もそれで良いと言ってくださった」


 そんな話をしていると見張りの若者が、村に通じる一本道のはるか向こうに、何やらうごめくものを見つけた。


「ん? 」


 人のようだったが、その動きは鈍く、ゆっくりと・・・しかし、確実に近づいているように見えた。明らかに不審な動きだ。だがもしかすると、他の村からやってくる途中で怪我をした旅人かもしれない。

 もう1人の酒に酔った若者が望遠鏡を取り出し、そのうごめくものを見た。


「なっ何だありゃ!? 」

「ん? どうした? 」


 望遠鏡を覗いていた若者が正体に気付いた。人のようだがその顔は灰色と青を混ぜたような無機質な色をしていた。左腕は人とは思えない方向に曲がっており、血の跡だろうか? 黒ずんだシミのような物が全身を覆っていた。


「ウソだろ? ・・・あの男にそっくりだ」

「バカ言うな、死んだはずだぞあの男は」


 若者はすっかり酔いから醒めてしまった。そう、村に向かって歩いているのは、2週間前に彼ら村人によって惨殺され埋められたあの男だったのだ。生きていたのだろうか? だが、村人たちはその男が死んだことを確認してから埋めたはずだ。酔いから醒めた若者はもう1人の若者に望遠鏡を渡した。


「まさか・・・ゾンビか? 」


 望遠鏡を渡されたもう1人の若者がそうつぶやいた。そう、この村には昔から強い恨みを持ったまま死んだ者が13日後にゾンビとして復活する・・・という言い伝えが存在した。だが、それはあくまで言い伝えで、実際にゾンビを見たという記録など残っていなかった。


「冗談だろ? 誰かお祭りの余興で仮装してるんじゃ・・・」

「そう思いたいが・・・アレは間違いない」


 顔はただれており見るも無残な状態だが、確かにあの男の面影はある。ゆっくりとした足取りで村に近付いている。


「マズいな・・・お前は村の皆に応援を頼んでくれ、俺は食い止める」

「わかった、気を付けろよ」


 2人の若者は見張り台を下りた。



 ※※※※※※※



 祭り会場に向かった見張り役の若者は、すぐさま村長に事の次第を報告した。祭りは一層の盛り上がりを見せていた。村長は少し驚いた様子だったが、祭りの妨げにならないよう冷静さを装い、やがて威勢のいい村の若者を集め、何やら極秘裏に話し合いを始めた。

 威勢のいい若者たちは祭りの会場をこっそりと抜け出した。彼らは・・・そう、あの男を惨殺した者たちだ。彼らは各々の家から銃や、武器になりそうな農具を用意すると一斉に村を飛び出した。

 若者たちが村を出ると、すぐさま見張り台にいたもう1人の・・・先に行ってゾンビを食い止めようとしていた若者が血相を変えて戻ってきた。


「たたたっ大変だ! や・・・やっぱりあの男だった!! 」


 手には刀剣を握りしめていたが戦った形跡がない。


「やっぱりゾンビだったか? でも・・・その刃を見る限りお前は何もせずに逃げてきたというのか? 」

「あっあああ当たり前だ! あんなのには近付くことさえできないぞ! 離れた場所から攻撃しないと・・・じ、銃が必要だ・・・うわっ! 来た」


 すると、命からがら逃げてきた若者のはるか後方から、ゾンビが1歩、そしてまた1歩と近付いてきた。


「情けねぇなお前は・・・あんなのただの()()じゃねぇか」


 威勢のいい若者の1人がそう言うと、銃を持っている者たちが前に出てきた。しかしゾンビは、銃を持った村の若者など意に介さず近付いてきた。

 だがここで疑問が残る。確かにゾンビは普通の人間とは違う能力があるのかもしれない。しかし、所詮は生身の人間(死体)だ。強力な武器を持っているわけではない。なのになぜ、最初に食い止めようとした若者は、ゾンビに近付くことさえもできなかったのだろうか?


