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6-①目撃

 練習が終わるとまず三年が部室に引き上げ、二年は用具類の片付け、一年はグラウンドの整備を行う。マウンドを円状に均しながらユウキは用具置き場を時々見やるが、そこに中條の姿はなかった。ライバルを意識しすぎるのは良くないことだと思いつつも、これまでの自分の努力が彼に勝っているという自負がユウキにはあった。だからグラウンド整備をしながらも、すでに部室に張り出されているであろうメンバー表のことが気になって、それを見ているかもしれないライバルの表情が気になって何度も用具置き場の方を見てしまう。しかし先輩の姿は見当たらず、彼は延々と円を描き続けるだけだった。

  早く結果を見に行こうという寺内の言葉を振り切り、ユウキはブルペンに残って外灯が消されるまでのわずかな時間、ピッチング練習を行った。一年生がブルペンを使える時間は非常に短く、この時間の居残り練習が貴重だった。ライトが消されるまで残る部員は少なく、その点は自宅が近いユウキの利点でもあった。彼はそんな些細なアドバンテージも余すところなく活用し、今まで練習に励んできたのだった。

「これだけ練習したんだし、この前の練習試合もいい結果を出した。きっと二人とも載ってるさ」

 明るく言いながらも顔が笑っていない寺内を見ながらユウキは部室の扉を開けた。そして部屋の奥に掲げられている掲示板に小走りしてメンバー表を見上げ、自分の名前を見落とさないよう慎重にリストを一人ひとり目でなぞった———しかし、そこに自分の名前を見つけることができなかった。

「まあさ、俺達まだ新入りじゃん? 確かに実力不足なところもあると思うし」

  同じく名前のなかった寺内は、案外、明るくそう告げて帰り支度をし始めた。

「俺達にはまだ時間がある。今みたいに頑張っていれば監督も見ててくれるよ、きっと」

 練習着を脱ぎながら言う寺内を尻目に、彼はリストにある中條の名前に釘付けだった。実力は拮抗している。それならなぜ自分ではなく彼なのか。同じレベルの生徒がいれば上級生を優先する。それは確かに常識的ではあった。悔しいが、明らかにライバルを超えられなかった自分の実力をユウキは認めるしかなかった。

「帰ろうぜ?」

 制服に着替えた坊主頭の寺内は、同じく坊主のユウキの頭を荒々しく撫でながら言った。

「おう、でも俺、まだ着替えてないから先に帰っててくれ」

「待ってるよ」

「いや、いいから。じゃあな」

  そう言いながら彼は寺内のことを部室から追い出し、部室に一人であることを確かめてから改めて一枚のプリントを見上げた。何度見返しても自分の名前はない。しかし、最後の一文にある『これ以外の大会帯同者は別途連絡』を見つけて彼は俄かに期待を胸に秘めた。

 もう少し頑張ろう。そう思ってベンチの方を見やったその時、片付け忘れたであろう練習用のボールが五つほど落ちているのを見つけて、彼はそれを一つ一つ拾い上げた。

  外灯が消えた暗闇の中、ユウキは用具室へ向かった。人気のない真っ暗な部屋を想像したが、意に反して内側から淡い蛍光灯の光が漏れているのが見て取れた。彼は一瞬、不審に思いながらも、誰かが電気を消し忘れたんだろう、そう思ってドアを開けた———すると部屋の隅で屯す数人を見つけたのだった。

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