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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第一部 乱世転生編  第1章 師弟
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魔法を学ぼうと決めた

 

 とある理由から魔法を学ぼうと決めた。


 

 アイシャに聞いたところ、魔法の才能とは遺伝によるところが多く、俺の母は魔法の才能を秘めた家柄らしい。

 

 ということは俺自身も強力な魔法を使える素養があるということだろう。

 

 それに何よりかっこいいじゃん、魔法使い。

 折角の異世界だ、やってみたい。

 

 魔法を教えてほしいというと、アイシャには鼻で笑われた。


「よろしいですか、王子。魔法とは様々な世の理を論理的に組み立てることでなされるものなのですよ。残念ながら、おこちゃまにできるものではございませんよ。ってええええええっ!?できてるしぃぃぃぃっ!?」

 

 できた。

 小ばかにしながらも教えてくれたアイシャに感謝だ。


 教えてもらったのは入門用の魔法『インパクト』。

 自らの魔力を可視化できる球体にして目標にぶつける。


 初歩の初歩ながら魔法が使えて感無量だ。

 これは上手くやればかめはめ波もできるのではないだろうか。


「あはは、マジすか嘘でしょ天才だー」


 未だに放心状態のアイシャ。

 どうやら6歳児が魔法を使えるというのはかなり驚異的なことらしい。



 考えてみればそうか。

 

 魔法には自然科学に関する知識と論理的思考力が必要らしい。

 普通の子供にはそんなものない。


 俺の場合は前世に身に着けておいたからね。


「アイシャさんの教えが良かったからだよ」


 持ち上げておく。なんとかごまかさないと。

 あまりにも優秀すぎる子供はむしろ不気味に思われるかもしれない。


「え、マジです?むしろ私が天才?」


 ごまかせた。なんかこの人の前では気にする必要ない気がする。


「ま、まあ?それなりに才能はあるみたいですね?」


 したり顔のアイシャ。

 彼女はいつも教育係として威厳を保とうとする。

 中身40代の俺から見ると実にかわいらしい。


 まあ何にせよ、第一段階はクリアだ。

 アイシャは俺が魔法を勉強するに足ると認めてくれたらしく、魔法指導の専門家を紹介してくれるらしい。





「お初にお目にかかります、王子殿下。雇われではございますが、エメラルド国軍魔法教諭を務めております、イリーナ・バジルと申します。非才の身の上ながら、魔法に関するご指導、精一杯務めさせていただくので、どうかよろしくお願い申し上げます」


 王城の中庭。アイシャが連れてきたのは若い女性だった。


 年齢は20代半ばだろうか。

 エメラルド国軍の軍服を身に纏ってはいるが、なんだか着こなせていない。

 軍服に着られている印象を受ける。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 俺の視線は彼女の一部へと注がれている。耳だ。耳が長く、とがっている。


