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舞踏会のその前に

 なんでそんな顔をしてるんだろう?

 首をかしげた私の前で、ラフィオンが従者君に外に出ているように促した。


「絶対にここに人がいることは言うな。いいな? 後でまた呼ぶから、控えていてくれ」


 ラフィオンに言われた従者君は、顔を真っ青にして何度もうなずき、逃げ出すように部屋から出て行った。

 そんなにラフィオンが怖かったのかしら?


「あの……ラフィオン?」


 呼びかければ、ラフィオンが実に怖い顔で私を振り返った。

 ひぃっ! ほんとに怖い! 目がつり上がっているのに、無理に笑おうとして口の端が上がってる!


「マーヤ」


 震える私に近づいたラフィオンは、にこやかと言えない表情のまま両肩にぽんと手を置いた。……手?


「あ、ああああ!」


 私また、現世で実体化してる!? でも酔っていないわ。ああでもさっきラフィオンの従者君が驚いていた理由がわかったわ。突然部屋の中に、見知らぬ女が現れたら驚愕するわよね。

 そしてラフィオンも、怒るわよね……。


「で、マーヤ。また酔ってるのかい?」

「あの、私、今回はたぶん酔ってな……」

「それならどうして、最初に自分が実体化していると感じなかったんだ? 普通は気づくだろうマーヤ?」


 ラフィオンが一歩進んで近づく。

 怖くて一歩退いた。

 だってラフィオン、光の球になっていた時には気づかなかったけど、前よりまた背が高くなってるの。私より頭半分くらいは高いわ。

 成長した分、なんだか怒られると怖いのよ。だからつい言い訳をしてしまう。


「でも、前とは違って、葉っぱを四分の三しか食べてないの。ほら受け答えも、前よりはっきりしているでしょう? 突然笑い出したりもしないし」

「笑い出した方が、まだ誤魔化せたぞ」

「え、ええええ!?」

「変な方がまだ、精霊だと言い訳しやすい。たまたま姿が見えただけだと、エルクを騙して君を帰してしまえば良かったんだが」


 それから「しかしな……」と悩むように目をそらしてから、ラフィオンは私の手を引いてソファに座らせた。

 隣に座ったラフィオンは、ため息をついたものの、あの変に怖い顔を止めてくれた。なので恐る恐るながら、謝る言葉を口にする。


「あの、困らせてごめんなさい」


 すぐ呼ばれるだろうと予想はできたのに、つい自棄になって葉の残りを食べてしまったのは私だものね。呼んだラフィオンも、驚いていたもの。

 酔っていない分、私はしおしおとうなだれる。

 そんな私の手を、そっと握った上でラフィオンは目を横にそらして言った。


「やってしまったものは仕方ない。とにかくどうするかを考えよう。俺は君に、舞踏会中のグレーティア王女に付き添ってもらおうと思ったんだ」

「グレーティア王女の付き添い?」


 そういえばもう夕方みたい。窓から差し込む光がやや色がかげっている。


「実は、グレーティア王女がその後もコンラート王子に接触したんだが……」


 王宮内を案内したりと積極的に話しかけたものの。


「やっぱり感触が良くないわ」


 とグレーティア王女が意気消沈していたらしい。

 最初からぐいぐいいき過ぎて嫌がられるのも怖いので、最大級に良い人だと思っていますよという態度で、何か話が合うものがないか探ったようなのだが、どうにも空気を押しているような状態だったそうな。


 でも夜には舞踏会が行われる。

 バイロン公爵達もグレーティア王女から引き離そうと、いろいろ手を尽くしているはずだ。王女にコンラート王子が興味を示しては困る。大人しく貿易の話だけまとめて、隣国へ行って欲しいのだろう。


「それで王女に、足を踏んでみてくれという話をしたんだ」

「足を……」


 私は思わず身震いした。必死でコンラート王子の足を避けて踊る、とんでもない舞踏会の思い出が頭の中に蘇ったから。まだ手を握っていたラフィオンが、少し手に力を込めたので、はっと我に返って嫌な記憶を追い払った。


「それでだ……。もしそれで上手く行ったとして、王子の方も人が多い場所では告白などしないだろうとサリエル王子が」


 あら、サリエル王子もそういうところは普通の感覚を持っているのね。


「しかし護衛を近くに配置しないのは、グレーティア王女にとっても危険だ。王宮内ではあっても、コンラート王子に近づいている時はどんな妨害をしてくるかわからない。なので精霊にこっそりと護衛をして欲しいと要望された」

「ああ……」


 私もようやくラフィオンの意図がわかった。

 とってもプライベートな方向からコンラート王子をこちらに引き寄せたいのだから、公の場でコンラート王子がグレーティア王女に求婚なり、好意を示すには時間がかかる。

できるだけ二人きりの時間をつくりたくても、護衛が堂々と側にいてはできないだろう、という配慮なのだ。


「私……魔力をなんとか抜く方法はないかしら。何か魔法を使えばいい?」


 するとラフィオンが、目だけではなく顔まで私からそらして言った。


「…………魔法を使う以外にも、ないわけじゃない」

「え、あるの?」


 ずっとこの魔力が消費されるのを待つか、魔法を使うしかないと思っていたわ。

 でもラフィオンとしては、おすすめしたくない方法なのかしら? 嫌がっているように見えるわ。

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