16-②手がかり
陽も暮れ闇が落ち着き、黄色い街灯が馴染み出した頃、ユウキはゲームセンターのプリクラから出てきた見知った背中を呼び止めた。その人物は振り向くとはじめ面食らった後、満面の笑みを浮かべた。
ナナだった。
「ユウキ、こんなところで何してんの?」
腕に絡みながらも興味なさげに彼女は訊く。ナナは彼の腕を引き、連れの女子高生たちと距離を取った。
「ゲーセンデビュー?」
耳に口を近づけて大声で訊くが、そんなワケないか、と彼女は自分で完結させる。
「で、訊きたいことって何?」
駐車場で建物に背を凭れ掛け、上目使いでナナは訊く。彼は今日の出来事を包み隠さず話し、加賀の居場所を尋ねた。
「ユウキもとうとうこっち側の人間か」
すると彼女はそう言って笑った。
「加賀っちの場所は知らない」
しかし一転、真顔になってナナは言う。
「そうか、そうだよな」
四六時中一緒にいるわけがないから、それにはユウキも頷いた。でも、否応なく落胆が現れ、うなだれてしまう。
「そんな顔しないでよ」
ナナは彼の顔を覗き込む。
「居場所はわからないけど、連絡は取れるかもよ」
そしてそんなことを言った。
「何度も電話してるんだけど、出ないんだよ」
「電話? あいつ、電話になんか出たためしないよ」
笑いながらも、彼女はスマートフォンを操作しだした。SNSで加賀と連絡を取ってみると言う。
「あいつと会って、なんて言うつもりなの」
高速で操作を続けながらナナは訊く。
「それはまだ考えてない」
でもきっとナナに説明したのと同じようなことを言うのだろう。自分にはそんなやり方しかできないのだから。いくら笑われてもユウキは真摯にそう思うのだった。
「今、昨日のファミレスに向かってるってさ」
言いながら差し出された携帯電話に、彼は身を乗り出した。
「ありがとう」
そして言葉を選ばず感謝した。
「昨日、優しくしてくれたからね」
ナナは甘い声で妖しく微笑みながら彼の首に手を回す。
「それに私、君みたいながっしりした子、好きなんだよね」
耳元で囁くと、ユウキはヘラヘラ顔をさらに緩ませながらも、優しくその腕を解いた。
「かわいい」
彼女は視線を逸らさずそう告げる。が、すぐに表情を硬くし、視線を落とした。
「はっきり言って、加賀っちに会っても意味ないと思うよ」
そしてそんなことを言う。再び見上げたナナの視線を、彼はしっかりと受け止める。
「かもしれない。でも、自分のできることをしてみたいんだ」
ユウキの決意に迷いはなかった。自分のやれることを精一杯。バカだとは自認しつつ、それが自分らしいのだと彼は思った。
「なら仕方ない。期待した結果が出なくって落ち込んでるなら、いつでも私に連絡してね」
折れたように苦笑した彼女はユウキの携帯電話を取り上げ、自分のアドレスを慣れた手つきで入力しだしたのだった。