会議はゴーレム付き
それからというもの、二日に一度、私は召喚されることになった。
一日おきなのは、ラフィオンがどうしても「他のゴーレムも試したい」と言ったからだ。
そうして他のゴーレムを召喚した翌日にラフィオンと会うと、彼はソファーに座ってうなだれていた。
「なんでだ……どうしてあいつは嗅ぎ分ける……」
その言葉だけで、コンラート王子が昨日のゴーレムと違うと気付いたことが察せられた。恐るべし、王子の嗅覚。
詳しく尋ねてみると、別な精霊に優しく対応させたらしい。
あまり強くなく突き飛ばさせ、どうやらコンラート王子に配慮してしまったようですな。はっはっはと言ってみせたと聞いたわ。
でも肝心のコンラート王子は「なんかしっくりこない」と言い出したそうな。
『一体どうしてマーヤなんだ』
頭を抱えるラフィオンに、私はあきらめにも似た気持ちで言った。
『駄目よラフィオン。あんなに変わった人なのですもの、普通の尺度で測ってはいけないわ……』
ラフィオンも『そうだったな』とうなずく。そこでふと思い出したように私に言った。
『しかしこれで、コンラート王子が殴られて執着するのは、マーヤから対象が変更になったんじゃないのか?』
うん、そう思うわよね? 私もそう期待したの。
だから一度精霊の庭へ戻った時に、自分の記憶を検証したのよね。記憶が変わっていても、精霊としての私が感じたり考えたことは記憶に残っている。
だから、その時考えていた記憶と、自分の記憶に齟齬があれば、変わっているということなのだけど。
『実は……。確かにコンラート王子を初めて殴ったのは、私ではないことになっていたのだけど』
ルーリス王国の侯爵令嬢だった14歳の頃。
ぶつかって目をつけられる場所を避けた私だったけれど、今度のコンラート王子は、自ら全ての令嬢を驚かせる状況をひそかに作っていた。
『……まさか、あの変態王子はぶつかってみて、その具合で相手を決めようだなどと目論んだのか?』
『というか、それぞれの令嬢が驚いてコンラート王子を突き飛ばしたり、叩いたりするのを期待していたのではないかしら』
貴族令嬢は少数ずつ、王妃のささやかな催しに招待されたの。で、王宮の庭の迷路に入って、探し物をしてくるというものだった。
当然、精霊になった私が注意するよう呼びかけたシチュエーションとは違うので、14歳の私は何の警戒もなく参加した。
でもその迷路の途中で、コンラート王子は全員の令嬢を驚かせて歩いていたのよ。
もちろん私は引っかかって……。懐かしい感じがするって言って、妙に執着されたのは同じだったの。
その後は結局、手紙を受け取った後と同じだったわ。
「待て。そうすると、やっぱりグレーティア王女とは婚約できなかったということか?」
ラフィオンの言葉に、私はうなずく。
『何かがあって、話が決裂したみたいなの。しきりにゴーレムを召喚できる魔法使いが欲しかったのにって、言っていた記憶があるわ』
だから、ラフィオンを怒らせるようなことがあったのではないかと思うの。コンラート王子がその話をつぶやく時は、とても落ち込んだ様子だったから。
「どういうことだ……何か策を考えなければ」
つぶやいた時、扉をノックして従者君がラフィオンに時間をしらせた。
『とりあえず会議に出席してくれ』
ラフィオンに願われて、王子宮の庭で召喚を経てゴーレムになった後、私は王宮の中央部にある広間へラフィオンと一緒に向かった。
大きさはラフィオンと同じくらいにしてあったので、王宮の中を歩いても、通りすがりの貴族にぎょっとされるだけで済んだみたいだし、扉も壊さず通れたわ。
会議中、コンラート王子は君が悪いほどに笑顔だった。
ケーキが願うだけ沢山給仕してもらえる状況の子供でも、こんなに笑顔のままではいないだろうと思うくらいに。
そして、会議中に何か要求されるとまず一度は、ラフィオンの勧誘をした。
「君が来てくれるなら即決なんだけどな」
「召喚魔法を使える魔法使いがお国にいらっしゃるなら、教えてさしあげるのはやぶさかではありませんが」
「でもルーリスには、召喚魔法の使い手はいなかったはずなんだ。なんとかしてゴーレムそのものを連れて帰ることができればいいのに……」
このやりとりをした後、ようやく交渉に入るので、サリエル王子もなんだかぐったりとしていたわ。
たまに交渉が進まないから、サリエル王子がラフィオンに餌を提示させようとしたこともある。
ゴーレムに一回突き飛ばされる代わりに、譲歩を……とか。ゴーレムに抱え上げられる体験をさせる代わりに……とか。
ルーリスの他の貴族達も、ちょっとそれは……と言いたそうな顔をしてた。
だけどコンラート王子は、自分の権限だけでどうにかなりそうなことについては、それで手を打つ事柄もあったのが驚きよ。
そしてサリエル王子は、かならずお目付け役としてグレーティア王女が同席している場所で、と条件を付けていたの。うん、なんとかグレーティア王女と仲良くなってほしいものね。
実行そのものは、私がやるとラフィオンが嫌がるものだから、明日別な精霊を召喚した時にということになったわ。
そして今日四度目になるのかしら。コンラート王子が言う。
「本当に、ゴーレムを連れ帰る方法ってないのかな」
そこで心配したのか、ラフィオンが忠告をした。
「ゴーレムの中の精霊は、呼び出され続けたままでは疲弊し、やがて消滅してしまいます。そうしたらゴーレムも崩れてしまいますよ」
「それは困るなぁ……」
ゴーレムがいなくなってしまうのでは意味がない。だからとコンラート王子も、それ以後は未練ありげにつぶやくことはなくなった。