 ――その答えはすぐにわかった。


「こんなヤツ、撃ち殺して粉々に砕いてやる! ・・・ん? 」

「何だ? この臭いは? 」

「くっ・・・くせぇっ! 臭くて吐き気がしそうだ」


 銃を構えた男たちが、次々と異様な臭いを感じていた。


「コイツだ! コイツがメチャクチャ臭いんだ! 」

「おっおえっ・・・気持ち悪い」

「だっダメだ・・・おえぇえええええええええええ」

「ゲロゲロゲロゲローーーッ」


 その臭いを嗅いだ若者たちは次々と嘔吐してしまった。そう、今は夏・・・2週間も湿度の高い土の中に埋められていたその男は、通常より早く腐敗が進行してしまい、想像を絶する臭さのゾンビとなっていたのだ。


「うっ! ひっ怯むな! 撃てぇー! ・・・うっ! 」

「ううっぷ・・・」

「うっぷっ・・・」


 〝パンッ〟〝パーンッ〟


「ぶひゃ! 」

「うげぇっ! 」


 若者たちは逆流した胃の内容物を口の中に溜め込んだ状態で次々と発砲した。発砲の衝撃で、口の中に溜め込んでいた物が一気に溢れ出てしまった。しかし、この発砲がさらなる悲劇を招いてしまった。


「ウゥッ・・・」


 ゾンビが小さくうめいた。するとその銃弾の当たった場所、体内のさらに腐敗が進んだ臓器から何らかの液体と臭気が外に漏れだしてしまったのだ。


「おっおえぇえええええええええええ! 」

「たったまらん、とりあえず逃げろ! 退却だ! そして村の者たちに早く避難するように伝えろぉおおおぇええええええゲボゲボーッ」


 若者たちは急いで村に逃げ帰った。ゾンビはゆっくりと後をついていく。何人かの若者は散乱した嘔吐物に足を滑らせその場に転倒した。全身嘔吐物まみれになってしまった。


「うわぁああ・・・たっ助け・・・て」


 転倒した若者は道路の脇に避けたが、もう逃げられない、このままゾンビに殺される・・・いや、もしかしたら食べられるかもしれない・・・腐敗臭と胃液臭に包まれた状態で死を覚悟した。

 するとゾンビは、道路の脇に避けた若者には見向きもせず、ただひたすら村を目指して歩いて行った。


「助かった! でもアイツ、俺たちに『復讐』するんじゃないのか? 」

「もしかして・・・俺たちじゃなくて、村に『復讐』しようとしているのか? 」


 命からがら助かった若者たちは疑問に思った・・・だがゾンビの腐敗菌の臭いと自分たちの嘔吐物の臭いが鼻腔内に入った瞬間、再び嘔吐した。



 ※※※※※※※



「大変だー! ゾンビだ! ゾンビが来るぞーっ!! 」


 パニック状態になった若者たちが大きな声を上げて村に戻ってきた。だが、祭りは最高潮の盛り上がりに達しており、祭りを楽しんでいる村人にとって彼らの叫びは、何らかの余興程度にしか聞こえていなかった。


「おやおや、ゾンビが来るそうじゃ」

「面白いわ、誰が仮装しているんでしょう? 」


 皆、祭りのために持ち寄った料理に舌鼓を打っていたが、やがて誰からともなく異変に気が付きはじめた。


「あら? 何かしらこの臭い」

「何か・・・臭いのぉ」


 すると口を手で押さえた若者たちが


「はっ早く! 村の入り口を塞げ! 」

「だ・・・ダメだ、もう・・・近づけない・・・おえぇえええ」


 村の入り口の扉を閉めようとした若者が、嘔吐してその場に倒れ込んでしまった。そこへやって来たのは


「・・・ウ・・・ウゥ・・・」


 うめき声を上げながら村に到着したのはあの男・・・いや、今はゾンビだ。


「あぁっ!! ・・・この男は・・・おえぇえええええええええええええええ」

「間違いない、アイツだおぇええええええええええええええええええええええ」

「生きてやがっおぇええええええええええええええええええええええええええ」


 村人たちはこのゾンビが2週間前、若者たちに殺されたその男だと気付くのと同時に、ゾンビから発せられる尋常ではない臭気によって次々と嘔吐していった。

 ゾンビは、村人に直接危害を加えようとはしなかった。ただ、腐りかけた手足を大きく振り、液状化した皮膚・・・いや、腐敗菌を村じゅうの至るところに撒き散らしている()()だった。


