1-③通学路が一緒なだけだから
小学5年の夏だから、十才。それからもう5年になる。その間、二人の関係は何も変わっていない。距離も付かず離れずのまま。でも、それを望んでいる自分がいる。想いを告げないまま今日に至るアカネは、それも認めている。万一この想いを悟られてしまったら、きっとあいつは悲しい顔をするだろう。彼女の中で根拠のない確信めいたものが心を占めていた。野球に打ち込む彼の背中を見守っているだけで満足しなければならない。
「ねえ、今度の休み、ヒマ?」
意に反して三歩後ろを行くユウキは唐突にそう告げた。アカネは思わずドキッとしてしまったが、動じていない風を装う。今度の土日は特に予定はない。
「ないけど、あんた、大会じゃない」
何も求めていないはずの自分に思いもかけない感情が湧いているのに彼女は驚きながら、心配がそれをうまく押し込めていることに少し安心する。
「あ、いいのいいの。じゃあちょっとあけといてよ」
校門を跨ぐと同時にユウキは彼女を追い抜いた。
「なんか誘い方がチャラいんだけど」
立ち止まって悪態をつきながらも、アカネは大きくなった彼の背中に次の言葉を投げかけられぬまま見送るだけだった。