トラバルト 1
「男を殺してきなさい」
「でも!」
「そうしないと生きられない」
ママがそう言うけれど、そんなの私じゃ無理だよ。
「一人殺せるようになるまで、魔力を封じるわ」
◇
家を追い出されて森を彷徨って、夕刻になればもうこのあたりに歩く人がいない。
人里に下りれば彼らが魔族の私に怯えてしまう。
「お前は何者だ!?」
「若い人間! 魔力を……少しだけ、いえなんでも」
冠をつけた王子様に声をかけられて、どうしたらいいかわからなくて私は気絶してしまった。
「誰かいるか!」
目を覚ますと知らないきれいな絵の天井があった。
知らない部屋の窓から覗くのは、夜空に星が沢山ある圧巻の光景。
「目を覚ましたようです」
「よかった」
気難しそうな水色髪の青年が、王子様に報告するとこちらに笑みを浮かべる。
「ありがとう人の国のプリンス」
「衣服から魔族のものでも高位と見受ける。なぜそのような衰弱を?」
賢人と思われる清貧な装束の男性が私に問う。
「母に修行をせよと半分の力を封じられ、補給も物質たる食事ではないので」
「獅子は子を滝に落とす。というやつか」
エルフの少年が、なぜここにいるのだろう。
この国が異種族と交流のある国なのか、私を見ても恐れる様子がない。




