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転生したら精霊!? 元令嬢は召喚されました  作者: 奏多


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28/90

未来は変わったはずなのに

 それから二日経った。


 相変わらず、手紙を出してもらったのに、変化なし。

 仕方ないわ。外国から貴族の名前を使って手紙を出したとしても、二週間はかかるでしょう。そうしなかったはずだもの、三か月くらいかかったっておかしくはないわ。


 理由をいくつも心の中に思い浮かべながら、私はため息をつく。

 他にやることがなくなったので、ラフィオンが呼んでくれるのを待っていたら……ふっと何かが繋ぎ合わさるような変な感覚があった。


 風が吹いたせい? と思って見回す。

 けれどなんだか、自分の中が変わったような妙な感じだわ。

 首をかしげて、三秒くらいしてから私は息を飲む。


「まさか!」


 自分の記憶を辿る。

 11歳。季節は初夏ぐらい? 手紙が来た記憶記憶……あった!


「手紙がきたわ!」


 すごい。ラフィオンの手紙が届いたわ!

 執事が運んできた手紙の中に見つけたそれを、変な人からだと思った私。でもちゃんと名前も書いてある。自分の知り合いではないはずなのにと思いつつも、異国からの手紙に少しどきどきしながら開けたのよ。

 中身が自分の字としか思えないものが一通。内容がなんか怖かった。読んで捨てようとした時、私はもう一通の手紙に気づくの。


 それはラフィオンが書いた短い添え書きだった。

 自分がアルテ王国の魔法使いであること、その関係で、精霊から未来のことを伝えられたのだと。どうか恐れないでほしい。ほんの少し気をつけてくれるだけで、未来が明るくなるのだからという言葉だけの、短い文章。


 ラフィオン……本当に良い子だ。目に涙が浮かんでくる。

 添えられた手紙の真摯な言葉に、記憶の中の私も捨てることを思いとどまった。おかげで読んだ内容が心に残ったの。


 やがて王子と、異国の王女との結婚が破談になる。

 相変わらず政治的なことについて興味がないというか、どうせ父親に決められてしまったら抵抗できないのだしと考えた私は、王子が誰と婚約したのかを聞いても、はっきりと思い出せない程度にしか覚えなかった。

 それでも、状況が昔見た手紙と同じだと気付いた私。

 問題の殴る事件は回避できたみたい。

 なのに王子の婚約者候補に残り、うっかり舞踏会で足を踏んで、君と結婚したいと言われ……。

 そして崖へ呼び出される。


「え……」


 待って。なんだか変わってないわ。

 いえ変わってるけどささいな場所だけで……。ミルフェのことも避けたのに、今度は嫉妬心から集団で囲まれて、無理やり崖から落とされた。

 もっとだめになってる!


「そんな……」


 私はその場に座り込んでしまった。

 どうしたらいいのかしら。手紙を送ってもダメだなんて、他に何をしたら自分の運命を変えられるのかわからない。

 それに。


「せっかく、ラフィオンが協力してくれたのに」


 こっそり手紙を出すのも、手間がかかっただろう。しかも討伐の途中で、気ぜわしい時に実行してくれたのに。

 申し訳なくて、失敗しただなんて話せない。次に会うまでに「ありがとう、ラフィオンのおかげで私の寿命延びたみたい」って言えるようにしなくては。


「笑顔の練習しておかないと……」


 でも今日はまだ、落ち込んでそういう気持ちになれない。明日まで、悲しんでもいいわよね。

 そう思ってその場にうずくまった時――。


《マーヤ!》


 その声を聞いたら、どうしても行かずにはいられない。

 呼んでくれてる。そのことが嬉しくて拒否しなかった。

 しかも人間の姿だったらひどく落ち込んだ顔を晒すことになるけど、ゴーレムだからラフィオンにはバレないものねと思うと、気が楽になったとたんにすっと視界が切り替わる。


 そうして現れ出たのは、どこかの海岸だ。

 白い砂浜は何か大きなものが蛇行した模様がついている。

 そこここに散らばる兵士達と、魔法を使って攻撃しようとしているアルテ王国の騎士達がいる。

 相手は、海の中からその体を少しだけ覗かせていた。

 薄青の巨大な蛇。

 見上げるほどの高さに、ラフィオンが十人いても囲めなさそうな幅の蛇は、一体だけでも十分に脅威なのに、三体もいる。

 目の前にいたラフィオンは、いつもより余裕がなさそうな顔で命じてきた。


「王子と王女を避難させてくれ!」

『王子だけじゃない?』


 王女のことを頼まれるなんて初めて。一緒に討伐に来たの?

 見回せば、珍しく人を羽交い絞めにして止めているサリエル王子の姿があった。


「待てグレーティア!」

「いやよ! 私の火喰い鳥ちゃんの仇をとるのよこの拳で!」

「無茶だってば」


 鼻息も荒く、自分を羽交い絞めにした王子をも引きずっているのは、まだ十代のご令嬢だ。王子と同じ、赤金の長い髪を高く結い上げた女の子だ。

 戦闘に参加するためでも許されなかったのか、彼女はふくらはぎまである灰色っぽいドレスを着て、その下にズボンとブーツを履いている。

 女性はこの女の子だけ。だから彼女がグレーティア王女?


 とにかくこの二人を遠ざけよう。

 私はのしのしと歩きにくい砂場を進み、王子ごとグレーティア王女を抱き上げた。


「きゃあああ! 何このゴーレム、離しなさいよ!」


 暴れるグレーティア王女。


「離しちゃだめだよラフィオンのゴーレム君! あの林まで退避させて!」


 サリエル王子は頼んでくる。お安いごようですよ。

 私はさっさか砂地を離れ、海岸から離れた場所でサリエル王子だけを降ろす。

 グレーティア王女? 離したら真っ先に元の場所へ戻って行きそうだから、確保したままにしておきましょうね。


「君、頭いいねゴーレム君」


 するとサリエル王子に褒められ、ちょっとぎくっとする。

 変なゴーレムだって思われたわけじゃないよね?

 私は反応しないよう、サリエル王子から意識を離して、ラフィオン達の様子を伺った。


 ラフィオンはケティルを召喚したみたいだ。

 他の兵士や騎士達を退避させたところから、海へ向かって黒い煙が広がって行く。

 一匹はその中に飲まれた後、なんだかバリボリとすごい音がした……ケティルがお召し上がりになったらしい。

 でも残り二匹は、海の中に潜って難を逃れてしまったようだ。


 煙のない沖の方へ姿を現すと、二匹そろってシュルシュルと声を出し、体をうねらせる。

 その動きに導き出されるように、海が大きく波打った。

 そのまま大きく水を逆巻きながら、波が海岸にいるラフィオン達に襲いかかる。


「ラフィオン!」

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