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転生したら精霊!? 元令嬢は召喚されました  作者: 奏多


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舞踏会の足踏み攻防

 王宮なら、舞踏会ができる場所はいくつかあるだろう。

 けれど国賓を迎えて沢山の貴族を招いて国の豊かさを見せつけたいのなら、アルテの王宮ではここなのだろう。

 王宮の正面から入ってすぐの場所にある大きな広間。

 ラフィオンが教えてくれた。王宮の、森林の間だと。


 名前の由来はすぐにわかった。ここは、冬の森を連想する大広間だからその名前を付けられたのね。

 壁は白大理石を彫刻し、金や赤い硝子で美しく彩られ、つりさげられたシャンデリアには、緑の硝子がいくつも使われている。

 シャンデリアは、まるで逆さまに生えた樹のようだ。

 天井も薄い緑で泉や森が描かれていて、どこか精霊の庭のようにも見える。そんな逆さまの木の下を、色とりどりのドレスを着た人々が歩き回った。


 貴族達の半数は、先ほどまで隣の赤い壁画が美しい広間で、晩餐に出席していた人々だ。

 隣室から移動してきたのは、王族や王と親しい貴族達と、ルーリス王国の一行。

 その他は、舞踏会から参加するため招待された貴族達だ。

 貴族だけで二百人はいるのではないかしら。

 その間を、飲み物を配り歩く召使い達が動き回るので、三百人近い数の人間がいると思う。


『人の波がうっそうとした森みたいね』


 天井から生えたシャンデリアの樹の下は、低木が混み合う森になっているように見えた。

 この中からグレーティア王女を見つけるのは一苦労ね。晩餐会の席では位置が決まっていたから、問題なかったのだけど。


『大丈夫だ。王女の方がこっちを見つけてくれる』


 私の不安を察したような答えを、ラフィオンがくれた。


『どうして?』

『コンラート王子の方がこっちへ来る』


 確かにコンラート王子が、付き人らしき騎士を連れてラフィオンに向かって歩いてきた。


「やあ魔法使い伯爵殿。君と話してみたいと思って探していたんだ」

「光栄ですコンラート殿下」

「君の召喚魔法についてもっと聞いてみたいと思って。火竜を召喚できると言うけれど、やっぱり一度は戦って倒さなくてはならないんだろう?」


 いつにも増してコンラート王子はにこやかだった。グレーティア王女と話している時よりも、というのがとても心配。

 ……ラフィオンと話す方が、グレーティア王女と話すより気楽っていうのは……あまり良くはないわよね?


 しかも、ダンスが始まると事態はさらに進行した。

 一曲目はグレーティア王女と踊ったコンラート王子。

 そして千載一遇のチャンスではあるものの、周囲が二人だけに注目している間に、足を踏むことができなかったのだろう。グレーティア王女はちょっと足を出しかけたけれど、踏まずに終わった。

 それでも、また次に踊る時にと考えているはずなのに……。


「まずいよラフィー」

「…………誰か、話を漏らした者がいるようですね」


 ラフィオンが苦々しい声で、隣のサリエル王子に言った。

 コンラート王子と踊りたくて、女性が同伴していた父親に仲介を頼むのはままあること。それに応じて手を差し出すのかはコンラート王子次第だけれど、彼は交流にきたばかりのこの国で、様々な人からの印象を良くしておくことを優先したのでしょう。

 素直に挨拶に来た女性と踊り始めたのだけど。

 一人目。


「いっ……!」


 叫び声を上げそうになったコンラート王子は、引きつった顔で相手の令嬢を見た。


『え、足を踏まれた!?』


 そしてコンラート王子は令嬢に断って、ダンスの輪の中から遠ざかって離れた。


『普通……だわ』


 踏まれて足を痛めた男性が、踊り続けるのは難しくても、それとなくダンスを止める方法として不自然なものではなかった。


『それに、変な行動をしなかったわ! うそ! あんなに悩まされたのに!』

『確かにおかしいな……』


 私の話を信じてくれているラフィオンも、コンラート王子の反応には首をかしげた。


『痛みが好きな変態なら、確実に……いや』


 ラフィオンは眉をひそめた。


『刺激が足りずに、まだ目覚めてないのか?』

『目覚め……』


 その単語に、私はぞっとした。

 一方、少し休んで踏まれた痛みが回復したのか、コンラート王子は二人目の女性と踊り始める。しかし曲が終わりかけたその時。


「……!」


 またしても足を踏まれて、コンラート王子は天を仰いで悶絶した。

 それでもなんとか、ひきつった笑みで令嬢と別れの挨拶をして離れる。

 ……変態として目覚めた様子は、まだない。


「グレーティアを、早く王子の元に。二度目のダンスに誘って早く足を踏むように言ってきてくれ」


 サリエル王子が焦った様子で側にいた侍従に指示する。影のように動いた侍従は、座って観覧している国王の隣にいたグレーティア王女に何事かをささやいた。

 そしてグレーティア王女は、やや緊張した顔で立ち上がる。


 ……何かしら。このまま行くとコンラート王子ってまた足を踏まれるのよね?

 だんだん気の毒になってきたわ。

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