プロローグ:嘲笑の裏切り
四十八期ブラクロス暦二十三年冬季。
「何でだ……? 何でこんなことをした!? 銀ェェェェェェェェェェェェッ!!」
城下町を一望できるストックリー城のテラスから、聖戦士レーヴェンスの絶叫が轟いた。
銀と呼ばれた長身痩躯の男の傍らには、鮮血を噴き出す醜悪な噴水が二つ並んでいる。
人の形をした噴水には首が無い。
ブラクロス王と、ネーヴィカ姫の首が無い。
銀の凶刃で刎ね飛ばされたからだ。
斬り落とされた首は、世界を救った勇者、銀の姿を一目見ようと集まった民衆たちの間に消えた。
消えたのだ。
固い石畳の上に落下した二つの生首は、骨が砕ける音を響かせ、その形を歪めた。
この国の王と姫だった顔の残骸に、かつての面影はない。
打ち上げられたクラゲのように形を歪ませ、決して小さくない血だまりを作った。
コレは、王と姫の顔ではない。
あまりにも非現実的な光景に、民衆は悲鳴をあげるどころか、呼吸をすることも、固唾を飲むことさえ忘れたかのように静まり返っていた。
誰もが現実を受け入れられず、レーヴェンスだけが激昂する中、銀は嗤っていた。
声を漏らすことなく、しかし確かに、肩を震わせ、腹を抱えて嗤っていた。