女奴隷クリスティーナVSヴァンパイア×2
一枚布の奴隷の服に、武器も持たないクリスティーナ。
先ほどはヴァンパイア一体にだって遅れをとっていた。
唯一の違いは――両手の拘束が解かれたことだけだ。
「おいクリスティーナ、力むのは構わないが、そろそろ鍋ができるぞ」
驚くのをやめていたジーノは、鍋の中に落ちていたお玉を拾って、かき混ぜる作業に戻っていた。
マイペースなジーノに、たき火の向かい側にいたクリスティーナは、視線だけ投げてこう答える。
「それじゃあ、ぱっぱと片付けないとだね。ご主人さま、なんでもいいので武器作ってくれますか? 剣だとベストなんだけど」
言われたジーノは、持っていた木のお玉を細身の木剣に錬成し、投げ渡した。
「早くしろ、カエルが焦げる」
「はーい! それじゃあ――私の物語を、始めますか!」
靴すらない裸足の少女が、駆けた。
「技術――熱武装・斬!」
と――次の瞬間には、ヴァンパイア二体のうちの一体が、灰になっていた。
「同胞が一瞬で灰に――!? な、なんだ貴様のその武器は!」
「ただの木の剣……じゃないね。元お玉で、きっと太陽のエッセンス? も入ってる剣だよ」
クリスティーナに渡した剣は、対ヴァンパイア用ということで、太陽のエッセンスを混ぜていた。
だがそれだけではない。
その剣は赤く光を放ち、じりじりと高熱を発していた。
「その熱は、俺のクラフトには関係ないやつだな」
「うん。私の技術、『熱武装』。私の〝血〟の熱を武器に伝える技術だよ。よく使う汎用スキルで――『切り札』は、別にあるんだけどね」
赤い光が、青い目の彼女の顔を照らす。
余裕の笑みを浮かべる彼女だったが――
「っていうか、裸足で走るの痛ったー! お、おひひぃ……裸足でさえなければ、さっきも噛まれたりはしなかったんだけどなぁ」
「こ、こんな馬鹿な、高位種族の我らヴァンパイアが、こうも簡単に――!」
ヴァンパイアは、高等な魔物。
最上位の冒険者ですら手に負えないときだってある、強力な魔物だ。
そのヴァンパイアを圧倒する、女奴隷クリスティーナ。
彼女もまた、とてつもない実力者だったのである。
――ただし、裸足は苦手のようで、変てこなうめき声をあげていたが。
先ほど噛まれていたのは、手かせよりも、裸足のほうが原因のようだった。
「うおおおお灰だ灰だ灰だーっ!」
「自由だなぁ……まぁでも、それがご主人さまだしねっ!」
地面に這いつくばって灰を回収するジーノを見て、クリスティーナは感想をもらす。
「さて、残りの方も、ぱっぱと片づけて――」
「ま、まさかコルトン村の連中、勇者でも雇ったのか! こんな腕の人間、以前襲った時にはいなかったのに!」
「っ、コルトン村――」
そんなご主人さまから、残るヴァンパイアに視線を向けたそのとき。
クリスティーナは、敵の口から出た、ある村の名前を思わず繰り返していた。
「くっ、仲間をもっと集めねば!」
「なんだクリスティーナ、知ってる村なのか――あっ! おい灰が逃げるぞ!」
「えっ――あ、ああ、ごめんなさいご主人さまっ。あの、弓矢とか作れます?」
まだ生きているヴァンパイアすら灰呼ばわりするジーノは、そばに落ちていた枯れ枝を弓矢に変え、手渡した。
「剣だけでなく、弓も使えるのか」
「それだけじゃないよ。武器ならだいたい――いやたぶん、全種扱える」
クリスティーナは、飛び立ったヴァンパイアの背に狙いを定めながら言う。
「技術・全武器熟知。私の〝自動型〟技術の効果だよ」
「へぇ、器用だな」
「でしょ。では……技術――熱武装・射撃!」
それが、彼女の言っていた切り札なのだろうか?
しかし確認を取るタイミングはなく――
クリスティーナが矢を放った。
矢はヴァンパイアの背後からその心臓を貫くと、先ほどのコウモリのように、簡単に撃ち落としてしまうのだった。
「よし終わり、と! どうだったかなご主人さま、私を採用してくれる!?」
「ふおおおお灰待てぇぇぇぇぇ!」
「聞いてない気はしてたけどね、うん」
ジーノとはまだ出会ったばかりだったが、なんとなく彼の行動原理を掴んでくるクリスティーナなのであった。