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五話


「————それに、俺に限らず、相手の事をアクセサリーか何かかと思ってる連中に興味はねえよ。自己顕示欲を満たす事が悪いとは言わないが、俺から言わせれば、単に鬱陶しい(、、、、)。だから少なくともそう言う奴は願い下げってわけだ。そういう意味でも、俺はレラが良いんだよ。何より、あいつと話す事は楽しい」


 ま、誰とは言わないが、世の中にはそういう傍迷惑なヤツもいるんだよ。

 本当、困ったもんだよな。


 そう言って意味深な笑顔を浮かべながら、イグナーツは言葉を締めくくっていた。


 そしてその言葉が、先程、ルーカス公爵家と縁を結びたいのであれば————。

 と口にしていたナターシャに向けられた言葉であると自覚をしてか。

 ぷるぷると身体を怒りに本当僅かに揺らした後、「……失礼いたします」とだけ言い残し、ナターシャはその場を後にした。


 向かう先は————両親の下、だろうか。


 この後、ねちねちとした嫌がらせが待ってるんだろうなぁと思うと「……憂鬱だ」と、思わずにはいられなかった。


「なぁに憂鬱だ、みたいな顔してんだか」


 私がそう思う原因を作り出した張本人に、あろう事か、そんな指摘を食らう。


 これ、イグナーツのせいだからね。

 他でもないイグナーツのせいだから。


「……ナターシャにあれは逆効果なんだよ」

「逆効果?」

「うん。きっと……ううん。絶対、どぎつい仕返しがやって来るから。これまでの経験から、もうこれは絶対に。ああああ……イグナーツがいなくなった後が憂鬱だ」


 そう言って手で顔を覆い、これ見よがしに深い深い溜息を吐いてやる。


 だけど、そんな私の心境を他所に、イグナーツだけにとどまらず、ダミアンまでお前何言ってんだ? みたいなキョトンとした表情を浮かべていた。


 ……あれ、私何か変な事言ったっけ。


「……もしかして、レラは両親から何も聞いてないのか?」


 レラは親友だし、一言の返事で大体伝わると思ってたから色々と省略したんだが、一応、お前の両親には事の詳細をちゃんと伝えておいたぞ、と言葉が続けられた。


 ……いや、私は全く何も聞いてないし、以心伝心にせよ、そこまで分かるはずないから。


「というと?」

「どぎつい仕返しが来るも何も、お前は俺のとこの国で当分暮らす事で話纏まってるぞ」


 ついでに、俺の兄や親父様の顔合わせも兼ねてな。


 などと、突然の爆弾発言に思考が停止する。


「……は、はい?」

「ついでに言うと、俺は一応王子の身分だが、後継には四個上の兄がいる。まだ俺も王位継承権は持ってはいるが、そういうわけで、あってないようなもんだ。だから、他の貴族諸侯から変な目で見られる事はないから安心してくれ」


 もし仮にイグナーツ王位継承権一位の人間だった場合、他国の、それも公爵家の人間を迎える事に反発は避けられなかったであろう事は明白。

 だから予め、先にその事を教えてくれたのだろう。


「むしろ、感謝の眼差しで見られる事請け合いっすね。殿下の婚約者選びなので変な人間をあてるわけにもいかず、かといって堅実な人間を選ぶと殿下が即答で拒否をする。悩みの種を取り払ってくれてありがとうくらい言われるんじゃねえっすか?」

「……おい、それは流石に失礼だろ」

「宰相がハゲてる理由の一端は殿下が背負ってるって王城では専らの噂っすからね」

「……あいつの人選が悪いんだよ」


 『王立魔法学院』でぶっちぎりの問題児だったイグナーツは、王城でも変わらずその問題児っぷりを発揮していたらしい。

 相変わらずというか、何というか。


 でも、そういうところが一緒にいて楽しいと思えた理由の一つだし、そういうイグナーツだから親友とも呼べる仲になったと思ってる。

 そんな彼でなければ、愚痴として悩みを打ち明ける事もしなかっただろうなあって思って、ダミアンとイグナーツのやり取りを前に、小さく笑う。


「でも、そこまで婚約者選びに慎重になってたのによく私で許可が下りたね」


 純粋に、疑問だった。


 王位を継ぐ予定はないとはいえ、王族である。

 下手な人間をあてるわけにはいかないというその考えには私も同意するし、だとすれば、どうして私で許可が下りたのか。よく分からなかった。


 ……まさか、イグナーツの独断……?


 などと思う中、


「監視役、というと人聞きが悪いんすけど、王子が『王立魔法学院』に通うからって事で流石に陛下も色々と策を講じてたんすよ。自国の人間を無理を言って教師としてねじ込んで貰ったり、生徒として何人か潜り込ませたり」


 ちなみに僕は、純粋に生徒として通ってた側の人間なんで。


 などと言ってダミアンは教えてくれる。

 そういえば、私達の入学のタイミングで教師が何人か急に増えたとか何とか話題に上がっていたような気もする。


 それってそういう事だったのかと、四年越しに当時抱いていた疑問が解消され、苦笑いを浮かべずにはいられなかった。


「そんなわけで、潜り込んでた連中からレラさんであれば問題はないと言葉があったんすよ。その中に陛下の側近とも言える人間もいたんで、ならって事で許可が下りた感じっすね」

「……あぁ、そういう」


 とんでもない問題児とはいえ、一応は王族。

 そういった対応をされていたとしても、そこまで驚きはなかった。


 ただ、他国の公爵家の人間二人も巻き込んでパーティーを組んでたし、気苦労は絶えなかっただろうなと今更な同情の念を抱いた。

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