領主の娘フィリア 共通1
「皆、転校生を紹介するぞ」
「ネシュティーファです! シャープナ―バから来ました!」
毛先を巻いた緩やかにうねる黒髪、天真爛漫そうな笑顔に男子は釘付けだ。
「彼氏いるのかなー」
「ボブったらなによデレデレしちゃってやーね!」
「よう転校生。結構可愛いじゃねえか、俺の女になれ!」
席を俺の隣にしろと言う彼を無視し、教師が席を指定する。
ネシュティーファは頷くと、一瞬でその椅子に座った。
「……!」
誰も彼女移動するところを捉えていない。隣にいる男子もだ。
「な、何者!?」
「ただの魔法だよ!」
<何もすごいことはしてない>屈託のない表情でクスクスと笑いながら言った。
■
「どっと疲れが……」
「爽やか王子くん、どしたよ。転校生が変なやつだったんか?」
「いえ、そちらのクラスに比べればまともですけど」
「笑顔で悪気なく言うのやめい。余計刺さる」
「その、今朝こういうことが……」
「アサシンかい?」
「シノビごっこ?」
「僕のクラスにはそういう家業の子もいるんだが」
「おいおい……マの子やら邪神教はまだしも……」
「この学園、色々と終わってるな」
■
口の中にうっすら広がる鉄のような味、ザリザりとした砂を噛んだ事に不快感を感じ、身体を起こす。
外は真夜中の砂漠地帯、景色はほとんど変わりはしない。
しばらくして、馬が鳴いた。揺れていた馬車が停止する。
起きているかの確認をされるが、口を濯ぐまでなるべく会話したくないので頷く。
すると御者の中年男は目的地に着いたことを教えてくれた。
料金を払って馬車を降りる。男は私を引き留めた。
「お嬢ちゃん、なんだってあんな危険な場所に、しかも一人で行くんだね?」
犯罪が頻繁に起きていて、無いことのほうが珍しいくらい荒れた都市。
あんな所へ観光なんて、死ににいくようなものだろう。
けれど違う。私はあの街に住んでいて、遠出からの帰りだ。
そう答えれば、この男は恐怖に叫んでしまうかもしれない。
こんな夜中に大声を出されるのは困る。なんて答えようか黙っていると男は首を振る。
‘詮索するのはよくないよな’独り言のように言って馬を走らせて去った。
帰宅して砂埃にまみれたローブを脱ぎ、身支度を整える。
「……ただいま戻りました」
■
「………れよ! 恵みよ! 切り裂く黒曇!」
「どうしたネシュティーファ、心が入ってないぞ」
「学校で瞬間移動したら驚かれたの」
「一年生で魔法を使いこなせるのはそういないからではないか?」
「名門っていうから期待してたけど、全盛期のラウル・ドゥルグル世代とは違うみたい」