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第五話:共感

「悠長なのやら、慎重なのやら」


 (シロガネ)は眼下で砂煙を巻き上げる騎馬隊を眺めてぼやく。


 ストックリー王国に召喚されて既に3日が経った。

 それにも関わらず、(シロガネ)は無を封じる旅に出ることなく、悪魔と戦うこともないまま国賓待遇を受けていた。


「退屈そうだな」


「それはもう」


 けだるげな態度を見かねてレーヴェンスが声をかけると、(シロガネ)は胸中の不満を隠そうともしなかった。


「何と言うか日を追うごとに得体の知れなさが薄れていくな、お前は」


 (シロガネ)の態度を咎めるどころか、苦笑を浮かべるのも当然だ。

 自らの命や生涯にすら投げやりな態度を漂わせ、得体の知れなさを匂わせていたが、役割を果たすことも出来ず、暇を持て余している姿は、当初の印象を打ち消すほどのものだった。


 とは言え――


「とは言え、世界を救う救世主がするにしては、あまりにもだらしない姿だな」


 王城のテラスの縁に、横向けに寝転がる姿は、何処と無く家猫を思わせるものがある。

 人が感じていた得体の知れなさも、召喚された勇者という幻想的な雰囲気も既に皆無。


 ブラクロス王に命じられ、(シロガネ)の監視を行っていたが、特に気になるような行動は取っていない。

 城内に詰めている貴族や保護されているサンロットと談笑する程度で、兵士や侍女らに無理難題を押し付けたり、横柄に振舞ったりすることも無い。


 人目が無くなれば、こうしてだらしなく寝転がる程度。

 レーヴェンスに対しては、不作法な態度のまま油断した姿を無警戒に晒している。

 気付けば、レーヴェンス自身もそれまでの警戒心が反転するかのように友好的な態度で接するようになっていた。


「そうは言っても暇なものは暇だ」


「悪魔との戦いで多くの者が生きて戻ってこれなかった。傷付いた難民も増える一方だ。異界の勇者の出現は士気高揚に繋がる。王もその機会を最大限に活用したい。盛大なパレードを催し、一番盛り上がったタイミングで(シロガネ)を披露したいとのお考えだ」


「要するに体育祭の練習と言うわけか、これは」


「体育祭……? なんだって?」


「何でも無い。何でも」


 銀は日本語を使い、彼等も日本語を使っているように聞こえるが、厳密には逆で、銀の言葉が全てこの世界の言葉に変換されている。

 だから体育祭といった文化体系にそぐわない言葉は、意味の分からない言葉として問い返される羽目になる。


 日本や地球の文化、技術を持ち込む気など無いのか、それとも単純に説明を面倒に思ったのか定かでないが、レーヴェンスの問いに銀は気だるげに手を振った。


「しかし」


「何か?」


(シロガネ)にとって不本意な事態だと理解はする。しかし、救世主と人々の期待を身に受けて、胸が熱くなったり、情動に焦がされる思いが湧いてくると思うのだが……」


「…………………………は?」


 それまでの気だるさとは打って変わって呆気に取られた様子の(シロガネ)にレーヴェンスは問うたことを後悔した。

 たった三日の付き合いとは言え、そんな情緒を持ち合わせている手合いでないことは重々承知した筈だ。


「何と言うかだ。私が聖戦士の称号を得たときは、そういう心境だったのだ。貧乏百姓の息子でしかなかった私が、何の因果か聖戦士などと呼ばれ、ストックリー王国の軍事を司る顔役になれた。これは努力や苦労、才能以上の成果だ」


「成る程成る程。確かにただの一般人でしか無いにも関わらず、召喚魔法に選ばれ、今やこの世界の救世主。ある意味、俺とレーヴェンスは似た者同士と言うわけか」


「ああ、そういうことだ」


 口にこそするが、レーヴェンスは余計なことを言ってしまったと後悔する。

 (シロガネ)に似た者同士と言われたのは少し嬉しく思えたが、この男のことだ。精々傍迷惑に思っている。その程度の情緒しか無いに決まっているからだ。 


「分からなくも無い」


 それだけに(シロガネ)から肯定されたは意外だった。


「そういう気持ちがあったからブラクロス王と、ネーヴィカ姫の命に従った。同じ気持ちを持っているから、今の状況を不満に思っている」


「言われてみれば当然だな……私が(シロガネ)の立場なら同じように思っただろう」


 (シロガネ)は考えていることが表に出にくい性質なのかも知れない。

 そうだとすれば、今の自堕落な態度にも理解出来るとレーヴェンスは頷く。


 要はこの男は不貞腐れているのだろうと。

 子どものような男だと思った。男が男に思う感情としては不適切かも知れないが、可愛いらしいとも。


「まあ、その退屈も今だけだ。(シロガネ)のお披露目をした後は、外の世界に放り出され戦いに相次ぐ戦いの日々だ。逆に退屈な日々に郷愁(きょうしゅう)を覚えることになるかも知れんぞ?」


「そうなれば言うことはない」 


 相変わらず投げやりな態度だった。

 今の態度が、王命を果たせない事に因るものというのも怪しい話である。

 酷く恐ろしい脅威に晒されても、投げやりなままでいるのでは無いかと思えるほどに。


 元来、レーヴェンスはこのような態度をする者を良く思わない手合いなのだが、(シロガネ)に限って言えば、不思議と嫌悪感を抱かなかった。

 投げやりだが、怠惰では無く、自暴自棄であるようにも見えなかったからだ。


 (シロガネ)と知り合って、たったの三日。

 それも合間を縫って言葉を交わす程度で、決して深い仲であるとは言えない関係だ。


「ぶれない男だな。お前は」


 ぶれない。つまり、確固たる己が、一本筋の通った軸によって確立されている。

 ある意味で愚直。言うなれば同類だ。


 嫌悪感を抱かないのも当然だとレーヴェンスは思った。


「一度確立してしまった性根は変わらない。それは誰にでも言える」


 同類なのだとすれば、目指す道も同じだからだ。

 (シロガネ)と価値観を共有することが出来ると信じて疑わなかった。

こういった具合で銀に関する情報は台詞や態度のみです。

本当のことを言っているかも知れないし、嘘を吐いているかも知れません。

他のキャラクターの主観によって様々な評価が下されますが、

人によって好悪もありますし、それらの評価が正しいとは限りません。

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