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「おいおい、これがボスモンスターへの扉だってのかぁ?」
「今までの扉と比べてあまりに大きいですね」
いつも爽やかな表情を崩さないアレンも少し顔がこわばっているように見える。
「この扉は高さ50メートル程度であると推測されます」
「少しこわいね……」
俺は怖がるアイリの手をそっと握る。
これまで見たことのあるボスモンスターへの扉とはあまりに違うサイズの扉にみんな少なからず動揺しているようだ。
「ねぇ、こんなに大きい扉だとボスモンスターもやっぱり大きいのかしら?」
「過去の経験からすると、扉の大きさとボスモンスターのサイズは概ね比例しているものと考えられますので、おそらく扉のサイズに比例して大きいボスモンスターが出現すると推測されます」
「おいおい、ドラゴンの時の扉よりも全然でけぇぞ。ドラゴンで20メートルぐらいだったから、この先のやつはそれよりももっとでけぇってことか? どんだけでけぇんだよ!」
「大きさがそのまま強さってわけではないし、どっちにしろここまで来て戻るわけにもいかない。じゃあどんなモンスターがいたとしても進むしかないだろ!」
俺がそう言うとみんなが静かに頷く。
「よし、じゃあ全員準備はできてるよなぁ? じゃあもう扉を開けちまうぞ?」
そういってアルベルトが扉に手を触れた瞬間扉が光り、ゆっくりと扉が開いていく。
そしてその先にいたのはスフィンクスと呼ばれる伝説上のモンスターだった。そのサイズはほぼ扉と同じサイズに見える。
みんなが驚愕の表情を見せる中、真っ先に動いたのはアルベルトだった。
「うおぉぉぉぉ!」
勢いをつけアルベルトがスフィンクスの足元を殴りつけるがスフィンクスは微動だにしない。
俺も驚いたままではいられない。
「アレン! 顔の高さまで頼む!」
「わかりました!」
俺はアレンの瞬間移動によりスフィンクスの顔の前に移動すると、その顔に向けて7連撃を叩き込む。
この7連撃はそれぞれ火・水・雷・土・風・聖・闇のすべての基本属性が付与されており、どの属性が弱点かを図るためのものだ。
しかしスフィンクスは俺の斬撃でもダメージを負った様子がない。
「少し様子がおかしくないですか?」
「さっきからまったく動く気配がないわねぇ」
たしかに扉が開いてからまったく動く様子がない。しかしこのスフィンクスの気配は間違いなくモンスターの気配だ。
そう思った瞬間。
『待て!』
頭の中に直接声が響いてくる。みんなを見るが、どうやらみんな同じように声が聞こえているようだ。
『私はスフィンクス。このダンジョンに存在しているモンスターではあるが、私が戦うことはない』
「どういうことだ?」
アレンがスフィンクスに問いかける。
『私の後ろに2つの扉があるのが見えるだろう。貴様らが求めるものはあの扉の先にある。そして私は後ろの2つの扉の案内をしているだけの存在ということだ』
つまりこいつを倒さなくとも先に進めるってことか?
『ここから先は二手に分かれて進む必要がある。右の扉には非常に強いモンスターが1体、左の扉には強いモンスターが多数存在している。それぞれの扉の先の最奥に金の扉があるので、そこに手をかざすのだ。そうすることで金の扉のロックが半分解除され、二つの金の扉のロックが解除された瞬間にその扉が開き求めるものが現れるであろう』
二手に分かれて進まなければだめってことか? そして右の扉の先がおそらくボスモンスターへの扉ということだろうか?
『説明は以上だ。一切の質問は受け付けない。それぞれの扉へ進むメンバーが決まってから再度話しかけろ』
そういってスフィンクスの声がしなくなった。
「こりゃどういうことだ? こっからはチームを分ける必要があるってことかぁ? おい! スフィンクス! 詳しく説明しやがれ!」
アルベルトがスフィンクスに問いかけるがスフィンクスはまったく答える様子がない。
「まあそういうことでしょうね。このスフィンクスはもう何も答えてくれなそうですし、ここは慎重にチーム分けを考えたほうがよさそうですね」
「たしかにアレンの言うとおりだ。無理やりチームを分けさせる以上、ここから先は戻ることができないと考えておくべきだろうな」
俺がそう言うとみんなが少し考える仕草を見せる。
最初に口を開いたのはデルロイだった。
「私の分析では、まず魔法を使えるアイリとナタリアは分かれるべきと考えます。そしてどちらかといえば雷魔法は広範囲攻撃が得意ですが、光魔法は広範囲攻撃が得意ではありません。ですので、アイリは多くのモンスターがいる左の扉、ナタリアは逆の右の扉が適切ではないでしょうか」
「確かに魔法を使えるのは2人しかいないですから均等に分けたほうが安全かもしれませんね」
アレンはデルロイの考えに賛成のようだ。そして俺もデルロイの考えには賛成だ。
「ちょっと待ってください! 本当にチームを分けるしか方法がないのでしょうか? もう一度分かれる以外の方法がないか考えてみませんか?」
珍しくアイリが大きい声を出して主張する。
「あら、試しに6人でどちらかの扉に行けたとしても、ルールを破ったってことで閉じ込められてしまう可能性もあるわよ。スフィンクスが何も答えてくれない以上、そんな無謀な方法はとれないと思うけど他に何か方法があるかしら」
ナタリアに反論され、アイリは黙ってしまう。
「アイリさん。残念ながら他の方法を試して取り返しのつかない状況になる可能性がゼロではない以上、ここはスフィンクスの言葉に従い二手に分かれるのは必須だと考えます」
「……わかりました」
アイリの気持ちもわかるが、他の方法をとるほうが危険である以上しかたがないだろう。
俺はアイリの肩に手を添える。どうやらアイリも納得してくれたようだ。
「アイリは左として、あと左に行くのはイービル一人としてはどうでしょうか」
「ちょっと待て、左は俺とアイリだけってことか?」
俺はアレンの案に少し驚き聞き返してしまう。
「そうです。アルベルトの<身体強化>、デルロイの<未来予測>、僕の<瞬間移動>はどちらかというと複数体より単体を相手にする際に力を発揮するギフトです。それに比べ、イービルの<剣撃属性付与>は汎用性が高く、様々なモンスターがでてきても対応することが可能です。人数に偏りはありますが、ボスモンスターが非常に強いということを考えるとこれがベストではないかと思います」
「私もアレンと同じメンバーがベストだと推測します」
アルベルトもアレンの考えに賛成のようだ。
個人的には妻であるアイリとは分かれたくはなかったため、人数に少し不安はあるもののこのチーム分けに異論はない。
「私もそのチーム分けでいいんじゃないかと思うわ」
「俺は右の扉に行きたかったからそれで文句はないぜ」
ナタリアとアルベルトも賛成のようだ。あとはアイリがどう思っているかを聞いてみるか。
「アイリはどう思う?」
「……私もそのチーム分けでいいと思います」
「……そうか。俺もそのチーム分けで問題ない」
「じゃあこれで満場一致ですね。では少し準備してからスフィンクスに話しかけてみますか」
それから俺たちは少し休憩し、スフィンクスに話しかけた。
「おい! スフィンクス! チーム分けが決まったぞ!」
『よろしい。ではそれぞれ進む扉の前に立つのだ』
スフィンクスの言葉を聞き、俺とアイリは左の扉の前、アレン、ナタリア、デルロイ、アルベルトは右の扉の前に立つ。
「おい! 立ったぞ! どうすりゃいいんだ!」
『では検討を祈る』
スフィンクスがそう言うと扉が光り、目の前が真っ白になった。