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 あの魔族は魔人族か?


 魔族として一括りにされることが多いが、その魔族の中にはいくつかの種族が存在する。魔族自体初めて見たが、両親から聞いていた話から判断するにこいつはその中の魔人族と思われる。


 魔人族というのは人間と非常に似ているが、一カ所もしくは数カ所、人間とは違った身体的特徴を持っている。個体によって千差万別ではあるが、例えば腕が八本あったり、顔が二つあったり、目が三つあったり、羽が生えていたり、といった具合である。


 そしてこの魔族には羽が生えていた。そしてそれ以外は人間とまったく同じように見える。魔人族で間違いなさそうだ。


 その魔族は空を飛びながらファイアーボールを放っている。そしてファイアーボールを何発かくらった最後方の馬車はすでに燃えて粉々になっている。


 人間と同じように魔族にもギフトが与えられており、おそらくこの魔族に与えられたギフトは火魔法だろうことがわかる。個体の特徴として空を飛べることができ、そこから地上に向けて魔法を放つことができるため、対空手段がなければなすすべがない。


 俺は急いで魔族のもとへ走り、その勢いのまま高くジャンプする。幸い魔族の高度が低いため俺のジャンプでも十分に届きそうだ。


 「はあっ!」


 俺は剣に水の属性を付与し魔族を切りつける。


 「なにっ!?」


 急速なスピードで接近したためか、その魔族はその瞬間まで俺の接近に気付いてなかったようで、気付いた瞬間、驚愕の声をあげる。


 魔族はかろうじて体を捻らせ回避し致命傷を避けたが、それでも左腕の肩から先を切り飛ばすことに成功する。


 「ぎゃああああああああ」


 地面に着地した俺は魔法の袋から弓を取り出し、武器を弓に変え魔族に向かい矢を連射する。もちろんすべての矢に水属性を付与している。


 「くっ!」


 魔族はこちらの攻撃に気付いて巨大なファイアーボールで対抗してくる。


 こいつは馬鹿だな。さっきの俺の攻撃から、矢に水属性が付与してある可能性があることは想像できるはずなのにファイアーボールで対抗しようとしてくるなんて。


 俺の放った矢は何の抵抗もなくファイアーボールを貫通し、そしてそのファイアーボールはいとも簡単に霧散した。そしてそのまま数本の矢が魔族をも貫通していく。


 「がっ……」


 魔族の目から光が消え地面に落下する。


 そこまで強い魔族じゃなかったようだな。他に魔族は見当たらないからこいつ一人で追ってきたのか。


 他の人がみんな逃げている中、あっという間に倒してしまったため俺が魔族を倒したところは誰も見ていなかったようだ。


 誰も見てなかったのならこのまま気付かれないように11号車まで戻るか。


 俺は何もなかったかのように11号車へと戻った。


 「エイトっ! 逃げたんじゃなかったのっ!?」


 「ああ、逃げようと思ったんだが、なんともなくなったみたいだから戻ってきたんだ」


 「え? いったい何があったの?」


 「魔族が追ってきたみたいなんだがもう倒されたみたいだぞ」


 「えぇ? 魔族なんていったい誰が倒したの? すごいわね!」


 「さあ、俺は見てなかったからわからないな」


 「まあ逃げてたんだしそうよね。それにしても誰が倒してくれたのかわからないけど助かったわね」


 「ああ、そうだな」


 そして俺はその馬車に乗ったままキーリルの街へ向かった。




 それから約2日後、どうやらキーリルの街が見えてきたようだ。


 あれからは魔族が襲ってくるようなことはなく、たまに魔物と遭遇したことはあったようだが、その都度警備隊が倒していたようで、何事もなくキーリルの街に着くことができた。


 キーリルの街の大きな門が開き、馬車の集団は中に入る。


 おお! これが街かあ! すごい! いったいどうやってこんなものを造ったんだ!?


 俺は初めて街というものを目にしてもの凄く興奮していた。これからこんな場所で暮らすことができるのかと思うと楽しみでしかたない。見たいこと、やりたいことが多すぎて何から手を付けたらいいかまったくわからない。


