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十三話


「……あぁ、頭が痛い。イグナーツが来た途端にコレだ。あいつ、幾ら何でもトラブルに愛され過ぎじゃないかねえ」


 悩みに悩んだ末。

 20層までならば。

 尚且つ、自国の貴族を助ける目的であれば、ついて来ていた護衛達だって多少の理解を示してくれる筈だ。


 イグナーツが告げるその言葉に満足に反論出来なかった学長————メルフェイユはつい先程その場を後にした四人に意識を向けながらそう呟いていた。


 ————あの数の護衛になんて説明したものか。


 瞼を閉じながら、現実逃避を始めようとしていたメルフェイユに、「……あの」と、その場に残っていた二人のうちのリフィーと呼ばれていた少女が控えめに声を上げる。


「うん?」

「アイリス先生と一緒にいたあの三人の方って、」


 一体、どなたなんですか?


 と、リフィーは問い掛けるより先に何を言いたいのかを理解してか。


「ただの問題児共だよ」


 言葉を被せるように、メルフェイユが答える。


「……問題児、ですか」

「ああ。あんたらのパーティーメンバーの二人より、ずっとタチの悪い問題児だねえ」


 多くの貴族が通う学び舎というだけあり、メルフェイユに限らず、教師達だってそんじょそこらの貴族に及び腰にはなる事はない。


 ただ、彼女のいう問題児共は、そんな教師達ですら一歩引いてしまう程に家格が高い者達かつ、手に負えない程、才ある人間達であった。


 そして、そのパーティーの中心にいたのは素性を表向き、隠した隣国の第二王子。

 自国の侯爵家の人間は兎も角、他国の公爵家の人間を二人も巻き込んだとんでもパーティー。


 それでどんどんダンジョン下層へと進んでいくのだから気が気でない日々が続いていたのは言わずもがな。

 しかし、それだけであればまだ良かった。


 学院生活を最高に楽しむ為、ダンジョン攻略をその並外れた才を活かして進めようとさえしていなければ。


「結局、四人で毎日のように馬鹿騒ぎをして、果てにとんでもない記録を残して一年前に卒業していったよ。今の三学年の連中なら口を揃えて言うだろうね。イグナーツ達以上に、学院生活を楽しんでいた奴はいない、って」


 ————お陰で、あの三年間、学長である筈のわたしがずっと監督者としてあいつらのダンジョン攻略に付き添う羽目になってねえ。


 と、何処か懐かしむようにメルフェイユは言葉をこぼした。


 『王立魔法学院』学長、メルフェイユ・ストラ。別名————〝魔女〟のメルフェイユ。


 今から十数年以上も昔。

 卓越した魔法の才から、〝魔女〟の異名で呼ばれるようになった彼女しか、深層のダンジョン攻略での監督者が務まらない事に加え、イグナーツといった面子が面子なだけに同行せざるを得なかった苦労人。それが、メルフェイユであった。


 学長であり、〝魔女〟の異名を冠する彼女に、あんな舐めた態度を取ろうとするのも世界広しといえど、イグナーツやアイリスくらいのものだろう。ただ、それは同時にそれだけ付き合いが長い事を意味していた。


「問題児とは言っても、あいつらの場合は、家格が問題だっただけでねえ。過保護な環境で育ってきた反動か、それはもう好き勝手に暴れてくれたよ。本当に、あんな奴らは二度と御免だと思ったね」


 ————とはいえ。あんな例外中の例外のような問題児共は、いくら探せどもう巡り合う事はないだろうが。


 そう言って、メルフェイユは小さく笑う。


「だけど、それなりに信用が置けるのもまた事実。あの四人組の才能ってやつは、わたしが一番知ってる。それも、嫌という程ね。だから安心しなよ————」


 浮かべる表情というものはまるで、残された二人の生徒を元気付けるような、慈愛めいた笑みであって。


「————あの馬鹿二人が戻ってきたら、四人揃って説教と反省文(、、、、、、)だ。勿論、一日や二日で終わるような生易しいものにする気はないから」

「うげえッ」

「うへえ゛」


 連帯責任だ。

 恨むなら引きずってでも止めなかった自分らを恨むんだね。


 そう告げて、悲嘆の言葉をもらす彼女らに、慈悲はないと現実を突きつけてメルフェイユは踵を返す。


「……にしても、どう説明したものだか」


 ダンジョンに潜りに行った。

 と、馬鹿正直に告げては混乱は必至。


 かといって取り繕うにせよ、イグナーツの護衛達を上手く納得させられるような理由がすぐ側に転がっているわけもなくて。


「……20層までの捜索、なら、精々長くて二時間か三時間程度。……だったら」


 挨拶周りだとか、調理実習に参加してるだとか。適当に理由をでっちあげてどうにかなる……気がする。


 そんな希望的観測を胸に。

 しかし、途中で間違いなく、幾ら何でも長いと誤魔化しきれなくなるんだろうな。

 と、やって来るであろう未来を思い浮かべ、憂鬱だと言わんばかりに歩きながら溜息を一度、漏らした。

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