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第四十二話:決着

 ヴェレトの頭上に三体の異形が出現する。呪法によって生み出された使い魔たちだ。

 使い魔たちが動き出すよりも先に投爆刃(とうばくじん)に貫かれ、爆散する。


 吹き荒れる爆炎を煙幕に見立て、我が身に燃え移る炎をも意に介さず、間合いを詰めた(シロガネ)はヴェレトの口元に投爆刃(とうばくじん)を撃ち込み、鋼板で補強されたブーツで顎を蹴り上げ起爆。両者の間で爆発した粘性を持つ炎が拡散し、両者の間合いを再び広げた。


 炎を突き抜け、戦槌を大上段に構えたヴェレトが猛追する。

 彼の顔は焼け爛れ、右眼だけが大きく開いている状態だったが、その勢いは些かも衰えることは無い。

 (シロガネ)がその猛撃を悠然と受け止めることが出来たのも、ヴェレトの猛追を予測していたかのように万全の体勢で剣を構えていたことと、左眼を潰され、遠近感の微妙なずれに対応できなかったからだ。

 液体が沸騰する音を立てて、焼け爛れたヴェレトの皮膚が再生を始める。

 銀は背中のガンベルトに手を回し、指の間に挟んだ投爆刃を次々に投げ付け、ヴェレトはその尽くを打ち払わんと、戦槌の巨大さに見合わぬ機敏な軌道を描いて弾き返す。


「不発……? いや、これは……!」


 投爆刃は刀身の中に火薬燃料を充填した爆弾で、呪法によって強化された戦槌で衝撃を与えようものなら確実に起爆する代物だ。

 爆発すると分かっていれば、心構えも出来る。銀のような細身ならその衝撃で吹き飛ばされもしようが、ヴェレトの体格と膂力ならばそうはならない。

 それ故に打ち払ったのだが、銀が放った投爆刃は爆発するどころか、圧し折れた刃の中から液体燃料が漏れることすらなかった。 


「紛い物か!」


 気付くと同時に、投爆刃がヴェレトの両膝を貫き、赤熱化を起こし、爆炎を広げた。


「姑息なァ!!」


 怒号への反論は無い。膝を変形させて崩れ落ちるヴェレトの後頭部に、跳躍からの大上段斬りが振り落とされる。

 (シロガネ)の刃がヴェレトの皮膚に接触する寸前、魔法陣に似た半透明の障壁が出現し、硝子を割る音を立てて、斬撃を食い止める。


 呪法だが、それが物理的な障壁であると判断すると、蹴り飛ばして斬撃を放つ態勢を整え、

「チッ!」


 銀は舌打ち一つして、剣を盾のように構え、障壁から放たれた巨腕の一撃を受ける。


 放物線を描いて虚空を舞う(シロガネ)を追って跳躍するヴェレトの打ち上げるようにして繰り出された打撃を受け流すも、その衝撃に(シロガネ)の身体が凄まじい勢いで回転する。

 前後左右の感覚を狂わされた(シロガネ)の視界に、上を取ったヴェレトが落下と共に戦槌を叩き落そうとしているのが見えた。

 厳密には見えているわけではない。恐らくそうなのだろうという推測だ。


「死ねよ!! 異界人(いかいびと)ッ!!」


 (シロガネ)もただ黙って攻撃を受けようとするばかりでは無かった。

 だが、その抵抗も虚しく(シロガネ)の身体は地面に叩き付けられ、その衝撃で地面は陥没し、(シロガネ)は口腔から鮮血を吐き出す。


「これで仕舞いだァァァァッ!!」


 戦槌を構え落下するヴェレトが着地と同時に剛撃を振り落とす。

 それだけでは殺せない。この程度で死ぬ手合いでは無いと、呪法の巨腕を幾つも生み出し、陥没した地面に雨霰と拳を降り注がせる。

 人間の肉体など一撃で押し潰し、前進の骨を粉砕するほどの威力を持った一撃が間断なく繰り出されているにも関わらず、ヴェレトの顔には脂汗と戦慄が浮かんでいた。


「この世界の人間を蛮族だのなんだと言っている割に学習能力がないな」


 (シロガネ)の言葉がヴェレトの耳朶を刺す。

 その声色は泰然としていて、一撃必殺の攻撃を何度も身に受けた者の口振りでは無かく、ヴェレトは思わず陥没した地面から飛び退かせた。

 彼が両手に構える戦槌の打撃面は凸凹に歪んでいる。人間を殴打して出来る類の損傷ではない。


「呪素も呪法も、貴様達だけの力では無い」


 陥没した地面から飛び出した銀がヴェレトを追う。

 最初の吐血以外、(シロガネ)に有効なダメージを与え切れていないのは、ボロボロになった服の隙間から見える素肌の状態で分かった。


 何より――、


『早い……!!』


 (シロガネ)の繰り出す斬撃は宛ら、真空刃の嵐であった。

 躱すことも防ぐことも出来ず、ただ一方的に斬り刻まれていく。(シロガネ)の斬撃が止まったのは剣が圧し折れてからのことだった。

 力の差は圧倒的だ。このまま続けてもヴェレトに勝利は無い。


『潮時か』


 圧倒的な力の差を認めるほかなかった。


「忌々しい野郎だ! 防壁を解除する!」


 はっきり言って賭けだ。

 共和国と連邦の境界線上に敷いた物質化した呪素の壁を取り込めば、ヴェレトは単騎で一個軍団にも匹敵する力を得ることが出来る。

 勝利は決定的になる筈だった。(シロガネ)の存在さえいなければ。


 この男は呪素だけでは無く、呪法さえも喰らう。バーグ族やヴェレトにすら出来ない芸当だ。

 呪素の奪い合いになった時、どちらがより多くの呪素を喰えるか未知数なのだ。 


 仮に(シロガネ)に勝利したとしても防壁の向こう側から、原住民の兵がどれだけ現れるかも同じく未知数だ。

 (シロガネ)の命と引き換えに多くの同胞を蹂躙されるかも知れない。それでもヴェレトは城壁を解除する他なかった。


『突然、奇跡的に新たな力が目覚めるとか、軍の超大型機動兵器が転移してくるなんて展開にでもならなきゃ、俺はコイツに殺される! 俺が死ねば、コイツを止められる奴はいねぇ……!』


 賭けだが、選択肢など存在しないようなものだった。


『コイツを光の速さで殺して、防備に戻るしか、バーグ族の未来はねぇ……!!』


 結論から言えば、バーグ族の未来は閉ざされた。

 多くの呪素を(シロガネ)に吸い上げられたヴェレトは、この星の成層圏へと打ち上げられ、(シロガネ)の体内で圧縮された呪素が世界に拡散されようとした瞬間、呪素の砲弾となってヴェレトを消滅させたのである。


 王国、共和国、連邦の軍が自由都市ティブランに押し寄せ、残るバーグ族を瞬く間に殲滅。

 無の出現を端に発した悪魔の争乱はひとまずの収束に向かった。

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