魔力過多を治す方法
でも、私もできればラフィオンに協力したいし、グレーティア王女が恥ずかしくないように手伝いたいわ。
「教えて、ラフィオン。何かそんなにおかしなことなの?」
「いや、おかしいってわけでは!」
珍しくラフィオンが焦ったように言いながら、私に向き直ってくれる。
「言いにくいことなの?」
「いや……うん」
歯切れ悪く曖昧に応じたラフィオンだったけれど、何度か深呼吸してようやく私に言った。
「今から、その魔力をどうにかするから、ちょっと横を向いていてくれ」
見られたくないようなことなの? 何をするんだろうと不安がなかったわけじゃないけれど、ラフィオンの言う通りに顔を背けた。元はといえば、私がうっかり葉を食べ過ぎたせいだもの。
「あと今から何をしても、驚くな。魔力のためだからな」
私はうなずいた。それで問題が無くなるならと思ったのだけど。掴んでいた手を持ち上げられた後、
「あっ……」
ラフィオンが、私の手首にかみついた。
痛みを感じないけど、でもその光景に恥ずかしさで悲鳴を上げたくなる。
でもその前に、すっと自分の中の熱が引いた。ぬるま湯の中にいたのに、外へ出た時みたいな感覚に。
代わりに掴んでいるラフィオンの手がやけに熱いのが、気になって仕方ない。
……と思ったら、そんな私の手がふっと視界から消えて、熱さも感じなくなった。
どうも見えない状態に戻ったようだ。
「こ、これは魔力を抜き出すためのものだからな!」
焦ったようにラフィオンが早口で説明する。
「調べたんだ……。その、マーヤがまたあんなことになったら、どうにかできるようにしておかないと思ってだな、調べたら精霊を食べるという記述があって。でもマーヤは食べられないからこう、かじってみるしかないかと思ったわけで」
『う、うん……』
ラフィオンの言うことはわかるわ。あの時は本当に迷惑をかけたもの。ケラケラ笑いながら突然人の形で現れたのだから。
そうね、賢いラフィオンが対策を考えなかったわけがないのだわ。
でも、ドキドキした。
あの時もラフィオンは自然な挨拶みたいに、手に口づけたけれど。
かじられた感触がまだ手首に残っているみたいで、なんだかぞわぞわとするの。
ラフィオンも他意はないって言ってるけど、でも……なんだか少し、ちょっとそれにがっかりするするような気持ちがあって、戸惑う。
『と……りあえず戻れたわ。ありがとう、ラフィオン』
礼は言わなくてはと、私は自分でもやや早口になりながらラフィオンに伝える。
「う、うん」
答えたラフィオンは、深いため息をついてテーブルの上で冷めきってしまっていたお茶を飲み干す。
それから自分の左手の甲をつねった後は、いつも通りのラフィオンの顔に戻っていた。
『ええとだな。マーヤに頼みたいのは、舞踏会中にグレーティア王女の側に居続けることだ。そして何か襲撃や妨害があった時に、ゴーレムとしてグレーティア王女を守って欲しい。頼めるか?』
『わかったわ』
私の答えを聞いたラフィオンは、そこでようやくさっきの従者君を呼ぶ。
「サリエル王子に、ご指示通りにできますと伝えに行ってくれ。俺は会場前で王子と合流する」
「は、はあ……」
従者君は応じながらも、目だけで部屋の中をきょろきょろと見回す。たぶん私はどこへ行ったのかと思ってるのね……ごめんなさい。
ラフィオンももちろん従者君の行動については気づいていて、
「先ほどのは、俺が呼んだ精霊だ。気にしなくていい」
「え、でも人みたいでしたよね? ラフィオン様が魔法を使ったようにも見えなくて……」
思わずといったように、従者君がラフィオンに問いかけてしまう。やっぱり精霊にしてはおかしいとか、そういう風に思われてしまったのね。
「あれとは、元々呼べば来るという特殊な契約をしているんだ。姿が見えたのは、少し魔力の操作を俺が失敗しただけだ。気にするな」
「わかり……ました」
違うかどうか、この従者君に確かめる術はない。まだ半信半疑な顔をしながらも、従者君はうなずいて部屋を出て行った。
困らせてしまって申し訳ないことをしたわ。
すると、近くの衣装掛けにあった赤いマントを手にしたラフィオンが小さな声で言った。
「それほど申し訳なく感じる必要はないぞ」
『え?』
「なんでもない。行こう」
そう言って、ラフィオンは部屋を出たので、私はその肩にくっつくようにしてついて行った。




