キャリアプラン
世界は変われど、ヒトの本質は変わらない。
誰もが愛し、愛され、愛するものを失うことに恐怖する。
娘に一言かけることをこらえきれなかった父上も、たった一言で声を上げて泣き出す姉上も、俺のよく知る人間だ。
現代日本も乱世の世も関係ない。ただのちっぽけな人間だ。
謹慎中につき、部屋の窓からぼうっと眺めていた俺はそう思った。
後ろから、扉が開き、ぎいっとした音が聞こえる。
「その……王子……」
ばつが悪そうな顔をして、アイシャが入ってくる。
俺と会うのは当面禁止されてるんじゃなかったか……?
見送りに、父も宰相も元帥も、皆が城門へと集中している。
姉上と共にセリアへ発つ、オカリナの粋な計らいと言ったところだろう。
俺は、一瞥すると窓の向こうへ視線を戻す。
姉上は、立ち上がっていた。
その後は後ろを振り向くことなく、強く強く踏み出していった。
「よかったですね。サラ殿下……最後に、陛下よりお言葉が給われました」
アイシャの言葉は重い。
ひょっとしたらこの王城内での姉上の一番の理解者は、身分の低い彼女であるかもしれない。
それでも俺は、認めたくなかった。
あんなものが、よかったなんて思いたくなった。
(気にくわない……)
異国の地に嫁に行く娘に、一言だけしか与えない父も。
そんな一言に喜んでわんわん泣き出す娘も。
それが常態化するこの世の中も。
全てが気にくわなかった。
父の立場も理解できる。
ただ生き延びる事すら難しいこの乱世。
真っ先に矢面に立つ民草は、王に救いを求めるシステムだ。
だからこそ、王はヒトであってはならない。
王の肩には、幾万の命が載せられているから。
その考えは、間違っていないと思う。
間違っているのは時代であり、社会の方なのだと思う。
ならば俺は―
俺の目指すべきビジョンとは―
「乱世を終わらせる」
覚悟を込めて口に出す。
心の靄が晴れ、すっきりとした。
言語化ってやつだ。
「本気ですか……」
後ろで聞いていたアイシャが真面目な顔で語る。
「それは群雄割拠のこの天下を、統一することに他なりませんよ」
7歳児の妄言を、しっかりと真面目に聞いてくれる。
いつもなら、子ども扱いして取り合ってはくれない。
彼女なりに心境の変化があったのかもしれない。
だから、俺はそれに応えて真面目に返す。
「そのつもりっ!」
「ええーっ!そんな軽く……」
「軽くない、いたって真面目さ。振って振って振って。考えて考えて考え抜いて。ようやく出せたビジョンだよ!」
人生は楽しんだものが勝者だ。
俺は、この世界を楽しめない。
なら、世界の方を変えてやる。
年頃の娘なんて、父親のことをうっとうしいと思ったほうが健全さ。
「アイシャ。あなたが父に忠誠を誓っているのはよくわかった。だけどさ。そんな父もいつかは退位する。俺が後を継いで王となった時、国を指導する立場に立った時、そのときはさ。力を貸しておくれよ」
にっこりと笑い、アイシャに向かって手を伸ばす。
前世の世界での、仲直りの証。
シェイクハンドってやつだ。
「………王子は、ほんっとおにっ、私がいないとダメなんすねぇっ!!!」
手を取るアイシャの顔はみるみるうちに赤く染まり、最期には鼻水垂らして泣き出した。
春を迎えてもうすぐ8歳。
ビジョンが固まりキャリアプランを描くとき。
乱世統一天下泰平。
さあ、第二ラウンドだ。面白くなってきたね。
大陸歴1538年。長姉サラ・エメラルドの嫁入り。
雪の溶け切らない、寒い寒い初春のこと。
「彼」は、大望を胸に燃やした。
「彼」が人質として国を出る、3年前の出来事である。
乱世の夜明けは、まだ遥か先のことである。
これでディムル幼少期編は終わりです。
いかがでしたでしょうか?
今後は舞台を国外に移して、ディムルをどんどん活躍させていく予定です。
第2部も是非ご覧ください!
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筆者魂が震えあがります、笑
これまでの間に評価・ブックマークをしてくださった皆様、本当にありがとうございます!!
筆者魂が痙攣起こしました、笑笑




