アイシャの祈り
「これでぇえええええ、終わりいいいいいいっ!!」
がんっ!
敵兵の後頭部がつぶれる音がした。
叩き潰されたソレは醜くひしゃげ、血だまりに沈む。
浴びた返り血を意にも返さず、アイシャはその場に横たわる。
群衆に紛れた敵の刺客たち。
彼らはあらかじめ用意されていた援軍の到着により、あっという間に壊滅した。
援軍たちは敵と通じていないと確信できる、この国子飼いの精鋭たちだ。
事態はいともあっさりと収束した。
「あっちは無事かな?」
ぽつりと呟く。
一番最初に浮かんだのはもちろん王子だ。
あの可愛い王子に何かあったら、自分は海よりも多くの涙を流すだろう。
幼少からお世話をしてきた自分にとっては、あの子は我が子も同然の存在だ。
しかし、王子の後をイリーナはすぐに追い、先ほどラモス将軍も追いかけた。
ならばきっと大丈夫、と考えることにする。
むしろ心配なのは……
(イリーナ……)
彼女が上に対してこの作戦を提案した時は、大変驚いた。
だが、止める者はいなかった。
彼女は既に覚悟を決めていたから。
私も止めなかった。
立場が逆なら、私も同じことをしたから。
(ちゃんと、生きてるんでしょうね……)
あんたが死んだら、自分のせいだと王子が悲しむ。
何より、止めなかった自分が許せなくなる。
「生きてなさいよ……」
アイシャは、異種族の友の無事を祈った。
◇◆◇◆◇
ごうごうと、燃え盛る炎が俺たちを囲む。
燃える屋根の上、俺たちは準備を進める。
「殿下ぁ、屋根燃やしちまっていいですかい」
着火しているのはラモスの炎魔法だ。
「弁償すればいいじゃないですか」
「簡単にいいますのお」
「良質な宝石を産出するこの国は、他国よりもお金持ちなり。今日習いました」
イリーナの頬に触れる。温かい。当然だ。彼女はまだ生きているんだ。
「それを知ったのも、外に出してくれたイリーナのおかげです。だから死なせません。絶対に」
『スリープ』
幻惑的な光がイリーナを包む。
イリーナのまぶたを手で触れてみる、眼球運動は感じ取れない。うまくレム睡眠に入ったようだ。
「気を失っている相手に催眠魔法をかけていかがするおつもりです?」
「血圧をさげるためです」
「……今儂が刀をあぶっているのは?」
「殺菌です」
「はあ、さいですか」
ラモスは的を得ないようにうなずく。
無理もない。俺が言っているのはまだこの世界で発見されていない考えだ。
それを、俺がやる。イリーナを救うために。
「さあ、手術を始めます」