「あら、殿下はエルフを見るのは初めてでおいでですか?」


「そら、そうでしょ。森の国に引きこもってる部族、普通は見る機会無いっしょ」


「うふふ、そうね。むしろ殿下は早くに見れてラッキーかも、ですね♪」


 親しげに談笑するアイシャとイリーナ。そうか、エルフか。


 ここは異世界である。

 俺たち人間以外にもエルフ族、小人族、巨人族、ドワーフ族、様々な種族がいるらしい。


「これは大変失礼しました。私はエメラルド国第一王子のディムル・エメラルドと申します。こちらこそよろしくお願い致します」


 100%の笑顔を浮かべ、胸に手を当てて優雅に礼をする。

 すると、イリーナは口に手を当てぎょっとする。


「……失礼しました。その、あまりにもご立派な挨拶なので」


「ふふん、どうよ。あたしら自慢の聡明な王子殿下は!」


 胸を張るアイシャと驚くイリーナ。

 我ながら6歳児とは思えない挨拶だ。教育係のアイシャは鼻高々である。


「それでは気を取り直して。魔法の修練に当たり、最も効率がいいのは一つの系統を重点的に学ぶことだと言われています」


「ええ、アイシャから聞いております」


「ええ、言っておっります」


「はいはい、アイシャは黙っててね」


 茶々を入れるアイシャをイリーナはつまみ出す。この二人は仲がいいようだ。


「殿下は4系統でなく、治癒魔法をご所望と伺っておりますが」


「はい、それでお願いします」


 4系統とは火・水・土・風の魔法の事で、本来ならこれのどれかから修めるのが普通らしい。

 しかし、俺はまず始めは治癒魔法を覚えると決めていた。というよりも、一刻も早く治癒魔法を極めたい。


「うふふ、殿下は珍しいタイプですね。殿方は一般的に攻撃に使える4系統を覚えたがるものですが」


「母が治癒魔法の使い手ですので、僕も素質があるのではと思ったまでです」


 これは建前だ。

 俺が治癒魔術を覚えたい理由、というよりも魔法を覚えようと決めた理由にもなるのだが、どうやら治癒魔法使いとは慢性的に人手不足らしい。

 

 考えてみれば当然だ。

 魔法を覚えるのは知識とロジカルが必要。

 現代日本と違い、貧富の差が激しく識字率すら低いこの世界では、魔法使いは非常に少ない。


 また、乱世の時代である。

 今イリーナが言ったように、攻撃魔法を真っ先に収め武功を上げんとするものが多く、治癒魔法を軽視する傾向があるようだ。

 そんなわけで治癒魔法の使い手は希少である。

 

 そこで先日考えた、いかにして生き残るか、とつながって来る。


 俺が大人になっても、治癒魔法さえ使えれば戦場に出なくてもいいかもしれない。

 また、国が滅びて落ち延びても、治癒魔法さえ使えれば就職先は引く手あまただ。

 とりあえずは死なずに生き延びる。俺が魔法を覚えようとしたのはそんな打算がある。


「それでは早速始めましょうか」


 イリーナの講義は座学から始まった。

 魔法の習得には世の理を知らなければならない。

 治癒魔法を習得するうえでは、医術の心得をある程度理解しておかなければならないらしい。


 子供には少し難解な内容であったが、イリーナは優秀であった。

 イラスト付きの教材などを手製で用意し、子供の興味心をくすぐる内容で進めていく。


 結論から言うとこの世界の医術は前世よりも遅れているため俺には少し物足りなかったが、パワーポイントも何もないこの世界ならではのプレゼン手段として、イリーナの講義は大変ためになった。


「このワライダケの性質を知らなかった治癒魔法使いは、処置を誤って作戦中の1個小隊の容態を悪化させて、隠密行動を失敗させてしまったのですよ。笑い声で」


「あはははっ、流石にそれは嘘でしょう?」


「いえいえ本当ですよ、この目で見ましたから」


「って、その場にいたんですか!?」


「後方から笑い声が聞こえて驚きました」


「しかも敵側ですか!?」


 イリーナはこんな感じで面白い小話を混ぜつつ授業を進める。

 おかげで集中しきってしまい、気づいたら日が暮れていた。

 いつの間にかいなくなっていたアイシャが迎えに来る。


「ディムル王子ぃ、お食事の時間ですよ。あらら、二人ともすっかり打ち解けたようですね」


「ええ。先生の授業すっごく面白いですから」


「そんな。もったいなきお言葉です、殿下」


 イリーナは優雅な動作で柔らかく微笑む。


 慣れてるな、と思った。

 彼女は軍服を着てはいるが、エメラルド国の軍人ではなく軍における非常勤の魔法講師として雇われているらしい。

 何でも、魔法を教えながら世界中を旅してまわっているとか。

 

 魔法教育のエキスパートと言ったところだね。

 教え方や、教師としての立ち振る舞いはなかなか堂に入ったものだ。


 エメラルド国との契約期間は残り1年らしい。

 彼女のもとで治癒魔法を学び、また、世界各国の旅の話も聞こうかと思う。



 王の書斎に忍び込むよりも有意義な情報が得られそうだ。




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