目を覚ましたら全裸で床に倒れてた
寒さで目を覚ますと、なぜか床に倒れていた。しかも全裸だ。
自分はなぜこんなことになっている?
記憶が曖昧な上に思考がまとまらない。それに妙に体がだるいし寒い。しかも自分や床は大量の水で濡れている。一体何があったのだろうか。
落ち着くためにもまずは状況を確認しよう。
震える四肢に力を込めながら、ゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。
どうやら部屋のようだ。白い壁に囲まれている。おそらく閉じ込められているのだろう。
部屋から出られそうなドアが一つだけある。そして天井の隅には監視カメラのようなものがあった。随分と古風なカメラだ。もしかすると自分を閉じ込めて監視しているのだろうか。
大きく深呼吸をしてから、自分の事を思い出す作業に入った。
――そうだ。私は軍人で任務の遂行中だった。だが、途中、船が故障して操作不能になり何かにぶつかった気が――もしかすると、その時の衝撃で気絶してしまい、原住民に捕まったのか?
状況から考えて、意識を失っている間にここへ運び込まれた可能性が高い。
任務中、原住民との接触は避けるべきだと言われていた。原住民が友好的かどうかは分からないのだ。より多くの情報を得てから接触するべきだと、きつく言われていることも思い出した。これはまずいかもしれない。
不意に音が聞こえてきた。音と言うよりも声なのだろうか。何かを言っているようだが、分からないし少し不快な声だ。
「何者だ?」
知っている言葉で問いかける。だが、反応はない。おそらく相手も私の言葉が分からないのだろう。
何度か話し掛けたが、やはり通じていないようだ。会話するのは不可能だろう。ならば会話は諦めて、逃げることを考えよう。
ドアの取っ手に手をかけ引いてみた。たったそれだけで扉が壊れた。随分と脆い扉だ。
そう思ったのもつかの間、さっきよりも不快な音が響き渡った。同じタイミングで同じ音を継続して鳴らしている。これは声ではなく何かの警告音か。
どうやら私が部屋の外にでると音が鳴る仕組みだったのだろう。迂闊な事をしてしまった。とはいえ、もう手遅れだ。
部屋から首をだし、左右を見る。
硬そうな金属で覆われた通路になっていて、等間隔に扉が設置されている。この部屋は多数ある部屋の一つだったのだろう。
通路に誰もいないことを確認し、部屋の外に出た。そして右の方向へ走りだす。そもそもここがどこなのかも分からないのだ。まずは手あたりしだいに移動しよう。
通路の曲がり角を左に曲がった時だった。そこに何者かが複数立っていた。
なんだ、あれは?
どう見ても異形だ。醜悪そうな顔、そして病気のような肌。これが原住民なのか。
それに持っている物は武器かなにかか? 随分と原始的な武器を手に持って構えている。慌てて曲がり角を引き返した。
直後に何かが飛んできて通路の壁に当たる。やはりあれは武器なのだろう。私を攻撃してきたのだ。
やはり好戦的な原住民だったか。文明が遅れているから仕方ないのかもしれない。接触はまだ早いということが分かっただけでも良しとしよう。
あれを食らっても死ぬことはないだろうが、かなりの痛みを伴うはずだ。できるだけ接触は避けて逃げ出さないと。
だが、いま来た道を引き返すわけには行かない。なにやら通路の逆側からも足音が聞こえる。挟まれているのだろう。
通路を見渡す。
なにか策は――見つけた。通路の天井にダクトのようなものがある。ダクトなら外に繋がっている可能性が高い。これに賭けよう。
ダクトの網を取り外し、中へ入る。少々狭いが、色々なところへ通じていそうだ。ダクトの中で風が吹いている方へ向かえば外へ行けると思う。そちらへ向かおう。
ダクトの中に振動が響き渡った。どうやら通路の天井を攻撃しているようだ。急ごう。ダクトの中は脆い。攻撃されたら天井を突き抜けて攻撃される。