 けどまあまずはこの街に来た目的のダーウィン・ロッティという人を探すのが優先か。


 どうやらコリンは馬車を降りてすぐに両親が見つかったようで俺が手伝うまでもなかった。


 コリンは両親以外で俺が初めて仲良くなった人だったが、そのまま簡単に別れを言って別れた。

同じ街にいればまた会うこともあるかもな。


 そして俺はダーウィン・ロッティという人物を知らないか街の人に聞いて回った。


 どうやら有名な人らしく、割とすぐに住んでいる場所を知ることができた。


 コンコンコン


 今、俺はそのダーウィン・ロッティという人物が住んでいるという家の前でノックをしている。


 「おーい、ダーウィン・ロッティという人の家はここでいいのかー?」


 少し待つと家の奥から声が聞こえてきた。


 「誰じゃあ?」


 そういって扉を開けたのは白い髭を蓄えた老人だった。


 「俺の名前はエイト・ローニーだ。あんたがダーウィン・ロッティか?」


 「そうじゃが。……ローニー? お前さんはまさか……!?」


 「ああ、俺はイービル・ローニーとアイリ・ローニーの息子だ。両親からあんたを頼るように言われてここに来たんだ」


 「まさか……。二人はどこかで生きているのかっ!? ……いや、まずは中に入って話そう」


 そう言われて俺はダーウィン・ロッティの家に入った。


 家の中ってのはこんなかんじなのか。すごくきれいで住みやすそうだ。本がたくさんあるな。


 「まあそこに座れ……」


 「ああ」


 「まずはお前さんの両親、イービルとアイリは今どうしているんじゃ……?」


 「死んだよ。1ヵ月ぐらい前だ。ダンジョンから俺を出すために犠牲になってくれたんだ」


 「……そうか。やはり生きてはいなかったか……。だが犠牲というのはどういうことじゃ?」


 このじいさんはあのダンジョンのことを知らないのか。


 俺は俺が生まれる前、百の秘宝がダンジョンに挑み、そして俺がダンジョンから出てくるまでに起こった出来事をすべてこのじいさんに話した。もちろん生まれる前の話は両親から聞いただけだが、何度も聞かされていたため詳細に話すことができる。


 「…………」


 「どうしたじいさん?」


 「……まさか、あのダンジョンの中でそんなことがあったとは……」


 「いったいなににそんなに驚いているんだ?」


 「いいかエイト。お前さんはこれからイービルとアイリの息子だということは隠して生きるんじゃ。ローニーという名も変えたほうがいいじゃろう」


 「なに? それはどういうことだ? なんでそんなことしなくちゃならないんだ?」


 「お前さんは知らんじゃろうが、<百の秘宝>のメンバーであったアレン・エクランドとナタリア・サイノスは生きておる。そしてその二人は今や全人類の中でも非常に強い権力と地位、武力を持っておるんじゃ」


 「生きていた? けどそれがなんで俺が隠れて生きることになる?」


 「ここからが重要なんじゃが、あの二人はダンジョンから戻ってきた時に他の4人のメンバーは全員ダンジョンのボスの犠牲になったと言ったんじゃ。そして自分たちはなんとかダンジョンのボスを倒し生還したとな」


 「なんだそれは!? 父さんと母さんはまだダンジョンにいたんだぞ!? 人を集めていつでも助けにだって来ることができたはずだろ!」


 「そうじゃな。だがあの二人はそうしなかった。そのダンジョンは強すぎるモンスターが多く、危険すぎるということで実質的に閉鎖させ、誰も入れないようにしてしまったんじゃ」


 「なんだと!?」


 「あの二人がお前さんの両親が生きているかどうかは知らなかったのかもしれんが、もし生きていたとしても助けに行かないという選択をしたんじゃ。お前さんがイービルとアイリの息子だということが分かれば、その真実が公になる可能性がある。そうなればアレンとナタリアは今の権力や地位、武力を失ってしまうかもしれん。そこまで考えると、あの二人にとってお前さんの存在は危険なものだということじゃよ」


 「……」


 「昔はあの二人もいい子らじゃったが、あのダンジョンから帰ってきて以来はあまりいい噂は聞かん。どんな事態になるかがわからない以上、正体は明かさない方がいいじゃろう」


 「なんだよそれ……。あの二人が見捨てたせいで父さんと母さんが死んだようなもんじゃないか……。そんな奴らからこそこそ隠れなきゃだっていうのか!?」


 「気持ちは分かるが落ち着くんじゃ。お前さん一人であの二人をどうこうできる可能性はない。許せない気持ちはあるかもしれんがまずは正体をばれないようにすることが重要じゃ」


 「くっ……」


 「わしもあの二人が大事な弟子であるイービルとアイリを見捨てたのは許せん。しかしあの二人は今やわしとて近づくことさえできないほどの力を持っているんじゃ」


 「だとしても! 俺は絶対にあの二人を許すことはできない! なんで父さんと母さんを見捨てたのか問いただして、なんとしてもその罪を償わせてやる!」


 「……お前さんがどうしてもそうしたいというなら方法は一つしかない」


 「……どんな方法だ?」


 「あの二人より力をつけることじゃ。一人ではなく集団としての力じゃ。権力も武力もじゃ。それだけの力がないと今やあの二人に近づくことはできん」


 「集団の力なんかいらねえよ。俺が強くなれば無理やりにでもあいつらに近づくことはできるはずだろ」


 「不可能じゃよ。あの二人はそれぞれが自分のクランを持っておる。その規模は世界最大クラスで、普段はそのクランの拠点の最奥でクランメンバーに守られておるんじゃ。最大規模の城の城主を倒すぐらいの難易度じゃよ。どれだけ強くても個人でどうこうできるレベルではないのじゃ」


 「……」


 「それにあの二人は個人としても人類最高峰の強さを持っておる。個人の力をつけるというのは、まず最低限として必要なことじゃ」


 「わかったよ、じいさん。俺が強くなって他にも強い仲間を集めればいいってことだな」


 「簡単にいえばそういうことじゃ」


 「いいよ。やってやるよ、それぐらい。たったそれだけであいつらに近づけるってんなら簡単じゃねえか」


 「そうか。簡単な道ではないと思うがの、わしがそれを止めることはない。まずはお前さん自身の力をつけることじゃな」


 俺はアレンとナタリアに近づくために、力を求めることを決めた。


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