「うわっ汚いっ! 触ってしまった・・・くっせおぇえええええええええええ」

「いやーっ! せっかく作った料理におぇええええええええええええええええ」


「なっ何だアイツは・・・この村に『復讐』しに来たのか? おぇえええええ」

「いや・・・復讐というよりも・・・」

「よりも? 何だよ? 」

「単に『悪臭』を巻き散らかしに来たように見え・・・おぇええええええええ」


 ――!?




 ――そのとき、「作者」はある大きなミスに気が付いた。




 この作品のタイトルは「ゾ・ン・ビ・ノフ・ク・シュ・ウ」となっていたが、本当は「ノフ」ではなく、カタカナの「ア」と書く予定であった。つまり


「ゾ・ン・ビ・ノフ・ク・シュ・ウ」【ゾンビの復讐】ではなく

「ゾ・ン・ビ・ア・ク・シュ・ウ」【ゾンビ悪臭】が正式なタイトルだ。



 こんな初歩的なミスに気付かなかったなんて・・・作者は己の無能さを恥じた。



 ※※※※※※※



 村の楽しい夏祭りは一転、復讐・・・もとい、悪臭の地獄絵図と化していた。


「おぇえええええええええええええええええ」

「げほっ、げぼっ! ・・・げぼげぼげぼっ」

「うげえっ! げろげろげろげろげろげろっ」


 村じゅう至るところに〝ベチャベチャッ〟という音と共に嘔吐物が散乱した。この日は晴天に恵まれ、気温も高くなっていた。前日に降った雨が蒸発していくのと同時に、散乱した嘔吐物の水分も蒸発して大気中に拡散された。さらに・・・


「ウゥゥ・・・」

「キャァアアアアアアア! 」


 ゾンビと鉢合わせになった村人の多くが、そのグロテスクな見た目から恐怖のあまり次々と失禁してしまった。「尿失禁」に「便失禁」・・・村はたちまち、ゾソビによる「腐敗臭」と嘔吐物による「胃液臭」、そして失禁による「糞便臭」という三つどもえの悪臭に支配されてしまった。

 その悪臭に加え、放置されていった料理の良い匂いが合流し、それが逆に気持ち悪さを引き立たせてしまい、カオス状態となってしまった悪臭によって更に村人が嘔吐(もらいゲロ)するという「負のスパイラル」ならぬ「()()()()()ラル(胃液だけに)」が完成してしまった。


 誰一人、暴力を振るわれることがなかったのに、なぜかバタバタと倒れ込んでいる村人を尻目に、ゾンビはある場所へ向かっていた。

 そこは村の中で最も立派な建物、役場も兼ねている村の集会所だ。入り口には体格のいい2人の護衛が顔に布を巻いた格好で、集会所の入り口と、自分の口と鼻を守るように立ちはだかっていた。


「ゾンビめっ、ここから先は1歩も通さん! 」


 するとゾンビは、うめきながらある言葉を発した。


「ウゥゥ・・・ナ・・・ゼ・・・」


 ゾンビは、なぜ自分が理不尽な殺され方をしたのか知りたかったのだ。すると護衛の1人が言った。


「だって・・・お前は引きこもりニートで、しかも風呂にも全然入っていなかっただろ! お前は生きているときから臭かったんだよ! たまにお前が外に出ると悪臭が漂って村の皆が迷惑していたんだ! だから今年の『生贄(いけにえ)』は満場一致でお前に決まったんだよ」


