桜は突然に、梅はゆっくりと、、、、。
いい短編ができたので載せてみました。
評価、指摘などあったらコメントが欲しいです。
長編も連載しているので暇だったら覗いていただけると、やる気がでます!
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田中 圭は孤独感を心のどこかで感じていた。母は離婚して家を飛び出し、父は単身赴任で家に帰ってこない。家ではいつも一人だった。
2月の下旬、暖かな日のこと。
僕は買い物の帰り道に公園を横切る。梅の花が咲き始めていた。鮮やかな白と桃色。なんだろう、、、、、。懐かしさを感じる。僕は立ち止まって花を見つめる。もう夕方近い。
「こんにちは!」
背後から朗らかな声が僕を包む。振り返ってみると、、、、、
「誰、、、、、、?」
薄桃色の髪を伸ばし、白いワンピースに身を包んだ同じ年齢くらいの女性がいた。まるで幼なじみかのような調子でニコニコしながら近寄ってくる。
「ねぇ、ねぇ!!君、いつも独りだよね!!私もいつも独りで寂しいんだ!!だから、家についていってもいいかな?」
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「おいしかった~!!」
彼女の積極的なアプローチを断ることができず夕食をともにするという羽目になった。満足そうな笑顔。容姿の割に中身からは幼い印象を感じる。
僕は久しく家のリビングテーブルで他人と食卓を囲んだ。初対面の人であったが会話は思ったより弾み、有意義な時間を過ごすことができた。帰り、ドアの前で、
「今日はありがとう!!そうそう!!言い忘れてたけれども私の名前は“うずめ”。
あっ!!君の名前も聞いてなかった!!名前は?」
「田中 圭です。」
「圭ちゃん。いい名前だね!!わあ!もうこんな時間。よい子は門限を守らないと!!また会おうねーー!」
うずめさんは大急ぎで駆けていく。そして暗闇の中へと消えていった。こんなに馴れ馴れしい人は初めてだった。僕は星空を見上げながら自分に兄弟でもいることを想像するのだった。
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「また会ったね!」
なんとなく今日は学校を欠席して昼に公園へ散歩をしに来たらうずめさんに会った。彼女は梅の花の前で立ち止まっていた。
「どうしてここに?学校は?」
「君と同じだよ。」
三日前とは違い今日は少し空気がひんやりとしていた。そのせいだろうか?彼女も以前と比べて元気がなかった。
「ねぇ!今日も、、、、、、、」
「僕は寒いから家に帰ります。うずめさんも体調に気をつけてください。」
冷たい風が吹く。僕は急ぎ足で散歩を終わらせた。
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ある休日。
いつもより重めのエコバッグを右手にぶら下げ、(どうして2人分も買ってしまったのだろうか?)無意識に公園へ足を踏み入れていた。梅の花は満開に近く、多くのお花見客でいっぱいだった。その中にやはり彼女はいた。梅の花の前に立ち止まっていた。今まで見たときよりも高潔でより凜としている気がする。
「うずめさんですよね?」
「あれ、田中君?こんなところで会うなんて奇遇ね。」
「本当にうずめさんですよね?」
「そうだけど。私、どこかおかしいかしら?」
最初にあった時の子供っぽさはなくなり、落ち着いていて言葉遣いも大人びている。この短期間の間に彼女に何かあったのだろうか?
