2-①柔らかな坊主頭
進学クラスから表情のない生徒達がぞろぞろと出てくるのが見て取れた。ユウキの野球部の監督であり、アカネのクラスの担任でもある吉川はいち早く校門に陣取り、仁王立ちで帰宅部たちに挨拶をしていた。
終業のチャイムがまだ鳴り止んでいない間に彼らは足早に学校を後にする。ユウキは入学当初、その異様な光景に興味をそそられ一群の中を歩くアカネを呼び止めたのを覚えている。
―――どうしてそんなに急ぐの?
―――これから塾だから。
答えながら彼女は足を止めない。
―――塾? この前ここに入学したばっかりなのに?
笑いながら投げかけた言葉は、確かに彼女の背中に当たって落ちた。
文武両道の名門校は名目上は普通科とされているが、その中で進学クラスとスポーツ特待クラスに分かれている。両者は同じ校内で学びながら、全く別の目標に向かって日々を過ごしているのだった。
「設楽君、もしかして最近、暇してるの?」
教室に残っていると、見るからにチャラそうな外見の男がユウキの前に腰掛けた。確か、名前は加賀だった。同じ特待クラスの生徒だが、入学早々問題を起こして停学を食らってサッカー部を退部していた。中学ではそこそこ名が通っていたのだと事あるごとに嘯いていたのが今は昔に思えた。
「実は今度の日曜日に遊びに行くんだけど、メンバーが足らなくてさ。良かったら来ない」
なんのメンバー? と訊くと彼はニンマリして、手にしていたスマホのディスプレイを翳して見せた。女の子が四人、加工されたフレームの中で笑顔を作っている。
「この中の何人かが来る予定」
合コン? ユウキはその画像を見ながら問う。言った傍から、それも面白いかも、と彼は校庭の方を見やりながら思ったりした。
「楽しいかな」
「当たり前だろ? 楽しいよ、絶対」
加賀は答えながらユウキの携帯電話に自分の電話番号を入力し始めた。二人がまともに話したのは、これが初めてだった。でも、それもいいかな、と彼は思って同級生にされるがままにさせておいたのだった。