話し合いの結果としては
「なぜディース伯爵を養子に?」
サリエル王子も、ラフィオンのことは疑問に思ったみたいだ。
「私を排除したいのはわかります。私が大人しく、炎の魔法を使えないと公表していさえすれば、バイロン公爵が次の王と決まったでしょうから。そしてディース伯爵を降格するなどの要求であれば、これも納得できます。バイロン公爵にとっては目の上のたんこぶでしょうから」
「殿下の言う通りですね」
ラフィオンもうなずいた。
「それなのになぜ、自らの養子に私を指名したのでしょう? 公爵には息子がいる。なのに養子にするなら、我が子が公爵家を継ぐのも、後に殿下を排除して子供を王位につけるとしても、私は障害になります」
話を聞いていて私はふと思った。
まさかバイロン公爵は、自分の子供が可愛くないのかしら?
もしくは、自分の家を継がせる相手と思っていないの?
そこで私は思い出す。アルテ王国の貴族の基準が、魔法を使えるか使えないか、であることを。
『ラフィオン、もしかして公爵の子供は、弱い魔法しか使えないの?』
不思議に思ったので聞いてみた。
『いや、俺や公爵には劣るだろうけれど、殿下よりは上のはずだ。ただ年齢はまだ俺たちよりも下だったはずだが』
あら。では貴族の家を継ぐには問題もないし、ひっそりと売られていなくなる可能性もないのよね?
『親子の仲が悪いのかしら?』
そう言うと、ラフィオンが少し苦笑いする。
『マーヤは優しいな』
『え?』
仲が良くないと想像するのは、私が優しいからではないように思うのだけど……。
すぐに回答は出せないだろうと、国王はサリエル王子に少し考える様に言った。
確かにこんなこと、サリエル王子だってすぐにはうなずけないだろう。
最後に国王が言った。
「正直、わしはそう悪くはない提案だと思っている。少なくともサリエル、お前とグレーティアの立場を守ることはできる」
サリエル王子が首をかしげる。
「以前から要求していた、グレーティアとの婚姻については無かったのですか?」
私もグレーティア王女について気になっていた。
だって、未来ではグレーティア王女は亡くなっていると聞かされたんだもの。何の要求もしてこなかったことが不思議だった。
「ああ。おそらくグレーティアを娶らなくとも、これだけ自分のことを印象付けたのだから問題ないと思ったのだろう。それと、ディース伯爵を自分の手の内に収められれば、十分に権力が増強できる。以前その話が挙がった時には、ディース伯爵はその地位にいなかっただろう?」
国王はそう言うけれど、私は釈然としない。
確かラフィオンが伯爵位をもらった後も、その話は立ち消えにならなかったはず。だからグレーティア王女は、打開策としてコンラート王子と結婚しようとしたのだもの。
それはつい一か月前の出来事だ。
「心配なら、こちらから公爵へ条件として確認しておく。外交としても、グレーティアにルーリスへ嫁いでもらえた方がいいのだからな」
『…………』
国王がそう約束しても、私は人間としての人生に戻ったりはしなかった。
ということは、未来が変わらないということ。
どうして?
同じ疑問を、ラフィオンも感じたようだ。
国王の部屋を退出した後、ラフィオンが言った。
『今回の国王の決定では、グレーティア王女の運命は変わらないんだな?』
『そうみたい……。以前変わった時は、問答無用で過去に戻ったわ。それにグレーティア王女の結婚が上手く行けば、私の運命が変わらないはずがないもの』
『そうだな。必ず変わるだろう』
ラフィオンも同意してくれる。
『ということは、バイロン公爵が何らかの手を使って阻止するんだろう』
やっぱりそうなるのかしら……。だとしたらどんな手で?
ゆっくりと時間をかけてでも歩き、サリエル王子は自分の部屋に戻って来た。
もう取り繕う必要はないからと、サリエル王子はどさっと自分の部屋のソファに寝転がる。
部屋でずっと待っていたらしいグレーティア王女に説明するのも、辛かったのだろう。
「ああ楽だ……」
そう声を漏らして息をついた後、そのままの格好で、向かい側に座ったラフィオンに言う。
「ラフィー。バイロン公爵は、いよいよ僕等を殺す気かもしれないね……」
え!?
「殿下もそうお考えですか」
ラフィオンは当然のことのように受け止めた。そういう解釈をしていたの? グレーティア王女の結婚の阻止も、殺して止めると思っているということ?
「父上は甘い」
サリエル王子が、真剣な表情で吐き捨てる。
「バイロン公爵に頼るところが大きかったのは仕方ない。だから甘くなるのはわかるよ。でもこっちは生死がかかっているし、正直父上も危険だと思うんだけどね」
なんですと!?
国王もバイロン公爵に殺される可能性があるということ? え、どこからそう読み取ったの?