迷路のようなダクトを風の吹く方へ向かう。外に出たところで船の場所が分からなければ意味がないのだが、ここにいるよりはマシだろう。問題は船が動くかどうかだ。壊れたままでは逃げ出すこともできない。
多少の籠城はできるだろうが、修理が終わるまで耐えられるだろうか。できるだけ原住民は殺したくないが、いざとなったら仕方がない。不慮の事故だ。罰せられることもないだろう。
長いダクトの中を移動していると、不意に明かりが漏れている場所を見つけた。そこから何かの話し声が聞こえる。何を言っているのかは分からないが、さっきと同じ奴らがいるのだろう。
なにか情報が得られるかもしれない。光が漏れている網から中を覗いてみた。
おそらく何かを研究する部屋なのだろう。さっきと同じ奴らが二人、話をしているようだ。身振り素振りから言い争っているのかもしれない。
だが、そんなことよりも重要なのは二人が武器を持っていないことだ。これなら、素手でも勝てるだろう。
ダクトのある天井から強襲して二人を昏睡状態にした。
なんと脆い。文明もそうだが、肉体的にも貧弱なのだろう。
接触は駄目なことだが色々な情報を得られるのはありがたい。これで今回のミスを何とか帳消しにしてもらおう。
部屋の中を見ると、私の服があった。そのほかにも色々な機械らしきものがあるが、はっきり言って骨とう品レベルの機械だ。そんな骨とう品でどうやら私の服を調べていたようだ。
こんなところにあるなんてどうやら私は運がいいらしい。捕まってしまった時点で運は悪いがこれでプラマイゼロだろう。
ガラスの中に置かれているので、素手でガラスを割った。そして服を取り出し、急いで身に着ける。
これがあれば、船の場所も分るだろう。
服の機能ですぐに船の場所を割り出した。どうやらこの建物の地下に置いてあるらしい。ありがたい、すぐに向かおう。
原住民との接触を避け、地下までやってきた。
私の船を守っている原住民がいたが、服を着ている私にそんな武器では傷もつけられない。すぐに蹴散らしてから船に乗った。
調べてみたが、故障はすでに直っているようだ。自己修復機能が作動していたのだろう。
ようやく一息つける。
やれやれ。上司に叱られるかもしれないが、原住民の情報は少し手に入れた。これを使って交渉するしかないな。
さあ、気は重いがとっとと帰ろう。
……でも、おかしいな? なんでこの時計って10年も進んでいるんだ?
「――速報です。〇〇県××市の山中にて爆発事故がありました。化学薬品を扱う工場で実験中に爆発を起こしてしまったようです。今のところ死者は出ていないようですが、多数のケガ人が出ています」
「怖いですね。化学薬品を扱う工場ということですが、周囲に影響はあるのでしょうか?」
「その辺りは現在調査中だそうで、現場には近寄らないようにとのことです。ただ、大量の液体窒素が溢れたとの情報はあります。その影響で現在はほぼ山一つを規制しているようですね。このニュースにつきましては、新しい情報が届きしだい、お知らせいたします。では、次のコーナーです。リアルタイムでネットを騒がしているニュースを紐解く――あら?」
「どうされました?」
「失礼いたしました。どうやら先ほどの爆発事故と同じ県でのニュースのようですね」
「爆発事故の件がネットですでに騒がれているのですか?」
「いえ、そういうわけではないようです。どうやらその県に住んでいる多数の方が、UFOを見たという話題です」
「UFO? 未確認飛行物体ということですか?」
「はい、そのUFOです。動画も多数配信されていて、ネットでは話題になっているようです」
「夢のある話ですね。たぶん、流れ星か何かだとは思いますが、異星人が本当にいるなら会ってみたいものです。そういえば確か10年くらい前にも騒がれましたよね? UFOらしきものがどこかの山に落ちたという話を聞いた覚えがありますが」
「確かにありましたね。どこに落ちたのかは忘れてしまいましたが――では、次のコーナーに移りましょう。次はエンタメ情報です。これまたタイムリーですね。異星人を主人公にした映画が発表されました。公開は――」