逃げられなかった侯爵令嬢
どうしても短編でコメディが書きたかった。
コメディになっているかどうかは別として。
勢いだけで書いたので、暇つぶしでお読み下さい。
ブックマーク&評価ありがとうございます。
ちょっと手直しをしました。
11/8 10:45
「エロイーズ・ハワードそなたが行ったという所業の数々それがまことなら、この国の王太子としてそなたの婚約者として見過ごすわけにはいかない。―――なにか申し開きがあるなら、聞こう」
ええ―――――ッ…。ここはテンプレなら婚約破棄じゃないの?なんで?!
ガッツポーズしてありがとうございます!とお礼言ってこの場から立ち去る予定だったのに、なんで申し開きなんて面倒なことになってるわけ?
この卒業パーティが終われば侯爵令嬢としてのあたしの役目も終わり。自分を偽ることもなく自由に生きるために準備してきて、もうこの国を出る準備は整っている。だからさっさと退場させて欲しいのに。何を今更…。
その為に王太子の後ろで睨んでいる伯爵令嬢が仕組んだことを、否定してこなかったというのに。
ヴァーヴタンドラ国は森に囲まれている自然豊かな国で、放牧や農業を中心に栄えている。竜や精霊がこの国の礎になったと言われ、多くの伝説や物語が語られていた。あたしもそんな物語が好きでよくお母様に読んでと強請った。
だから物心ついたときには、冒険者になる!と決めていたほどだ。
だが、それは叶わなかった。
何故ならエロイーズ・ハワードは残念なことに、侯爵家に生まれてしまったからだ。
生まれからして勝ち組とされる分類に生まれたことは、きっとあたしじゃない誰かならきっと生まれを誇り、侯爵令嬢として邁進したに違いない。自分でも言うのもなんだけど、スタイルは良いし顔も美人の部類だ。
しかも有り難いことにこの身体はいい遺伝子を受け継いだらしく、精神的には苦労したが侯爵令嬢としての知識は難なくこなせるハイスペックな身体だった。
だけど残念なことに前世の記憶を持ち、この世界で言う平民の記憶の方が長かったせいか馴染めない。33年間の貧乏性が抜けないのだ。
それが逆に堅実で良い娘である、と王妃様に気に入られてしまい、10歳の時にエルバート・ハリウェル殿下はこのエロイーズ・ハワードの婚約者となった。
ただのケチなのに。
それから5年間侯爵令嬢として差し障りない交流をしてきた。可でも不可でもない、程よく距離のあいたお付き合い。パーティなどはエスコートして貰って、ダンスの始めの曲を一緒に踊る。その後はエルバートが誰と踊ろうとも気にすることなく、ある程度の時間になるまで友人達とおしゃべりに興じた。
そんな関係だったから、断罪して終わりだと思っていたのだけれど、思ったよりも王太子としての自覚がある人だった。それならこの国も安泰ね!
うんうん。
一人で納得していたら、奥からキンキン声が響いてくる。
「エルバート殿下が問われているのに答えもしないなんて、なんて失礼な方なのかしら?」
そういうあんたは…あら嫌だ、地が出ちゃった。そういうあなたこそ何様のつもりなのかしら?
この方が婚約者になって王太子妃になるというのなら、そこは全力で潰してあげますけど、まずは自分が自由になってからだ。
「…では、あたしが何をしたのか、教えて下さいますか?」
「そうだな。私に陳情を申し出てきた者よ、ここで今一度説明せよ」
「僕、私の研究成果を盗んだだろう!あれはこの国初の大発見だった!温室にいるのを見たんだ!」
「温室…。あの裏庭の温室ですか?」
「そうだ!その場所を知っているのは、僕と一緒に見守ってくれていたアイダ嬢と犯人しかいない」
『ねえ、誰かそこに何があったか知ってる?』
『僕知ってるよ』
『知ってる―』
『その睨んでる怖い人が隠した!領地でこっそり育てるって』
『『ねー』』
『それは作物?』
『違う、危険、毒』
「毒!?」
大きな声を出してしまい、周りがその険呑な響きにエロイーズを見た。まわりにはエロイーズの問いに答えている可愛らしい小さなお客様は見えていないため、完全に独り言を言っているようにしか見えない。危ない人である。
だがそんな目で見られているなんて構っていられないエロイーズは、毒なんて物騒なもの放置は出来ないとばかりに、更に聞き出した。
『綺麗な花、だけど花びらには毒性があって、痺れるの。沢山とると、忘れる』
作った本人は知っているのだろうか?