うずめさんは花に向き直る。
「綺麗だよね。ここの梅の花。」
「そうですね。」
そう、この前懐かしいと感じたのは幼いときに家族3人でここに遊びに来たからだ。今まで忘れようとして閉ざしていた記憶。だって思い出すとあのときの楽しさを求めてしまうから。
「うずめさん、今日の夕食、一緒にどうでしょうか?」
エコバッグを持ち上げると野菜を包むビニール袋がガサガサッと音を立てた。
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夕食後、紅茶を飲みながらお話をしていた。
「お母さんは家を出て行ってしまって、お父さんのほうは?どうして帰ってこないの?」
「1年ぐらい二人で一緒に暮らしてたんだけど、単身赴任になって、それからは正月やお盆ぐらいにしか会ってない。本当は普段の自分を見て欲しいんだ。時々学校をサボっているところとか、友達と一緒にゲームしているところとか、安い食材でおいしいものを作ったところとか、、、、。“特別”ではない普通のところを。」
少し話しすぎてしまった。なぜだろうか?彼女の前だと悩みを全て打ち明けてしまう。
「私もわかるよ。“特別”じゃないところを見て欲しい気持ち。」
彼女は砂糖たっぷりの紅茶を飲む。
「うずめさんの親は、、、、その、、、、」
「な・い・しょ!」
机から乗り出し向かい側に座る僕の唇に人差し指を当てる。ニコッと嫌らしい笑顔を見せながら。
すると彼女は席を立ち上がり僕のすぐそばまでやってきて耳元でささやく。
「いつも一人で寂しいから、その、、、、、1週間ぐらい泊まってもいいかな?」
うずめさんは赤面して恥ずかしそうにうじうじしている。
「もちろん部屋は別々!ついでに田中君はあんまりタイプじゃないかな。」
それはハッキリと言った。
「僕も同じです。」
僕もうずめさんはタイプじゃない。そしてもう1つ。いつも1人で寂しいのも一緒。
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それはとても充実した日々だった。日中はお互いに学校。家に帰ると、
「宿題教えてくれない?田中君頭いいでしょ?」
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「うずめさん、美術の宿題出されたんですが、ここは何色がいいと思いますか?」
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「圭、このゲーム、クリアできないんだが、、、、、、。」
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「うずめー!ごはんできたぞ~~!」
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日に日に距離は近づいていった。毎日が楽しかった。そしてこんな日々がいつか終わるなんてその時は考えもしなかった。
有言不実行。2週間、彼女は僕の家で過ごした。それはあっという間だった。
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夜9時頃、僕は風呂から上がりパジャマに着替えキッチンへ向かおうとする。
ドアを開けると、
「はい。」
コートを差し出すうずめがいた。彼女はすでに厚着をしている。
「なんとなく散歩に行きたい。」
雲は1つもなかった。1列になって歩いた。“ついてきて”と言うから。
「圭。」
「何?」
「“特別じゃないところを見て欲しい”って前に言ってたよね?」
「そうだけど、、、。」
「梅の花はどうだろう?」
「えっ?」
「花が咲いているときは多くの人が見に来てくれる。でも夏、秋、冬はわたしを見に来てくれる人なんて誰もいない。それはどうしてだと思う?」
「なんとなく?」
「普遍的だから。みんなそう思っている。その中に“特別”があるなんて誰も思っていない。誰も小さな“特別”に気づくことなんてない。そう、君のお父さんだって。」
公園にいた。1本の木の前にいた。梅の花。ライトアップされている。花びらは散ってほとんど若々しい緑で覆われていた。うずめが立ち止まったので僕も立ち止まる。
「誰だって思い違いをしたり、良く見せるために嘘をついたりする。だからちゃんと伝えないといけない。」
彼女は振り向く。そして僕の目の前へ歩み寄る。
うずめは胸の前で、右手で横ピースをする。夜中には似合わないとびっきりの笑顔を添えて、、、、。
とても強い冷たい風が吹く。フードが勝手に舞い上がり僕の頭を覆う。視界が奪われる。
フードを外すと、うずめはいなかった。地べたに落ちていたであろう花びらが宙を舞っていた。
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次の日に夜のこと、、、、。
圭はスマホを手に取った。電話帳の欄から“父”を選ぶ。少し時間をおく。そして思い立ったかのように“通話開始”を押した。
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「ねぇ、、お父さん、、、。自分がわがまま言っているのはわかってる。電話をしても変わらないかもしれないのはわかってる。でも伝えるだけ伝えたい。」
「たまには、帰ってきて欲しいんだ、、。」
父の部屋で留守番電話が響いていた。
読んでくれて誠にありがとうございます。
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