宣戦布告
「上だっ!!」
2千人の兵士が一斉に上を向く。
そこにあったのは煌々と空に輝く太陽の光の中を悠々と飛ぶ鳥の姿。
突如大量の何かが撒き散らされる。
「なんだっ!?・・・紙か?」
得体の知れない何かに動揺が走るが、ヒラヒラと舞うそれはどうやら紙らしいというのだけはわかった。
「なにごとだ・・・!」
「イザムバード中将、こちらを!」
兵士の一人がイザムバードという男にビラを渡す。
その男は細身の若い男だ。
「舐めやがって・・・!」
イザムバードはそういいながらビラをくしゃくしゃに丸めて地面に捨てる。
「全軍、進め!!」
イザムバードの合図によって人間の軍が再び進行を始める。
ぶぅうぅぅぅうううううう~・・・!
そのとき遥か上空を飛んでいた獣人から低い笛の音が響き渡る。
人間達は「今度は何が起こるんだ?」と嘲るように上を見上げた。
ゴトッ・・・。
「はっ?」
そのとき、上を見上げた一人の兵士の頭がその場に落ちる。
「「「はっ!」」」
「後ろだっ!!!」
人間達が後ろを振り向くと同時に獣人の猛攻も始まる。
「「「はぁああああああああああ!!」」」
人を突き刺しては上空に上がりつき落とす。
天駆馬の勢いに任せて敵を叩き斬る。
その戦い方は美しいまでに洗練されており、人間たちはまるで狼に狩られる羊の群れのようであった。
「来るな!来るなぁ!」
ゴトッ・・・。
「ああ、嫌だ、やめ・・・あぁぁあああああああああああ!!」
ガシャンッ!!
人間達も咄嗟の攻撃に対処できず、しかし退路も塞がれしょうがなくどこかへ逃げ込むしかなかった。
「各員、右斜め前方に全力疾走!一時退避する!」
このままでは無駄に兵が死ぬと考えたイザムバードは唯一逃げれそうな道を見つけてそこに走り出す。
兵達もそれについていく。
もちろん獣人もそれを追う。
見事に作戦通りの流れだ。
焦った人間達は逃げるのに必死で獣人たちの行動を疑いもしない。
「くそっ!どこまで追ってくるんだ!」
もう、こうなると完全に狩る側と狩られる側が決してしまった。
獣人は上手く誘導に成功し人間達は作戦通り採石場に逃げ込む。
獣人は、探すように上空をグルグルと飛び回る。
「ここなら気付かれないか・・・?」
イザムバードは息を切らしたように言う。
獣人はもちろん気付いている。
上空から見ているのだから気付かないほうがおかしい。
だが、これも作戦のうちなのだ。
イザムバードはすでにナナシの操り人形である。
極度の緊張状態と十分に酸素がまわっていない脳に刷り込むのだ。
「ここは安全なのか・・・」
と。
獣人たちは日が暮れるまで上空を飛び回り、人間に緊張感を与え続ける。
そして、日が暮れると同時に村へと戻る。
緊張状態がやっと溶けた人間達は疲労感や恐怖を感じ始め、決して今から攻めようなどと言う気にはならない。
「何人死んだ・・・?」
「第一中隊、232名、18名死亡」
「第二中隊、217名、33名死亡」
「第三中隊、225名、25名死亡」
「第四中隊、212名、38名死亡」
「第五中隊、238名、12名死亡」
「第六中隊、235名、15名死亡」
「第七中隊、229名、21名死亡」
「第八中隊、211名、39名死亡」
「第九中隊、239名、11名死亡」
「この短時間に・・・200人だと?」
一個中隊250名で構成された総勢2250人の軍隊が為す術なく、200人もの兵を削られた。
そんな事実が中将のプライドを傷つける。
「イザムバード中将、どうなさいますか?」
「・・・今日はここにテントを張る」
「はっ!」
イザムバードも兵達の疲労困憊した顔を見て、さすがに攻めるとはいえなかったのだろう。
イザムバードはこれでも頭が切れることで人間の間では尊敬を集める軍人なのだ。
だからこそ、今攻めたらまた撤退する羽目になると考えた。
「おかしい・・・獣人があんな作戦を考え付くか?あいつらは正面から突っ込むことしか知らない馬鹿かと思っていたが・・・どうやら舐めすぎたらしい」
相手が獣人であり、しかも自分達は2千の軍でそれに望むと言う事実がイザムバードを馬鹿にしていた。
イザムバードは敵に人間がいることは知らされていなかった。
知らされるべき事実ではあったが、王国はどんな些細な情報でも伏せたがるのだ。
今回は敵に人間がいるということで国民の不信感を得るのを恐れたために伏せたのだろう。
それが、この戦いにおいて最大の敗因になるとも知らず。
この戦いは後に「死獣の咆哮」と呼ばれ、数々の吟遊詩人や御伽話で取り上げられることとなる。
「神の軍師」とも「戦場の妖狐」とも呼ばれる無名の王の伝説の始まりである。