魔力の扱い方
強いゴーレムになるために、やはり魔力を上げたい。
精霊の庭に戻って来た私は、そのことで「ふむ」と考えた。
エリューの葉を使わせてもらえば、私は召喚できる。代わりに魔力量が減る。
たぶん、竜なんかを呼ぶと魔力を使いすぎてしまうのではないかしら?
そうなると、ラフィオンに呼ばれても応えられない状態になってしまうから、避けたいわ。
一番いいのは、ゴーレムとして戦いつつも魔法が使えることだけど。
魔力があるってことは、私にも魔法は使用可能? というか私の属性……。
脳裏に蘇るのは、ケティルのお食事風景と、カイヴ達の抉って行く戦い方。
でもまぁ、強いことは強いのよね。ケティルに削られるとわかった時の、火竜の慌て方からしても、それはわかるわ。
「だけど魔力を増やすと、私が酔った状態になる上に、人の姿で実体化してしまうのよ」
ちょっと齧っただけで、なんとかできる方法……。
考えた末に、私はいろいろと試してみることにした。
「モリーを呼んだ時にはこう、すっと力が抜けていく気がしたのよね。あれが召喚魔法なのだとしたら、魔力を土に与えたらどうなるのかしら?」
やってみた。
あの時の感覚を思い出して、すっと手の先から触れている地面に力を流していくイメージで。
最初はなかなか上手くいかなかったけれど、何度かやすみながらもしつこく試した結果、するんと何かが体から抜け出た感覚の後、触れていた場所の周辺がふわっとケーキのスポンジのように膨らんで盛り上がる。
「まあ」
これはちょっと楽しい。
次に、もしかしてと思って、近くに咲いていた小さな青い花に触れてみた。
自分の中の魔力はなんとなくつかめたんだけれど、それを花に移すのは難しい。でも何度か続けていると、不意に花が巨大化し、私の身長ぐらいの高さに、胴ぐらいの大きさの青い花弁をつけた花に変わった。
「……他も、他も何かしましょう!」
面白くなって来た私は、今度は空中で魔力を放ってみることにした。
空気が膨らむとどうなるのかと、わくわくしながら実験する。
すっと魔力が抜けて行くと、次の瞬間――手のひらからパチっと電気が走った。
「ひゃあ!」
痛くはなかったけれど、音と短いながらもはっきり見えた稲妻みたいな光に驚く。
え、空気に魔力を放つと雷の魔法になるの!?
『マーヤ、また何か試してるのー?』
『もっかいやってー』
その光に引かれたのか、ふよふよと集まって来たのは雷の精霊達だ。
私は請われるままに、何度か電気をバチバチとさせてみせた。慣れてくると簡単ね。
雷の精霊は星か雪の結晶みたいな形をしているのだけど、光る球の中にいるそれがキラキラと回ると本当に綺麗。
そんな彼らは、電気の光にまとわりついては、
『はあぁぁぁぁぁあ』
と暖かなお湯に浸かったような声を出す。面白いわ。
『心地良いの?』
『なんだかとってもいい感じ』
『もっと浴びたい。ずっとそこに居たくなるよー』
こんなささやかな電気なのに、とても好評だ。
『先に旅立っちゃったエクルは、現世でこういうのを楽しんでるのかなー』
『空から落ちる雷なら、もっと刺激的だよねきっと。気持ち良さそう』
『でもマーヤの雷もこれはこれで……。現世で使ったら、ふらふら寄ってくる精霊がいそうだよね』
それは、雷の精霊が寄って来てくれるということかしら?
「そういう精霊なら、頼みごとをしたら聞いてくれるかしら?」
『たぶんー?』
『ふわっとした気分になりたいくらい、飢えてたらすぐかも?』
雷の精霊が飢える……。ずっと雨が降らないとか、そういう状況かしら?
「そもそも雷の精霊ってどこにいるのかしら」
『エリューが、たいていはお空にいるって』
『雲と一緒だって言ってた』
「空……」
それは随分、遠いところにいるのね。それじゃ地上でバチバチとやっても、寄って来てくれないかもしれないわね。
でも私は、この電気を別のことに使う方法を知った。
『マーヤはうっ!』
うっかり近づいてきた他の精霊が、私が光らせていた電気に触って失神してしまったの。その子は木の精霊だったのだけど。
「大丈夫!?」
慌てて揺すってみると、すぐに起きてくれた。
『あーびっくりしたー』
彼はまた元気に動き始めて、今度は雷の精霊にぶつかってまた失神していた。
『……なんだろう、ちょっといい気分』
そんなことを言い出して、ちょっと怖くなってしまった。大丈夫かしらこの精霊は。現世に生まれた後、刺激が欲しいと言って雷に当たりに行きそうで怖いわ……。
だからつい私は忠告してしまった。
「もうそんな遊びはしちゃだめよ。私も貴方が倒れて心配したわ。それにあまり癖になると危険だと思うの」
『うーん……マーヤがそう言うなら』
木の精霊はそう言って、私の説得を聞き入れてくれた。良かったと思ったけれど……。ううーん。今度は泉の中にバチャバチャと入って、沈んで行っている。
エリューも笑っているばかりで放置しているみたい。
精霊の卵の間は、平気だからと思っているのかしら? 心配だけど、精霊のことをよく分かっているエリューに任せるしかないわよね。




