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これは危機……なの?

 私もネズミに一斉に襲われるのは怖い。

 ゴーレムのお腹で隠すようにして間の枝にしがみつき、ぎゅっと目を閉じ……というか、ゴーレムって目を閉じられないわ!

 慌てた私だけど。


 地響きが立つほど騒々しい足音が近づく。

 そして駆け抜けて行く……。私達には一切かまわずに。


「あら?」


 ちょっと体を横にして見れば、ネズミは一心不乱に私の後ろを駆け抜けて行く。ラフィオンのことを探す様子もない。

 なぜかしらと思っていたら、最後尾でネズミの悲鳴がいくつも上がった。


 何か変だ。

 それをラフィオンも感じたようだ。


「マーヤ、ネズミ達はもっと強い魔獣から逃げてるんだ。俺達も急いでここから離れるんだ」

『わ、わかりましたわ!』


 ラフィオンの命令に逆らわず、私は彼を抱えて進もうとした。

 後ろが振り返れないから、ラフィオンが知らないうちにネズミに飛びかかられるのが嫌だったのだ。

 ラフィオンも緊急事態だからと、大人しくお姫様だっこされてくれた。


 進み始めても、ネズミは私達に襲いかからなかった。

 けれどそれほど進まないうちに。さっと足下に、水のような物が広がって行く感覚があった。見れば、黒い煙のようなものが足下を浸している。

 同じ物を見たラフィオンが焦った声で指示してきた。


「急げ、近くに強力な魔獣がいる!」

『え、え、うそ!』


 ラフィオンが強力だって言うなら、ゴーレムな私は勝てないかもしれないじゃない!

 逃げようとしたけど、今度は足がゆっくりとしか動かない。普通に歩いているつもりなのに、なんだか泥沼に遣っているような感じ。

 たぶん、この黒い煙のせいなんだと思う。

 周囲を走っていたネズミなんか、完全に動けなくなっていた。私がまだ動けるのは、ゴーレムだからかしら?


 そして背後から響く、キーっというネズミの悲鳴。

 何が起こっているのか怖くて見たくないわ。絶対に足が止まってしまうもの。

 だけど煙の範囲が広い。

 煙が及ぶ前に逃げ去ったネズミ達の姿は、木立の向こうに遠くに消えてしまい、捕まったネズミだけが哀れっぽい声を出して鳴いている間を、私は必死に進んだ。

 もう少し。あと少しで煙のない地面が見える。


 背後の悲鳴が迫っていた。

 かなり我慢したけれど、もう腕力だけでどうにかなりそうな場所まで来た。

 あと十歩ぐらいの距離ならと思って、私はラフィオンを放り投げた。


「ま……!」


 ラフィオンが何かを叫ぼうとしながら、孤を描くように遠くに落ちて行く。ちょっと高く放り投げ過ぎたけれど、ラフィオンはすばしこい子だったようだ。なんとか地面に足で着地してくれた。

 ラフィオンは私に駆け寄ろうとしたけれど、足が動かなくなることを警戒したんだろう。その場に立ち止まるしかなかったようだ。


 私はいよいよ振り向いた。

 ちょうどネズミが消える瞬間を目撃して、ひっと悲鳴を上げる。ゴーレムだから悲鳴なんて響かないのだけど。

 水の中に沈むように、ネズミはあっけなく黒い煙に呑まれて行った。

 一匹、また一匹と消えて行き、なのに濃い血臭が漂う。

 そうして誰も居なくなったように見える森の中、黒い煙はまだ消えない。


 私は少しでもラフィオンの方へと歩き出す。ラフィオンが逃げてくれないのは、私がまだここに留まっているせいだと思ったから。

 でもその前に、問題の魔獣は現れた。

 大きな黒い水たまりの中を、魔獣は軽々と四本の足で歩く。


『はぁー、久々に食べた食べた』


 そんな暢気なことを言いながら私の近くまでやってきたのは……犬だった。


『え、犬!?』

『え、ゴーレム!?』


 相手の犬も驚いたように私を見る。

 というかこの犬、なんか小さい。強い魔獣がいるとラフィオンが言うから、とんでもなく巨大な魔獣が出て来ると思っていたからかしら?

 足先からピンと立ったちょっと大きな耳の先まで入れても、元の私の腰くらいまでの大きさではないかと思うの。

 あ、でも歯がかなり鋭そう? 犬よりもやたら足先が大きいかも? あと琥珀色の目が三つある。

 だけどパッと見、所々に黒い毛が混じっている白い犬にしか見えないその魔獣は、じっと私を観察していた。


 それにしてもこの魔獣、尻尾がすごくふわふわしてる。

 尻尾の毛が長くて、ふわっと結いあげた髪みたいに、優美に垂れていて、とても触ってみたい感じ。

 だからかもしれない。思わずつぶやいてしまったのは。


『尻尾触りたい……』

『は!? 今、尻尾触りたいって言った?』


 思いがけず犬型魔獣から答えが返って来て、私は驚いた。


『え、私の声が聞こえるの!?』

『君は、精霊なんだろう? だったら僕も精霊だから話はできると思うよ。というかゴーレムに遭遇するのは初めてだけれど。つぶやいたりするとも思わなかった』


 なんと、この犬型魔獣は精霊だったらしい。

 しかも私と会話もしてくれる。意外と性格が穏やかな……犬さんなのかしら?

 これならもしかして、頼めばラフィオンを見逃してくれるかもしれない。もしくはこのままお引き取り願うことも可能かも?

 さっそく交渉しようとしたところで、犬型魔獣からとんでもない発言が出て来た。


『でも尻尾触りたいって懐かしい。マーヤを思い出すよ』

『ままま、マーヤ!? え、なんで私の名前知ってるの!』

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