黒旗が望むは自由
「ナナ・・・まっ!・・・な・・・さまっ!」
遠くで声が聞こえる。
何が起きたのだろうか・・・。
そうだ、ガスに引火させて・・・作戦は成功したんだっけ?
人間は全員吹っ飛ばした・・・それで、そうだ地面が爆発したんだ。
俺は地面のヒビから溢れ出てきた爆風と閃光に吹き飛ばされた・・・。
痛い・・・。
全身がジンジンと痛い。
血と肉の焦げる臭いが呼吸をするたびに俺の肺を満たして吐きそうになる。
眠い・・・このまま、眠ってしまおう・・・。
「く・・・ぅ・・・ぁぁああ・・・はっ!」
俺は右半身を襲う痛みにより目を覚ました。
見覚えのある天上。
村長宅の二階の部屋だ。
「くふぅ・・・くっ・・・」
息を吐き出しながら体を起こす。
俺の右半身は損傷が激しく、手や足を動かすのが難しい。
思いっきり力を入れてもうまく力が伝わらないのだ。
自由に動く左手を右目の前にかざす。
「・・・」
俺の右目はすでに光を感じなくなっていた。
カランカランッ!
突然、扉のほうから何かが落ちる音が聞こえる。
そこにはミーシャが立っていた。
「ナナシ様・・・!」
ミーシャは俺の姿を捉えると駆け寄ってきて俺のことを強く抱きしめた。
「いたたっ・・・」
「あっ、すいません」
俺が思わず漏らした言葉にミーシャは飛びのいて謝る。
少し惜しいことをしたかもしれない。
「もう5日も目を覚まさないので・・・私・・・」
ミーシャは涙を堪えるように言った。
「まだ、人間は攻めてきてないですか?」
「・・・っ・・・・・・もう、もういいじゃないですか、そんなになってまでどうして私達と戦おうとするんですか!」
ミーシャは俺の言葉を聞くと悲しそうに唇を噛み締め、そんな言葉を叫ぶ。
「ミーシャさん、酷いな」
「え・・・?」
「俺のことをこの村の村人と認めてくれないんですか?仮にも夫ですよ?」
俺はどう返したらいいのかわからなかったので冗談めかして笑う。
「それに、俺はあなたたちが好きなんです・・・それこそ、命を懸けても言いと思うほどに」
「・・・エルフ達が下に来ています・・・話があると」
「エルフ?わかりました」
エルフと言うと尖った耳が特徴的な種族だったか。
何のようだろうか。
下に行くと確かに見たことも無い人がいた。
キリッとした面長の顔、尖った耳、病的なまでに白い肌。
獣人と同じくボロボロの服を着ているが、そこにあふれる気品は独特の緊張感を生んでいる。
「いや、ですから・・・この村で軍を率いているのはナナシ様でして・・・同盟と言われても私には決めかねます」
「なぜだ?キースがこの村の村長だろう?」
「いや、しかし・・・」
半開きになった扉からは話し声がもれている。
俺はその扉を開けて部屋の中に入る。
扉のギィーーという音でエルフ達とキースが俺に気付く。
「ほう、あなたが・・・なっ」
エルフはその狐のように細い目をカッと見開くと机を叩いて勢いよく立ち上がる。
「ナナシというのは人間ではないか!!キース、人間に受けた雪辱を忘れるほどに年老いたか!!」
「ノヴァ様、ナナシ様は私達の家族です」
「このような姿で申し訳ありません」
俺はとくにイラつくことも無く、ノヴァと呼ばれたエルフに一礼して椅子に座る。
「ふん、まあその火傷で、そこらの人間よりはマシな見た目になっているんじゃないか?」
「それが我ら亜人のために命を張ったお方へ利く口かっ!!!」
俺のことを鼻で笑うノヴァに対してキースはバンと机を叩いて立ち上がり、叫ぶように言った。
ノヴァも驚いてはいたが、俺もキースがそんな大きな声を出せるなんて思っていなかったので驚いてしまった。
「ノヴァ何事じゃ?」
奥から唯一綺麗な服を来た幼女が入ってくる。
その動きは一つ一つが洗練されており、その人形のような可愛さも相まって歩いているだけで見とれてしまう。
「ヨ、ヨナ様・・・」
ノヴァは焦ったように口ごもり頭を下げる。
