技術<スキル>と魔法
スキルとかの解説回ですが、そんなに重要な要素ではないかもです。
フワフワっと流し読みしていただいて大丈夫だと思います。
無事ヴァンパイアの襲撃を退けた二人は、ようやく食事の時間を迎えていた。
「どうだコウモリの手羽は? カエルの煮汁が染み込んで旨いだろ。片足あげるから、羽も片方は残しといてくれよ」
「う、うん、山菜とかもあって味はまぁまぁだけど……あの、できれば具材のことは忘れさせてほしいかも……」
膝に取り皿を乗せたクリスティーナは、向かいでむしゃむしゃカエルの足を食べているジーノに懇願する。なにを口にしているか、クリスティーナはあまり考えたくはないようだった。
「それにしても……変な――ゴホン、不思議な技術だね、ご主人さまのは」
「両手で作製するこれのことか? 錬金術師なら、誰もが考えそうなものだけどな。習得にはかなりの時間を要しはしたが」
「私が知るかぎり、こんな技術は見たことも聞いたこともないよ。人の力を越えているというか……」
ジーノは木のお玉で鍋をかき回す。お玉も、この石の鍋も、全てジーノがその両腕から作り出したもの。
あまりに便利すぎるし、常識を越えた技術だ。
「まぁ確かに、クリスティーナの言うとおり、変なのかもしれないな。親方にも言われた」
「うぐっ、変って言っちゃったの聞こえてた……ご、ゴメンナサイ」
ばつの悪そうなクリスティーナに、「別にいい」とジーノは言って、続ける。
「この技術は、採取地で生き抜くために教えてもらった技術なんだ」
「教えてもらった? その不思議な技術、他にも使い手がいるんだ……。その、『親方』って人から教えてもらったの?」
「いや、親方は――俺の元雇い主、といったところかな。特に何かを教えてもらったことはなかったな」
「じゃあ……誰が?」
ジーノは取り皿にカエルのダシが利いたスープをよそって、言う。
「旅先でよく会う人。名前は……そういえば聞いたことなかったな。俺は死の火山にも大海の渦潮にも、他にも森や川や廃墟にだって行ったことはあるが――いやぁ、不思議とよく会うんだよ、その人に。妙な縁もあったものだ」
「は、はぁ。あるのかな、そんな偶然……?」
疑問に思うクリスティーナだったが、ジーノにとってはどうでもいいことのようで、話を進める。
「その旅先でよく会う人に教えてもらった技だな。二〇年くらいは習得に費やしたと思う」
「に、二〇年……!! 私が生まれる前から、ずっと修行していたんだ……さすがはご主人さまだ、強いわけだっ」
「修行じゃなくて採取だけどな」と、ジーノは訂正しつつ、スープをすする。
「纏い型……いや、発動型なのかな、ご主人さまの技術」
「なんだその、〝型〟って」
「……ええええええっ!? そんなすごい技術使えるのに、〝型〟を知らないのおおおおっ!?」
「恥ずかしながら、世間常識には疎いんだ。三五のおっさんがこれでは恥ずかしいな。それと結構傷つくから、もうちょっとソフトなリアクションで――」
「三五!? も、もっと上だと――あっ」
表情は変わらない。
けど、内心ではいろいろショックを受けるジーノであった。
「一つずつ教えてくれ。まず、〝型〟とはなんだ? というか、技術ってそもそもなんなんだ?」
「う、うん。じゃあもう、技術のことから解説します」
クリスティーナは人さし指を立てて解説を始めた。
「まず技術っていうのは、何らかの効果をもたらす、特別な技のこと。ご主人さまみたく修行で習得する場合もあれば、生まれつき備わっていたりする場合もある、そんな特殊技のことだよ」
「へぇ、そうなのか。今までなんとなく使ってた」
「……そんなすごい技術使えるのに知らないって……覚える順番がめちゃくちゃだけど、解説を続けますよ!」
クリスティーナは背筋を伸ばす。ツンと張った胸が強調された。
「次に魔法についてだけど、実は技術と魔法って、明確な線引きは存在しないんだよね。魔法も技術も『エナジー』を使うんだけど、魔法版エナジーは『魔力』って言う場合もあるし。次に解説する技術の〝型〟は、魔法にも当てはまるし」
ジーノは頭をひねり出す。クリスティーナは気づかず続ける。
「そして、〝型〟っていうのは、『技術の分類』のこと。主に発動型、自動型、纏い型、変身型があるんだ。もっと分かりやすく言えば、発動型、自動型、纏い型、変身型、ってこと」
「なるほどわからん。要は、どうでもいいってことか」
「解説してる目の前ではっきり言わんでも……」と、クリスティーナは軽く落ち込んでいた。
「まぁ、覚えたからってどうにかなるわけでもないんだけど、一応、技術にはそういった型があるってことだよ」
「魔法にもね」と言うクリスティーナは、もう一度指を立てて解説する。
「発動型は、主に攻撃や回復技術のこと。自動型は、特に何もしなくても常時発動している技術のこと――私の、全部器熟知みたいなのだね。そして纏い型は、発動してから効果を出す技術のこと。ちょっとややこしいけど、オーラを発動させて、それを纏うことで身体能力を上げるような技術のことだね。ご主人さまの技術はそれに近いと思う」
なんだか混乱してくるジーノ。要約するとこういうことだろう。
発動型は、標的に対して発動する技術。
自動型は、意識せずとも発動している、バフに多い技術。
纏い型は、発動させなければ効果を現さない、これまたバフに多い技術。
変身型は、見た目が変化する技術。
「――と、いうことでいいのか?」
「さすがはご主人さま、まだ解説していない変身型も当てるとは。その通り、変身型は、装備や体、見た目が変化する技術だね」
「人体にも変化が現れるのか。――使い方を誤ると、人の道を外れそうだ」
ジーノはなにかに引っかかったのか、そう答えた。
するとクリスティーナも、なにかに引っかかったのだろうか、首筋に手を当てて答える。
「変身型は――そのうち見られるかもしれないね」
「ああ、眷属化も変身型の技術なのか。自分だけならまだしも、他人にも影響を与えるとなると、なかなか危険な技術だ。まぁ、君の傷は完治しているから心配ないが」
ジーノは無精髭の生えたあごに手を当てて、考え込む。
「そうだね、でも」と、クリスティーナは短く答える。
そして、なぜか誇らしげにこう続けた。
「――私が言いたかったことは、そうじゃないんだけどね」
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