 生贄とは・・・実はこの村では100年に一度、村に災いをもたらす魔王に生贄を捧げるという風習が存在していた。今年が生贄を捧げる年に当たっていた。

 本来は10代の処女が生贄になるのだが、近年の高齢化、男女差別撤廃の風潮、処女率の低さなどが相まって対象者が現れず、今年は「もう誰でも良くね? 」「じゃ、村で一番迷惑なヤツ」という理由からその男に白羽の矢が立ったのだ。

 だが、もしかしたらその男がゾンビとなって復活したのはそんな()()()()()()が仇となってしまったのかもしれない。


「ウッ・・・ウゥウウウウー! 」


 ゾンビは初めて怒りに震えたようなうめき声を上げた。どうやら「対象者がいないんだったらそんな『悪習』やめてしまえばいいだろ? 」と言いたげだった。

 その隙に護衛は剣を取り出したが、ゾンビは腕を〝ブンッ〟と一振りすると、腐敗して液状化した皮膚が護衛たちの目に付着した。


「うわっ! 目が・・・目がしみるぅうう! 臭いも取れねぇ! 」

「くっせぇ! お・・・おぇえええええええええ」


 護衛たちは前が見えない状態で右往左往した挙句、向かい合った状態でお互いの顔に向けて嘔吐し、そのまま倒れた・・・相打ちだ。



 ※※※※※※※



 ゾンビは集会所の扉を開けた。ドアノブから大量の腐敗した皮膚が滴り落ちていた。どうやら中に誰かいるらしい。

 役場として使われている部屋に入った。机が並べてあるが誰もいない。するとゾンビはその奥にある村長室の扉を開けた。

 部屋の中には立派な机と椅子が置かれていたが誰もいないようだった。すると、無人のはずの椅子がわずかに〝カタッ〟と音を立てた。

 ゾンビはゆっくりと机の周りを移動すると、小刻みに震えている椅子をどけた。


 そこには、鼻をつまんで口を布で覆った1人の少女がガタガタと震えながらうずくまっていた。


「おっおおおおお願いだ、ボッボクを殺さないでくれぇ・・・」


 命乞いをしている少女・・・実は村に災いをもたらす魔王の娘で、ピーノ姫と呼ばれる魔界の王女であった。

 このお祭りは元々、災いを防ぐための生贄と同様、魔王の機嫌を損ねないようにするためのお祭りで、姫は視察のために来賓として招待されていたのだ。


「ウゥゥ・・・」


 ゾンビは何か言いたげだった。


「なっ何だ! 何が望みだ? 」


 姫が声を震わせて叫んだ。するとゾンビは


「・・・アクシュウ・・・ヤ・メ・・・ロ」

「いっいやいや、悪臭はお前じゃないか? 」

「チ・・・ガ・ウ・・・アクシュウ」


 どうやらゾンビは生贄という『悪習』を廃止しろと訴えていたようだ。


「わわっわかった、魔王様(お父さま)に伝えておく。そもそも過疎化して高齢者(ジジィババァ)ばかりだし、若い娘もヤリマンの非処女(ビッチ)しかいねーし、生贄の対象者がお前みたいな臭いキモヲタニートじゃ割に合わん! もうやらないョ、約束する! 」


「ウゥ・・・」


 どうやらゾンビは納得したようだ。姫も自分が襲われないことを察したのか安堵の表情を浮かべた。するとゾンビは姫に向かって()()を差し出した。


「ジャ・・・アク・・・シュ」

「え? 悪臭? 悪習? 」

「・・・アクシュ・・・」


 どうやらゾンビは『握手』を求めているようだ。


「わっわかったョ、握手すればいいんだろ? 」


 早くこの状況から脱却したかったので姫は渋々右手を差し出した。ゾンビは


「チガ・・・ウ・・・リョウ・テ・・・」


 ゾンビは両手での握手を要求した。姫はマジ勘弁と思ったが嫌々両手を差し出した。ゾンビは姫が差し出した両手の上から包み込むような形でそっと握手をした。


 ――すると奇跡が起こった。


 腐敗して溶けたゾンビの皮膚が姫の両手に、まるで溶岩が流れるように伝わっていったのだ。そして姫はこのとき、自分の鼻をつまんでいた手を放していたことに気が付いた・・・あ、奇跡でも何でもなかった、すみません。