キースもヨナと呼ばれた幼女を視界に捉えたとたん頭を下げる。
「よい」
俺も頭を下げようとするがヨナに「痛むだろう」と片手で制止される。
「ほぉ・・・まさか神の軍師が人だったとは」
「神の軍師?」
「うむ、あの見事な爆発、我らの森まで音が轟いてきよったわ・・・なんでも奇怪な知識を用いて2千の軍を、たった一日で屠った軍師がおると亜人の世界ではすでに噂になっておる」
「そうですか」
「お主じゃろ?まったく・・・馬鹿げたことをするものじゃ」
ヨナが俺の火傷をつつきながら言う。
「その知識に興味がある、我らの寿命は長く、その間、知識欲に駆られとにかくいろいろな知識を取り入れて今の膨大な知識量に至っているが、我らの知識は他の種族に漏れることは無い・・・つまりお主は人の身でありながらそのような知識を自ら得たということになる」
ヨナは俺の顔に指を突き出しぐいぐいと俺の方へ迫ってくる。
その度俺も後ずさりするが、ついに壁際に追い込まれてしまった。
「私はお主に興味がある、我らはあの時魔法で戦った・・・お主のように知恵でなく魔法で・・・教えてくれ、どうしてそんな作戦が思いつく?」
「あーと・・・なんとなく」
どうして思いつくといわれても、思いついたことをやってみて失敗して右半身大火傷してるんだけど。
「・・・つまり教える気は無いと、よしわかった、お主我と婚約せよ」
「ヨナ様!」
「なんじゃ、ノヴァ、我の決定に文句があるのか?」
「い、いえ・・・」
睨まれたノヴァはシュンと小さくなる。
「で、婚約の話、どうじゃ?」
「嫌です」
「「「なっ!?」」」
「な、なぜじゃ?」
「だって、幼女と結婚なんてしたらおまわりさんにつかまっちゃうし」
「お主も恐れるそのおまわりさんというのは何者なんじゃ・・・」
「法の番人」
「ほうの・・・ばんにん・・・なんと恐ろしい響き」
ヨナはがくがくと震えている。
「しかし、我はお主と婚約すると決めたのじゃ、そのおまわりさんとやらに邪魔されようともなっ!」
「ヨナ様・・・」
「なんじゃ」
「同盟の件を」
「同盟?ああ、そうじゃった・・・」
まるで子どものようになっていたヨナは、またこの部屋に入ってきたときのような洗練された動きに戻る。
「よもやこれで終わるとは思っておらぬな?」
「ええ・・・見せしめのために二千もの軍隊を出したのです、それをがたった一日で全滅したとあれば王国としても恥・・・かならず潰しにくるでしょうね」
「そこでじゃ、我らもお主らとともに戦いたいのじゃ」
「勝てるとお思いで?」
「我らだけでは無理だろうな・・・だが、もう一度、今度はお主を頭として亜人が立ち上がれば勝機はある・・・悔しいがお主には我らの知らぬ知識と、それを戦略とする才があるようじゃ」
「・・・戦争の才能か」
日本で普通に生活していて見つかるはずも無い才能。
俺はあまり嬉しくない才能になんとなく苦笑いしてしまう。
「言う順番を間違えたが、そこで婚約が必要なのじゃ」
「というと?」
「我とお主が婚約すれば亜人もお主の事を信用する、多くのエルフも加勢してくれるじゃろう・・・それに我らが戦争に参加する大義名分にもなる」
「なるほど」
「婚約してくれるな?」
「・・・はい」
「お、おまわりさんは大丈夫だろうか」
「ちゃんとした理由があれば大丈夫です」
おまわりさんなんてこの世界にはいませんよなどと言うわけにもいかず適当なことを言ってごまかすと、ヨナは「そ、そうか!」と安心したように息を漏らした。
この村の住人達と結婚しているように、あくまで形式上のものだ。
「ならば、ここに新亜人同盟の設立を宣言する」
ヨナはそういって外に出て行くと村長宅に掲げてあった人間の支配の旗をビリビリに引き裂くと、黒い旗を天高く掲げた。
「・・・しかし、お主は亜人ではないからな・・・改名、黒旗自由解放戦線の設立を宣言する!」
天高く掲げられた黒い旗は、雲から差し込んだ日の光に照らされて、神々しく風に靡いた。