「えーと、アドリアン様。 それは綺麗な花で間違いないですか?花びらが薄いピンク色?で、甘い香りがする」
「やっぱり、おまえが!」
「あなたは忘れたい過去でもあるのですか?」
「はあ?意味がわからない。そんな言い逃れ…」
「それとも陰謀に巻き込まれてるの?巻き込みたいの?」
「どういう意味だ」
ここでエルバートが口を挟んだ。
「実物を見ていないのでわからないのですが、花びらに毒性が有りそれを飲むと痺れをおこし、飲用し続けることで記憶を無くすようです。アイダさんがそれをお持ちなら、早く焼かれた方が良いですよ。要らぬ疑いが掛かりますから」
アドリアンは本当に知らなかったみたいで、その場に座り込んでしまった。
「バカな。あれが…毒」
みんな動揺している為に突っ込まれなくて良かった。
何故分かる?って言われたら、この子達をここで見せなきゃいけなくなる。
あたしの切り札を簡単に見せたくない。
「次は誰だ」
「私の猫を切り裂いて殺しただろう!あんな可愛い子を…」
「ゴリゴリ―様、黒猫の鈴を付けていた人懐っこい可愛い子かしら?」
「そうだ!鈴だけが残されていたって、アイダ嬢から渡された」
「ソフィ、おいで」
名を呼ぶと、すぐに黒猫がどこからともなくふわりと現れた。
「この子で合ってる?」
「生きていたのか!ミミ!」
そいうってゴリゴリ―が手を出すが、ミミと呼ばれた猫は微動だにしなかった。
「なんでだ…」
「この姿ではお初にお目に掛かります、ケットシーのソフィでございます。怪我を負ったところを助けられまして、現在エロイーズ様の使い魔として傍にいさせて頂いております。以後皆様お見知りおきを」
ゴリゴリ―に綺麗な礼をしてすぐに猫の姿に戻り、エロイーズの足元に控えた。
ただの猫だと思っていたのに、実はケットシーだった事実を知りゴリゴリ―は悔しがった。アイダの言うことを信じ死んでしまったと諦めてしまったばっかりに。
ゴリゴリ―はアイダをこの女!と睨み付けたが、ふんっとばかりに相手にされていなかった。
ちょっと、アイダさん。そこは保険かけてこの男ぐらい堕としておきなさいよ。力添えしてもらうどころか、敵に回ってるじゃない。
「次!」
「あのー、エロイーズ様が私のドレスを引き裂いたのを見たって、アイダ様に言われて」
「ドレス?カルメーラさん、あなたの?何の意味があって?」
「それは…わかりません。引き裂かれていたのは事実です」
「そうよね。ドレス持ってきてるなら見せて欲しいのだけど」
侍女に持ってこさせたドレスは、綺麗なモスグリーンでピンクの花をフリルであしらい、春をイメージするとても縁起の良さそうなドレスだった。
「アイダさんのドレスと色がお揃いなのね」
皆の視線が伯爵令嬢アイダに集まった。
「確かに似ているな」
「デザインも何となく似ている?」
「エロイーズ様!へんな言いがかりは止めていだけますか。罪を全て私に押しつけて逃げようなんて」
「別に私はあなたが何かしたとは、一言も申し上げておりませんわ。被害妄想はおよしになって。それよりも早く領地に戻って、アドリアン様の花の始末をなさった方が良いのでは?反逆罪で家がお取りつぶしになりましてよ」
青い顔をしたアイダはそのまま退場しようとした。
「何癖ばかり付けられて気分が悪いですわ。失礼します」
エロイーズはこの後のことはエルバートに任せてさっさと自分も退場しようと、どさくさにまぎれて人の波に紛れようとした。
「残念だけど、それは出来ない」
エルバートの声が響く。
その声は誰に掛けたものか。
エロイーズは思わず立ち止まってしまった。
「エルバート殿下!何故ですか?あんなにも嬉しそうに私の話を、エロイーズ様の悪事の数々をお聞きになっていたではないですか!」
何を言っているのだとエルバートの側近はアイダを嘲笑う。
「ああ、エロイーズの話だからな」
エルバートがエロイーズを溺愛していることは側近の中では周知の事実。どんなにアプローチを失敗しても、めげずにチャレンジしていく精神に騎士道を見たと、エルバートの忠誠を誓う者がいる程だ。
ちなみに当事者であるエロイーズは全く気付いていない。
何かと気遣ってくれるのも王太子の務めだと思っているし、数々贈られたドレスや宝石も自分の傍に並ぶならこれぐらい身に付けろ、という婚約者としての矜持を守るためだと思っている。
何故ならエロイーズはドレスや宝石も資産としての興味はあっても、おしゃれを楽しむということに興味がないのだ。
「では、エロイーズ様が酷いと言うことに、いつも同意してくれていたのは…」
「ああ、エロイーズは私の想いに全く気付いてくれないからな。酷い女だ」
言葉は同意しているが、それは真逆の意味でエロイーズが愛しくて堪らないと顔が物語っている。
「そんな…」
今だ!
