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魔法銀の竜  作者: アルカスの爺
幼竜カダル
9/10

天空より来るもの

 母と魔物についての話をしてしばらく。

 わしは母の縄張りの中を飛び回っていた。

 人がこの世界の住人ではないかも知れない、そう言われた時は元人として戸惑ったものだが今のわしは竜。

 こういうと酷いがもう人ではないし、わし自身は確実に世界の部外者じゃ。

 いずれ確実に世界から去る時が来るのならその時が来るまで悔いなく生きるしかない。

 結局は終わる定めの人の生と同じ結論に至ればなんてことはない。やることは一緒じゃった。


 そう考えなおすとわしはある程度飛行ができるようになった体を使って母の縄張りをその翼で飛び回った。

 母の縄張りを覚えておきたかったし、何より飛べるようになったとはいえ、この羽はまだ弱い。

 長距離の飛行や悪天候の際にも飛べるようにさらに鍛えるためにも縄張りの中を飛んで回っていた。


「しゃあ!」


 驚いたのは竜たるわしに戦いを挑んでくるものが何種類かいたことじゃった。

 1種類は今、直上から飛んできたのを交わしたワイバーン。

 同じ竜種ではあるが、知能が低く、縄張り意識が強いためあまり相手の力量を理解することがない。なまじ体が強いために相手を警戒する必要がなかったためと思われる。


 わしは飛行のスピードを上げるとワイバーンから逃げる。


 最初の頃は相手をして食事にしていたのだが、途中から敵の攻撃がこちらを傷つけられないと分かればわざわざ倒すのも気が引けて腹が減ったとき以外はこうしてスピードを上げて振り切るようにしていた。

 最初の頃はこちらのスピードが遅く、加速力もなかったことから追いつかれることもあった。だが今では徐々に引き離していくくらいのことはできるようになっている。

 できればもっと速く飛べるようになって追いかけられるような形にならないようにしたい。

 傍から見るとまるで銀竜がワイバーン程度から逃げているようでかっこ悪いのだ。まぁ、実際逃げているのだが。


 もう1種類は窮奇と呼ばれている魔物で虎の姿に翼を持ち、風の魔法を操る。

 動きが素早く、風の魔法を利用して縦横無尽に空を駆けるので直線的な動きで魔法も使わないワイバーンよりも空中での近接戦闘では厄介だった。

 ただこちらもわしの鱗を貫くほどの攻撃はできないし、飛行の最高速度はワイバーンの方が上なので近づかれる前に逃げれば戦いにならない。

 ただ窮奇もワイバーンも飛行技術で言えば年季が入っている分、わしよりも格段に達者であった。

 だから時にはわざと戦闘をしながら彼らを先生に飛行技術の習得に励んだ。相手を殺さないようにただひたすら避けたり、鱗で受け流したりと防御面で練習になったのも大きい。相手が諦めるまで続くのが難点じゃな。


 そんな風に日々を過ごしていると母の縄張りの西側、深い雪に覆われた高い山脈の向こうから何かが来るのを感じた。

 そして次の瞬間、それは怖気を伴う気配となって一直線に母の縄張りを貫いた。

 その気配を受けたわしはまるで体を真っ二つにされたようなに感じた。

 わしはすぐに身をひるがえすと母のいる縦穴に向かって全速力で飛ぶ。


 あれは敵わない、戦ってはいけない。


 竜の本能がそれを全力で伝えていた。捕まる前にあれから逃げなければ!

 しかしその気配は母の縦穴に向かって一直線に母の縄張りを貫いていた。

 だからこそわしもその気配をまともに受けたのだ。当然、背後からはその気配がわしを追ってくる形になる。

 ワイバーンとの追いかけっこなど比ではない。わしは全身全霊を持ってその気配から逃げていた。

 それでも気配を振り切ることができない。むしろ距離が近づいてきているのが分かる。

 竜の目をもってしても確認することができない遠距離にいるにも関わらずこの気配である。接近されれば気圧(けお)されて動けなくなるかも知れなかった。

 そうなっては一貫の終わりである。


 気が付けばわしの周りから生き物の気配がなくなっていた。

 後ろから来る気配を浴びてすべての生き物がその場から逃走したのだ。

 動けない木々でさえも存在していることを隠そうとするかのようにひっそりと息をひそめているようだった。


 全力で飛んでいたわしが母の巣までもう少しというところになって空気が急に軽く感じるようになった。

 後ろの恐ろしい気配が薄れて呼吸が楽になるのを感じる。それは安堵の感覚だった。

 わしの飛ぶ先、その視線の先に1匹の金竜が立っていた。

 普段はあまり縦穴の巣から外に出てこない、母がそこに立っていた。

 わしは全速力のまま母の立つ、腹の下に隠れる。身を縮こまらせてなるべく自身の体が母の体の外に出ないように必死で隠れるようにした。


 母もあの恐ろしい気配を感じているはずなのだが、その呼吸は落ち着いていてそれにつられるようにわしの呼吸も普段の落ち着きを取り戻していった。

 そうしてやっと呼吸が落ち着いたところで母の前に何かが降り立った。


 それは金色の4本の足だった。

 母よりもその足は太く、爪は長く鋭いように見えた。

 その金竜の動きに合わせるように母が動く気配がする。


「久しぶりね、天空流転のスペリオル」


 母から出たその金竜の名前は前に聞いた母と同格の竜、創世の六竜のうちの1匹の名だった。

読んでいただきありがとうございました。

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