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時は遡る。
「なんだぁ? 転移かぁ? って扉一つ越えただけじゃねぇか!」
「どうやらそのようですね」
「どうやらちょっと先に大きい広間があるようね」
ナタリアは光魔法を使うことで少し先の空間の形を把握することができる。
「そこにボスモンスターがいるんだな! よっしゃ行くぞ!」
そう言ってアルベルトは走り出し、先に広間に行ってしまう。
「ちょっと! あんまり先に行かないでよね!」
そういって他の3人もアルベルトの後を追い大きい広間に出る。
「どうしたんですか? アルベルト?」
広間に入ってすぐのところでアルベルトが突っ立っている。アレンがアルベルトの肩を叩くとまるで抵抗感なくアルベルトの両肩から先が床に落ちた。
ぼとっ
アルベルトの両肩から勢いよく血が噴き出す。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ようやく状況が理解できたのかアルベルトが悲鳴を上げる。
「ナタリアっ! 回復ですっ!」
「言われなくても!」
ナタリアの魔法によりアルベルトの両肩が光りだす。
通常であれば部位欠損したとしても欠損部分をくっつけるぐらいの力のある回復魔法であるが、アルベルトの肩から先は一向にくっつく様子がない。
「くっ! 抵抗がすごいわっ! これはくっつかないかもしれないっ!」
「ゲェヒャハハハハハハ!」
全員が声のした方を向くとそこには悪魔がいた。3メートルほどの体長で、空を飛びながら笑っている。
「これはお前がやったんですかっ!」
アレンが問いかけるがその悪魔は何も答えずに気持ち悪い声で笑ったままだ。そして悪魔が笑いながら指を振る。するとアルベルトの切断された両肩の断面から腕の太さほどのうねうねとした虫のようなものが生えてくる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アルベルトの叫び声が激しくなるが、皆は驚愕したまま動くことができない。
そして生えてきた虫のようなものが2メートルぐらいの長さになったところで腕から離れた。その瞬間無数の足が生えてきて動き出す。まるでたくさんの足の生えたミミズだ。
アルベルトはその痛みからか放心状態となっている。ほとんど戦意喪失しているようだ。
その生き物がナタリアの方を向く。
「きゃぁっ! なにっ! こいつ!」
その生き物の顔がアルベルトそっくりだったのだ。
ナタリアは光のレーザーでその生き物の顔を貫く。するとその生き物はあっさりと動かなくなったが、同時にアルベルトが再び叫びだした。
「あぁぁぁぁ! 顔がぁぁぁぁ! 焼けるぅぅぅぅ!」
外傷はないようだが苦しみ方が尋常ではない。
「まさかっ! ダメージはアルベルトが受けるんですかっ!?」
するともう1匹の生き物がアレンに向かって飛びかかってくる。
「これはっ! 避けるしかないようですねっ」
アレンは瞬間移動で回避しながらナタリアとデルロイに話しかける。
「どうやらこの生き物を攻撃するとアルベルトがダメージを受けるようです! この生き物からは逃げながらあの悪魔を直接攻撃しましょう!」
「わかったわ! デルロイっ! さっきから未来予測はどうなってるのっ?」
「それがこの広間に入ってからまったく予測が働きません! 何らかの方法で阻害されている可能性が高いと推測します!」
「なによそれっ! 役立たずじゃないっ!」
デルロイは<未来予測>が使えなくとも、様々な武器を使いこなすことができ、ギフトなしでもSランク冒険者レベルの戦闘力は持っているのだが、このレベルの相手に<未来予測>が使えないというのは皆に与える精神的な影響が大きかった。
「デルロイっ! 一緒に剣で攻める! 行くぞっ!」
アレンの瞬間移動で悪魔を左右に挟み込むようにアレンとデルロイが現れる。依然として悪魔は気持ち悪い声で笑ったままだ。
左右から同時にアレンとデルロイの斬撃が悪魔を襲う。そして斬撃が当たったかと思った瞬間、悪魔とデルロイの位置が入れ替わった。
アレンとデルロイの斬撃がぶつかり合い、互いに弾き飛ばされる。
「まさかっ! 今のは<瞬間移動>!?」
その後アレンが何度も<瞬間移動>を駆使し攻撃を仕掛けても、全て同じ<瞬間移動>と思われる能力で回避される。悪魔はずっと気持ちの悪い笑い声で笑っままであり、まるで遊んでいるかのようだ。
ナタリアも様々な光魔法で攻撃を仕掛けているがそれも当たる気配はない。
絶えず攻撃を続けている中、急に悪魔が腕を振った。その瞬間、まるで見えない斬撃が飛んだかのようにデルロイの右腕の肩から先が吹き飛ばされた。
「えっ?」
デルロイの顔が驚愕に染まる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「みんなっ! このままではだめですっ! 一度撤退しましょう!」
「わかったわっ!」
「アルベルトとデルロイも撤退しますよっ!」
アレンが4人を一気に瞬間移動で広間の外へと運ぶ。
「あの悪魔はっ!?」
「追ってはこないみたいね……。狂ったようにずっと笑ったままよ……」
「……」
「入り口の扉まで戻って一度ここから出られないか確認してきましょう。今のままではあいつには勝てないわ……」
「……そうですね」
デルロイは痛そうに肩を抑えながら黙ったままで、アルベルトはすでに戦意喪失しており目が虚ろである。
それから4人は入り口の扉まで移動した。
「スフィンクス! 聞こえますか? 一度この扉から出たいのですが出られますか?」
アレンが扉に向かって話しかける。
『可能だ。扉の前に2人の人間の死体を捧げろ。そうすれば残った者は地上に転移させてやろう』
「……」
「……」
動いたのは一瞬だった。アレンがデルロイの後ろに瞬間移動し、後ろから剣で心臓を一突きした。それと同時にナタリアは光のレーザーでアルベルトの頭を打ちぬいた。
「……そ……んな……」
デルロイが最後の一言を発した後、そこに2人の人間の死体が完成した。
そしてアレンとナタリアは静かにダンジョンを去っていった。