この混乱に興じエロイーズは意気揚々とケットシーのソフィと頼もしい妖精達と一緒に会場を後にしようとしたが、それは叶わなかった。
「何処へ行く?エロイーズ…」
「エルバート殿下…私の役目は終わりましたので、ここで静かに去りましょう」
「君はなにを自己完結しているのだ。俺が逃がすわけ無いだろう」
「あ、いえ、騒ぎを起こしましたので、私は責任をとって領地に戻って」
「冒険に出るって?」
「あははっ……。」
おかしい。完璧だったはずなのに!
「あれだけ旅の準備をしておいてばれないと思うところが、婚約者殿の抜けていて可愛いところだ」
…どうやってこの場から逃げよう。
『ねえ、あたしをこの場から逃がすこと出来る?』
『うーんとね、エロイーズこの人が誰もここから出られないように、魔道具で結界張ってる』
エルバートをジロリと睨むと、嬉しそうに笑った。
「そんなに見つめられると、照れるよ」
――――ッ。絶対にわざとやっている。みんなが見ている前でこんな猿芝居されたら、外堀を埋められてしまってやばいんじゃない、あたし!
もう手遅れだということに、エロイーズは気づいていない。
いつの間にかアイダは衛兵に捕獲されて項垂れているし、こんなに簡単に負けるなんて根性なさ過ぎじゃない?
どさくさに逃げ出す算段がダメになっちゃったじゃないの!
誰か他に気概のあるチャレンジャーいないかしら?
周りの気配を探ってみれば事態は早々に終結したとばかりに、二人の動向に注目している。
がっくし。
「こんな規格外で綺麗でちょっと抜けてて可愛くて、優しい女の子、何処にもいない。こんなに惚れさせたのだから、責任とって結婚してくれ」
そんなこといったて…精神年齢48歳のおばさんが、18歳の若者とか…ちょっと厳しい。
全く微動だにしないエロイーズに、エルバートは耳元でボソッと呟いた。
「結婚してくれるなら、一年間国の視察という名目で一緒に冒険に出られるけど、どうする?」
「ぐっ!」
冒険はしたい。このままだと侯爵令嬢のままで、屋敷からは出られない。
ここから自力で出ることが出来たなら、名を捨てることを許すとお父様と約束したけれど、それは阻止された為に夢は途絶えた。
冒険が出来るという言葉は前世からの憧れもあり、どんな甘いささやきよりも心を動かした。
「負けた…」
始めから二人の関係性を一歩進める為の場として利用したエルバートに、自由だと浮き立っていたエロイーズが勝てるわけがなかった。
アイダ嬢は名誉毀損で修道院へ
伯爵家の借金がかさみ、男爵の側室として嫁がなければならないのが我慢ならなかった。そこに婚約者がいると言っても、あまり仲が良いとは思えなかった王太子に運が良ければ堕とせるかと目を付けてみたが、あっさりと目論見は外れてしまった。
罪状が軽かったのは、花に毒があることを本当に知らなかった為だ。新種の花だから高く売れると思ったらしい。
その後約束通り国を視察という目的で、エロイーズとエルバートは騎士団から選ばれた精鋭5人と妖精、ケットシーを連れて一年間冒険した。
あちらこちらでエロイーズは妖精達の歓迎を受け、その度にヴァーヴタンドラ国は更に緑豊かな国へとなっていった。
そのお陰で距離がぐっと縮めることが出来、周りの努力の甲斐もあって、見事エルバートはエロイーズの心を射止めることが出来た。
「一生離さないし、愛してる。結婚してくれ」
「時々冒険に連れ出してくれるならね」
そう言いながらも、跪きプロポーズしてくれるエルバートに心がときめく。
前世は33年間、男なし猫なしお金なし
経理の鬼としてお局のように君臨し、恐れられていた経歴しかない。
それが本当におとぎ話のような場所に転生し、本物の王子と言われる人に愛を恋われるのだ。
くらりと恋に堕ちても、誰にも責められない。
―――というか、早く堕ちてくれ!
そう願っていた周囲の悲願が実った瞬間だった。
一緒に一年間旅を続けていた精鋭の騎士達は、心で男泣きをしたという。
「ああ、約束する」
逃げられなかった侯爵令嬢は、行動力のある王太子妃になった。
その後二人の間には三人の子、二人の王子と一人の王女に恵まれた。
王太子が二十歳を迎え結婚し第一子に恵まれると、これでヴァーヴタンドラ国は安泰だと、エルバートとエロイーズはよくお忍びの旅に出たという。
当初の計画とは違ったが、とても豊かで幸せな人生を伴侶となったエルバートと謳歌したエロイーズであった。
読んでい頂きありがとうございました。
書きたいことが書けたので、スッキリ。