「ギッ・・・ギャァアアアアアアアアア・・・おぇえええええええええ」


 目の前にいるゾンビの悪臭をモロに吸い込んだ姫は、村人からもてなされた大量のごちそうを、細かく砕いた状態で全て「返却」して、悲鳴を上げ白目をむきながらその場に倒れ込んでしまった。



 ※※※※※※※



 この騒動で、死者や怪我人はいなかったものの、魔界の姫を含め、村人全員が臭いに耐えきれず嘔吐して気絶してしまった。


 ――ゾンビは悪臭漂う村を後にした。


 ゾンビは満足したようだ。自分は犠牲になったが、そのせいで生贄という悪習を断ち切ることができたのだ。


 ゾンビは空を見上げた・・・清々しい青空だ。だが、その強い日差しを浴びた瞬間、ゾンビは無性にクシャミがしたくなった。


「ア・・・ア・・・()()()()()ッ!! 」


 クシャミをした衝撃で、辛うじて形を保っていたゾンビの、腐敗して液状化した皮膚や筋肉組織が一気に振るい落とされた。



 ――骨と液体だけになったゾンビは、その場で2度目の「死」を迎えた。



 その後、意識が戻った村人は全員、村を捨てた。建物や道路に付着した臭いが全く取れず、ここに留まることが不可能になってしまったのだ。

 また、他の村に移り住んでも、体に染みついた悪臭が全く取れず、移り住んだ先の村人から嫌われ、仕事に就くことができなくなった。そのため、家に引きこもりリモートワークや内職、ニートとして生活するようになり、外に出ることはほとんどなくなってしまった。


 そして、ゾンビと握手をした魔王の娘、ピーノ姫は・・・


 両手に付いた悪臭が全く取れず、「両手が臭い姫」として嫌われてしまい一生結婚ができず、後継ぎが出来ぬまま約500年後に魔界は滅んだ。




 ――ゾンビの願い通り、全てが終わった。






 ※※※※※※※



 ゾンビの願いは終わったが、作者の願いはまだ終わっていなかった。

 実はこの作品で、1ヵ所だけ


「ゾ()ビ」を


「ゾ()ビ」と


 間違えて書いてしまいました。

 どこを間違えたのか探してください・・・お願いします。


 最後までお読みいただきありがとうございましたおぇえええええええええ


 この作品は、私の連載小説「女子高の問題教師と40人の変態たち」第16話「【出席番号15番】小永田 姫 (こながた ひめ)」の中で、H組の生徒が観に行った映画のストーリー・・・という設定です。実際にこんな映画があったら絶対チケット払い戻ししたくなるようなクソ映画ですよね?


 作中に魔界の姫が出てきますが、当初この設定は考えていませんでした。元々短編として考えていましたが、「女子高の――」で関連付けてしまったので無理やりストーリーに組み込んでみました。ちなみに魔界の姫の名前は「ピーノ姫」でしたが、ピーノとはイタリア語で「松」・・・つまり「松姫」で、「女子高の――」16話のヒロインは「小永田 姫」・・・小菅村にある「小永田トンネル」の隣は・・・「松姫トンネル」です。


 なお、この作品はフィクションです。実在の地区名やトンネル名、歴史上の人物とは一切関係ありません。

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[一言] エッセイから読ませていただきました。。 良いですね、作品からどことなく昭和のギャグマンガ臭が漂ってきますよ!(コロコロやボンボンにありそうな雰囲気) 自分は昭和なので気になりませんが、若…
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