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罠に堕ちた鉄仮面の騎士と先読みの乙女

「やめてっ!」  


 出した声がひっくり返ってかすれる。

 先ほどの宿屋の主が、フランソワの白銀の尾に鋏を向けている。


 ――切るつもり?


 この村の人間は魔法に憧れていると聞いた。

 もしや、あの奇怪な食べ物のように鍋に入れて煮込むために、フランソワの尻尾を狙っているのかもしれない。


「ロビンハルト!」


 大声で呼びかけたが、以前、イブの魔法がかかった時と同じようにロビンハルトは目を覚まさない。エトワールがベッドに飛び乗ってロビンハルトの顔を舐める。だめだ、起きない。


 ――行かなきゃ、フランソワが大変!


 コートのフードを目深にかぶり、エトワールとロビンハルトを部屋に残したまま、階段を駆け下りる。

 宿屋の前にたむろしていた男たちが一斉に私を見た。

 折り悪く、一陣の風が吹いてフードがめくれ、隠していた顔が露出する。


「その顔はマルグリット? 預言の娘、マルグリットじゃないか?」


 中の一人が声を上げる。長い髪をひとつに結んで、はち切れそうに太った身体に中世の衣装であるプールポワンを着ている。綺麗な服だが、まったく洗っていないらしく埃と汗で汚れている。


 ――マルグリット、それが預言の娘の名前?


「違います!」


 慌ててフードで顔を隠し、腕を伸ばしてきた男から逃げると、フランソワの元に急ぐ。背後でざわざわと騒ぐ声が聞こえたが、とにかくフランソワを助けないと!

 窓から見えた位置を探して回り込んだ先には、他の馬と並ぶフランソワがいた。


「フランソワ、大丈夫?」


 ――間に合った!


 フランソワの尻尾は無事だった……。


 ――え?


「待っていたよ、マルグリット。帰って来たんだね」


 フランソワの陰から、宿主がにやにやと品の無い笑顔を作って近づいてくる。開いた口元の歯がほとんど抜け落ちているのが不気味だ。彼の手に持った鋏が、カチカチと不快な音を立てていた。


「鉄仮面の騎士は動けなくなっていただろう? あの部屋は、魔法使いを金縛りにする特別な仕掛けがされている。つまりは生け捕りだ。そしてお前はこの村のものになるんだよ。まずは俺だ。長いこと夢見てきたマルグリットを抱けるなんて、俺も運がいい」


 男の目当てはフランソワの尻尾ではなく、私だった?


 ――私たち、二人とも罠にかかったんだわ。


「やめてっ」


 気持ちの悪さに、くるりと背を向けると先ほどのプールポワンの男が仲間を引き連れ、横一列になって迫ってきていた。


「さすがは魔女マルグリット。歳をとらないのか、ますます美しい。これはたまらないな」


 へっへっへと笑う男の口からよだれが垂れて、胃がぐっとせり上がる。


 ――いやだ、いやだ、ロビンハルト!


 前脚でカッカッと地面を蹴っていたフランソワが、溜めに溜めた一声を発した。


「ひひぃいいいいいいいいんっ」


 空気が振動し、耳の奥でいななきが共鳴する。

 両の前脚を上げたことで、手綱を結んであった柵がめきめきと割れた。


「うわっ、なんだこの馬の馬鹿力」

「フランソワ!」


 手綱を取ろうと一歩足を踏み出すと、ぐるりと周囲を取り囲まれた。ただ、情けないことに私は一人では馬に乗れない。


「逃がさねぇぜ」

「違います、私はマルグリットじゃない。人違いよ」

「それなら、預言は出来ないっていうのか?」


 太った男が、できるのは知っているとばかりに確認する。

 ますます喉が締め付けられた。


 ――先読みが……預言ができる魔女だから、どんな目に遭っても耐えなくちゃいけないの?

 そんなのは嫌。


 激しい怒りと恐怖に身がすくむ。

 涙が一筋、頬を流れた。



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