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世界に僅かしかいないSランクの冒険者パーティー。その中でも歴代最強とされ、他のSランクパーティーとはかけ離れた実力を持っているパーティーがあった。
パーティーの名前は【百の秘宝】。知名度も人気も断トツのそのパーティーは過去に誰も攻略したことのない最難関ダンジョンに挑んでいた。その最深部には想像を絶する力を持つ秘宝が眠っているとされており、現在争っている魔族に対する切り札となることが期待されている。
「行けっ! イービルっ!」
俺は後ろから聞こえてくる声と同じタイミングでゴースト型モンスターを剣で切りつける。
通常実態のないゴースト型モンスターに剣での攻撃は無効であるが、俺の剣には聖なる光が付与されておりゴースト型モンスターは俺の攻撃を受けて消滅する。
これが俺に与えられた<剣撃属性付与>というギフトの力であり、剣撃に自在な属性を付与することができる。
ギフトとは基本的に一人に一つ、天から必ず与えられる特殊な能力のことであり、どのようなギフトが与えられるかは親からの遺伝に大きく依存するとされている。俺は10歳の時にこのギフトを与えられており、それから鍛錬を重ね、今では自在に操ることができるようになっている。
「よしっ! これで下の階層に行けるな」
「次でやっと50階層だけどよぉ、いったい何階層まであるんだよまったく」
「もしかしたら次の階層が最後かもしれないですよ」
「そうですね。他のダンジョンの最下層は最深のダンジョンでも40階層でしたし、このダンジョンの難易度からすると50階層が最下層である可能性は高いと推測されます」
俺たちは男4人女2人の6人パーティーでこの最難関ダンジョンへ挑んでいた。全員が数少ないSランクの冒険者であり、6人が集まった時の戦力は人類史上最強と言われている。
49階層までは非常に順調に探索を進められているが、どのダンジョンでも共通しているのは最下層にいるボスモンスターの強さが他の階層のモンスターの強さとは段違いであるということだ。
そして俺たちは50階層に降り探索を進める。
先頭に立って進むのはアルベルト・ヘドマン。獰猛そうな顔つきをしたその男は<身体強化>のギフトを与えられており、そのギフトの稀少度はDクラスとされている。稀少度は低く、他にも<身体強化>のギフトを保有する者は多く存在しているが、このアルベルトの身体強化レベルは群を抜いており、パワー、タフネス、スピード全てにおいて人類最強レベルである。
「うおぉぉぉぉ!!」
急に甲冑を着た人型モンスターが現れたと思った瞬間、目にも止まらないスピードでアルベルトがモンスターを殴りつける。
ドゴォォォォン!
もの凄い音が響くが、モンスターはしっかり盾でガードしている。
最難関ダンジョンということもあり、そのへんに出現するモンスターでもかなりの強さである。
「このモンスター、2秒後に斬撃を飛ばして攻撃してきます。狙いはアルベルトと推測されます」
後方から声をあげたのはデルロイ・アインシュタイン。眼鏡をかけ聡明そうなこの男は<未来予測>という稀少度Sクラスのギフトを与えられており、数秒後の未来を非常に高い精度で予測することができる。
ギフトを使用するには体内に取り込んだ魔素を使用する必要があるが、この最難関ダンジョンは魔素の濃度が非常に濃く、使用してもすぐに使用した分の魔素が体内に取り込まれる。<未来予測>は魔素を多く使用するギフトであるが、このダンジョンにおいてはその魔素の濃さから制限なく<未来予測>使用することができ、6人全員が無事に50階層まで来られたのはデルロイの力によるものが一番大きいといえる。
「アルベルト!」
その声が聞こえた瞬間アルベルトがその場から消え、一瞬でモンスターの後ろに現れた。
これは金髪イケメンであるアレン・エクランドの<瞬間移動>というギフトの力であり、短距離ではあるが、様々な人・物を自在に瞬間移動させることができる。射程範囲に入っていれば自分以外の人・物でさえ瞬間移動させることができる非常に強いギフトだ。
ドゴォォォォン!
アルベルトが後ろからモンスターの後頭部にハイキックをくらわせ、モンスターは吹き飛び壁に激突する。
しかしクリーンヒットだったにもかかわらず、モンスターはすぐに起き上がる。
「ちっ! こいつ物理防御力が異様にたけぇぞ! 俺の攻撃じゃたいしたダメージが与えらんねぇ」
「私が攻撃するわっ!」
「私もっ!」
起き上がったモンスターに向けて雷の槍と光の槍が大量に飛来する。
ドドドドドドドドドド
すべての攻撃が命中し、甲冑の人型モンスターは倒されたようだ。
雷の槍を放ったのはアイリ・ローニー。俺の妻でありすごくかわいい。<雷魔法>というギフトを与えられており、稀少度はAクラス。雷を使った様々な魔法を使うことができるギフトである。
光の槍を放ったのはナタリア・サイノス。パーティーに二人いる女の一人であり、妖艶という言葉がぴったりな女だ。<光魔法>というギフトを与えられており、稀少度はSクラス。光属性の攻撃魔法のほか、回復魔法も使うことができることから、非常に重宝されているギフトである。
そして俺たちは連携しながら50階層の探索も順調に進めていく。そのへんに現れるモンスターのレベルは49階層から強くはなっているが、俺たちのパーティーのレベルでは問題なく対応できる。
俺たち以外のパーティーがこのダンジョンに挑んだとしても行けて30階層だろう。それだけこのダンジョンのモンスターは強いのだが、俺たちのパーティーにとっては苦戦するレベルではない。
「もしこの階層が最深部だったならそろそろボスモンスターがでてくるんじゃねえか?」
「そうですね。過去の経験からするともうそろそろボスモンスターがいる扉が見えてくる可能性が高いと推測されます」
「やっとこのダンジョンも攻略間近ですね」
「このダンジョンに眠っている秘宝っていったどんな秘宝なのかしら?」
「もうちょっとでそれもわかるさ」
そんなことを話しながら進んでいくと俺たちの視界にボスモンスターへ続くであろう扉が現れた。