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紅菜の警戒、ロビンハルトのさりげない告白

慌てて話し始めようとしたところで、お腹がぐぅううっと盛大な音を立てた。


「やだっ」

「正直な音だ。では朝食にしよう。甘いものが好きだと知って街のレストランに作らせた。ダイニングで見て欲しい」

「レストラン?」


 部屋を移ってダイニングへと行くと、テーブルの上はまばゆいほど色鮮やかなセッティングがされていた。


「わぁ、素敵!」


 卵やベーコンが調理された皿が二人分用意されているほかに、いかにも手の込んだお菓子が並ぶ。

 三段のケーキスタンドには、サンドイッチや小さなケーキがセットされていて、そのひとつひとつが、キラキラと輝いている。

 ケーキには赤いチョコレートソースがコーティングされて、チョコ細工の葉っぱが載っているのが可愛い。


「テーマはリンゴね、美味しそうっ」


 サンドイッチにまで、ハムやレタスのほかにリンゴのシロップ煮が挟まっている。こういうの大好き!


「アップルパイみたいな匂いがするっ」


 ゼリーやプチケーキもリンゴづくしだ。

 真っ白な陶器の上に、薄くスライスされた生のリンゴが花びらのように飾られて中央のリンゴは飾り彫りまでされている。


「フルーツカービングだわ、なんて繊細なのかしら」


 ハートをモチーフに、鳩やリボンが彫られたリンゴの赤と白がとっても可愛い。


「座ってくれ、紅茶を淹れよう」


 長いテーブルにあふれんばかりの花と果物が飾られて、壁のないダイニングはまるで、アリスのお茶会のようだ。


「レストランの朝食をどうやって運ぶの?」


 何から食べようかと視線をうろつかせながら、思いつくままに質問をする。

優雅な手つきで紅茶のポットを持ち上げるロビンハルトに目を向けると、彼もこちらに眼差しを映した。


(うわっ、綺麗な目)


 近くで見ると、その造作の完璧さに毎回驚いてしまう。

 絶妙な彫りの深さと二重のライン、目の下にふんわりと浮かぶ涙袋と、その下にある年相応の笑い皺が、優しい性格を表している気がする。


「物を出す魔法は、基本中の基本で魔法使いでなくても教えられる。ただ、感覚で理解するものだから原理をレクチャーするのは時間がかかるな」


 色濃く淹れた紅茶のカップに私好みの分量でミルクを入れてくれながら、ロビンハルトが真面目な顔で言った。


「私でもできるようになるの?」

「素質があって、教え方が上手ければね」


 ロビンハルトがにっこりと笑って、ミルクティーを差し出してくれた。


「ありがとう」

「どういたしまして、好きなものから食べてごらん」

「はぁい」


至れり尽くせりとはこのことだ、まっ黄色いスクランブルエッグを、わくわくと口に運んで頬っぺたを押さえた。


「わ、すごくおいしい! 卵料理、大好きよ」


 ものすごく良質の生クリームやバターが使われているらしく、食べたことのない味わいにうっとりして目を閉じた。もしかしたら、こっちの世界は卵の質も違うのかも? 

 そういえば昨日のデザートもおいしかった。


「俺も卵は好物だ。いくらでも食べるからイブに呆れられる」

「その気持ちわかるわ。おいしいもの」


 顔を見合わせると、思わず「くすっ」と笑い合う。


 食事を共にするのはこれで二回目だけど、そのたびにロビンハルトを信用したくなる。

 美形だから素敵というだけでなく、彼は生真面目で努力家でもある。そして徹底したレディファーストが身についている。

 

 人間的にもとても尊敬できる気がするのだ。

 そしてなぜだかとても初心なところがある。

 見かけだけなら、働き盛りの男性、というところだけれど……。


「ロビンハルト、年はいくつ?」


 思い切って聞いてみた。

 私の目算では、37か38歳というところかな? もっと上?


「18歳だ」


 ぬけぬけと言われて、紅茶のカップを持つ手が止まる。

 笑っていいのか、困る。


「え? なに言ってんの?」


 思わずツッコミ担当みたいな大声が出た。

 同い年でなんてあるはずがない。


「なにか、いけなかったか? ああ、そうか。見かけが……」


 私の発した言葉がどう翻訳されたのか、ロビンハルトが不安そうな顔をした。端整な顔立ちゆえの老け顔というのも違う。アラサーの魅力がむんむんしているのに18歳とか! ないない!


「いえ、あの……落ち着いているし、魔法とか使えるし、鉄仮面かぶっていたりで、もう少し年上かなって思っていたの。いや! やっぱりないでしょう。同じ年よ」

「アレッサンドラが18歳?」


 ロビンハルトが首をかしげる。


(あ、鉄仮面かぶっているのは関係ないか?)


 どぎまぎして、一度置いた紅茶を持ち上げると一気に飲んだ。


「熱っ」

「大丈夫?」


 素早く冷たいオレンジジュースをコップに注いで渡してくれる。うん、やっぱり紳士だ。


「あ、ありがとう」

「気をつけて。えっと……その……アレッサンドラに気に入られたくて俺は、年齢設定を高くした……」


 ――年齢操作ができる? 便利だけど、普通それができるなら若くしない?


「……本当は、見かけももっと若いの?」

「まぁね。でも、アレッサンドラは年上が好きだと聞いている。イブみたいな黒髪のダンディな男がタイプなら、金髪の18歳なんて鼻にもかけないだろう」

「……そうかしら」


 18歳のロビンハルトを見たいような、見たら目がつぶれちゃうんじゃないかという恐怖があるというか……。


 だって40歳手前のこの容姿も落ち着いていて麗しいけれど、これでピッチピチの18歳に逆行したら、どう? アポロン? 大天使? ジャスティン・ビーバー?


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