リーゼンベルクの暗殺姫 共通1
その国へ足を踏み入れたものは、楽園とも地獄とも言った。
感じ方は人それぞれ、善悪の定義が異なるように、何をもって正しいかは当人次第。
『狭いなぁ……いつになったらここから出られるんだろう?」
「やあ、お姫様」
目を覚ますと長めの銀髪の端正な顔立ちの男が顔を覗き込んでいた。
私は口を布に覆われて話すことはできない。
腕は軽くロープか何かの、太めの縄に縛られている。
「どうしてここにいるか、わからないって感じだな? それなら俺達が連れてきたからだぞ」
黒髪の少年は私の聞きたかったことを言い当てた。
というより、普通は誰でもそう思う状況だろう。
「どういうわけで連れてこられたか、 知りたいよね?」
男は問いかけてきたけど、口を布で塞がれたままでは答えられない。
「ああ、ごめん」
話せるように、布を取られる。息を吸い込んで呼吸をととのえた。
→[教えてください]
[興味ないわ]
「君はヨウコクの王女だろ? 身代金を100000マドほど請求したんだ」
通貨にはコエ、マド、ゲルポがあり、10000マドがあれば5年は何もせず暮らせるだろう。
民から集めた税金が、私のような存在になど、支払われていいはずがない。
「第一王女であればともかく、第二王女の私に払われるとは思えません」
「……聞き込みでは王の一人娘だと聞いたけど」
「え? (私の存在は公表されていなかったの?)」
「アセノスさん、偵察が王からの返事を持って来ました」
「どれどれ、身代金について……?」
「普通は身の安全を気にするとこだろ」
「払うつもりはないらしい……」
男は手紙を少年に渡すと、彼が読み出した。
「今まで金がなくて払えないって場面は何度も見てきたが、こんなの初めてだ」
二人揃って憐れみと身代金が入らず落胆の混じる複雑な表情を向けて来た。
「……影武者ってことなんだよね?」
たしかに王女が人質ともなれば、ふつうは身代金が用意される。
「でも影武者のわりに王と容姿が似てませんか?」
「あのな」
そういう意味で言ったわけではない。アセノスは何か言いたそうな顔をした。
私は姉とは似ていないし、私は父に似ているとメイド達の噂を聞く。
何故かわからないけれど、あの冷酷な王を父と思いたくない。
向こうも自分の子とは思っていない事が、今回のことでよくわかった。
娘に似ている他人だから、切り捨てられたんだろう。
そう言う彼の見解は正しくないが、普通の考えで、それが一番良い事。
何かの間違いと言えたら幸せだったことだろう。
悲しくも確信を持って、見捨てられたと断言出来てしまうのだ。
正確には切り捨てられた。というべきだろか。
彼らが王女を一人だと思っていて、今日は城に姉がいなかった。
そして、必然的に私は連れてこられたのだから。