5
入り口の扉まで向かった俺とアイリだったが、行きは1ヵ月以上もかかっていたにもかかわらず、正確にマッピングができていたことから、3日程度で入り口の扉まで戻れそうだ。
「帰りはあっという間だったな。もうすぐ入り口の扉みたいだ」
「そうですね。すんなり出られるといいんですが……」
「あいつら4人がどうなったかも気になるな……」
それから数分歩き、ついに入り口の扉が見えてきた。この扉から出られるかどうかの結果次第で閉じ込められてしまう可能性がある、ということは理解している。そしてその可能性を考えると緊張と恐怖で足が重たくなる。隣にいるアイリも少し俯いており、だんだんと表情が暗くなってきているように見える。
そして俺は徐々に重くなる足を動かし続け、ついに扉の前に辿り着いた。
無言でアイリに確認し、俺は少しの期待を込めながらそっと手を伸ばし扉に触れてみる。
……
……
扉は何も反応しない。
くそっ! さすがに触るだけではだめかっ。だがスフィンクスなら何か答えてくれるかもしれない。
「スフィンクス! 聞こえていたら答えてくれ! この扉から出ることはできるか?」
俺は少し緊張が混じった声でスフィンクスに話しかける。
『可能だ』
なにっ!
『扉の前に2人の人間の死体を捧げろ。そうすれば残った者は地上に転移させてやろう』
「……え?」
「……」
待て待て! そんなばかなっ!
「待てっ! スフィンクス! 俺たちは2人しかいないっ! それは不可能だ! ほかの方法を教えろっ!」
「スフィンクスさん! ほかの方法があったら教えてくださいっ! お願いします!」
……
スフィンクスは何も答えない。
……
そんな……。それじゃあ俺たちは……?
……
……
……
「くっそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は全力で扉を叩く。
「ほかの方法を教えろっ! スフィンクスっ!」
スフィンクスは黙ったままだ。
そしてその後、俺は何度も何度も叫び、扉を叩き続けた。
様々な攻撃で扉の破壊も試みてみた。
しかしスフィンクスが答えることはなく、扉に傷がつくことすらなかった。
叫び疲れたことで少し落ち着きを取り戻した俺が隣を見ると、アイリが無言で涙を流していた。今にも声が出そうなのをこらえている。
アイリ……
そうだよな、アイリだって同じ気持ちなんだよな。俺がアイリを励まさなきゃならないところなんだよな。悲しんでいる暇なんてないか……
「アイリ……」
俺はそっとアイリを抱きしめる。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
アイリは泣き出してしまった。
そしてアイリを抱きしめたまま俺も涙した。
……
……
……
いったい何分たっただろうか。
アイリも落ち着きを取り戻してきたようだ。
「アイリ……」
「閉じ込められたのは悲しいですけど、私はイービルと一緒でよかったですっ」
アイリは赤く腫らした目のまま俺に向けて笑いかける。
「それは俺もだっ。アイリが一緒でよかったと心から思えるよ! こんな場所だけど二人だけの暮らしってのも楽しいかもな!」
「そうですねっ! ずっとイービルと一緒と考えるとだんだん楽しみになってきました!」
「ありがとう、アイリ。もしかしたらあいつら4人がまだ生きている可能性だってあるしな! 他のやつがこのダンジョンに挑戦する可能性だってある! それまで気長に2人で待とうぜ!」
「そうですね! イービルとならいつまでも待てますよ!」
「そういえばあいつら4人がどうなったのかって、スフィンクスは教えてくれねぇかなあ?」
「スフィンクスさん! 逆の扉を進んだ4人がどうなったかは分かりませんか?」
『今このダンジョンにはいない』
「えっ? それって? どういうことですかっ?」
……
スフィンクスは答えない。
「2人だけ逃げることができたか、全員死んだかのどっちかってことか?」
「入れ違いで最奥の扉のロックを解除した可能性もありますが、あまり現実的ではなさそうですから、やはりそのどちらかでしょうか」
「確かにその可能性もあったが、まあ期待はできないか」
「2人だけでも脱出できていればもしかしたら時間がかかっても助けに来てくれるかもしれませんね!」
「だなっ! 少しだけ希望が持てたなっ!」
「そうですねっ! じゃあ助けに来てくれるまでは2人で楽しく暮らしましょうか!」
「よーし! じゃあまずは拠点造りだな!」
そして俺とアイリのダンジョンでの生活が始まった。