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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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ディムルの本領①


 一夜明けた。


 カナミはディムルの顔が見れなかった。

 そそくさとディムルと別れ、城内を回る。



「ああ、時間を巻き戻したい……」



 顔に熱がこもる。

 支えるべき、王子殿下の前で涙を流した。

 3つも下の子供の前でわんわん泣いた。


 あまつにも、泣き疲れて眠りだすなど……。



「はぁーっ」



 大きくため息をつき、流れる小川をのぞき込む。


 カナミの眼の下には、泣きはらした跡が残っていた。



(少し、すっきりしたかもな……)



 あれだけ大声で泣いたんだ。そうでなくては困る。


 カナミは拳を強く握った。



(やることは変わらない。王子殿下を守り、この城都を脱出する)



 必ず、エメラルド国にお連れする。



 懐深きエスパーラ。

 我らに行動の自由を与えたことを後悔させてやる……。



 決意とは裏腹に、ふと、昨夜の記憶がよぎる……。


「心音って、聞くと落ち着くんだな……」


 カナミは顔を真っ赤にしながらぶんぶんと頭を振る。


「絶対に、絶対に殿下を、ディー様を……」




『なあ、聞いた?人質のこと』




 修練場の方から、兵士たちの声が聞こえた。



 なにやら情報が得られるかもしれない。


 カナミは素早く物陰に身を隠し、聞き耳を立てる。




『ああ、聞いた聞いた。エメラルド国、うち(エスパーラ)の要求をつっぱねたんだろ?せっかく無理して王子をさらってきたのに、意味がなかったな』


『ああ、まさか嫡男を見捨てるなんてな。敵国のことだけど、あの王子が流石に不憫だぜ』


『そう?俺はざまーみろって思うけど?』


『ははは、気持ちは分からんでもないわ』




 その後も兵士たちは雑談を続ける。


 しかし、カナミはもう聞いていなかった。


 大切な情報はもう聞けたから。



「王陛下が、王子殿下を見捨てた…?」



 我らは国に切り捨てられたのか。


 じゃあ、王子は?

 人質としてさらわれて、利用価値のなくなった王子は?



 タンッ!



 物陰から強い音が聞こえ、兵士たちは振り向いた。



 しかしそこには、もう誰もいなかった。




*




「一難、去ったか」


 その日の晩、部屋に戻ったディムルは布団に転がった。


 時間は遅いというのに、カナミは戻って来ない。



 よくあることだ。


 この国での生活。

 カナミとディムルは基本別行動をしている。(主にディムルがあちこちに好き勝手に動いているからであるが)


 食事は置いておいてもらえるから、好きな時間に部屋に戻って食べればいい。


 カナミはカナミで行動しているのだろう。

 この国で生き延びるために。


 無茶な真似をしないか心配ではあるが、自分も十分無茶苦茶やっているのでとやかく言えない。

 

 なにより、彼女の行動を制限できる立場に自分はいない。



「もう、一難だよな……」



 怖い。

 自分の策が成功するのか。それがどうしようもなく。


 それは自分の命だけでなく、カナミの命も賭かっているから。



 もう、賽は振られたんだ。

 後は待つことくらいしかできない。

 考えても意味がない。



 それでも、

 怖い。



 こんこんっ。



 木製のドアの方から小気味よい音が響く。


 ドアは開けられており、フォールが苦笑して立っていた。


「普通、ドアを開ける前にノックしません?」


「固いこと言いっこなしでいきましょう。私と王子殿下の仲ではありませんか」


「どんな仲ですか…」


 誘拐された被害者と実行犯。


 一発殴ってもいい気がする。


「ふふ」


「あはは」


 二人は胡散臭げに笑った。


「少し、歩きませんか?」


「……喜んで」


 ディムルは予見した。


 結果が来たのだと。



 振られた賽はどんな目を出したのか。



*



 こじんまりとした部屋に、申し訳程度のランタンが一つ。


 薄暗い執務室の机に向かい、ゲイル将軍は積み上げられた資料に眼を通していた。


 エスパーラ帝国は新興国家。

 法の整備も軍の指揮系統もまだまだ確立しきれていない。

 若くしてこの城都を任せられているゲイルには、やることは山積みにある。


 ふいに。

 窓が開かれ優しい風が通る。

 

 ランタンの明かりが揺れ、影が伸びる。

 等身大の影が。



 背後にそびえたつ影に、資料から一切眼を離さず頬杖を突いたままゲイルは問う。



「俺に何か用か?」



 背後から喉元に向かって短剣の切っ先が突きつけられる。

 薄暗い執務室に、短剣の刀身が妖しく光った。



「口を閉じろ」



 背後に立つカナミは、普段とは大違いに目つきを鋭く尖らせた。


 瞳の中に冷たい炎が宿る。


「その短剣はどこから盗ってきた?ここまで侵入を許した件といい、警備の兵は減俸ものだな」


 この状況であるというのに、ゲイルは眉一つ動かさない。


 その態度にカナミは苛立った。


「口を閉じろと言っている」


「大した言い草だ。他人の仕事場に土足で入り込んでおいて」



 すぱッ!



 カナミは、辺りの資料を力任せに斬り払う。

 その鮮やかな切り口をゲイルは冷ややかに見つめた。


「口を閉じろ。抵抗するな。死にたくなければ従え。貴様には、王子殿下を逃がすための人質となってもらう」


「人質の人質が人質を取るか。面白い馬鹿だな」


 カナミの静止など聞かない。

 ゲイルはどこまでも不遜な態度で腕を組む。


「逃げてどうする?この城都を抜けても、エメラルド国まで幾重の障壁があると思っている」


「少なくとも、この城都にいるよりましだろう…!ここにいれば間違いなくあの方は殺される!」


「何故?」


「………国に切り捨てられた王子殿下にはっ!利用価値がなくなったからだっ!」


 実に悔しそうに、カナミは答える。


 彼女なりに、国に対する怒りがあるようだ。


 ゲイルはそこまで聞くと、クツクツと声をかみ殺して笑った。


「何故俺たちが殺す?あの小僧にはまだ価値があるのに」


「え?」


 あまりに予想外な返答に、カナミは眼を大きく開いて驚いた。


 ゲイルは愉快気に告げた。




「帝国は、あの王子を殺さない」


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