15-②幼馴染の萎んだ背中
「完全にハメられたね」
話を聞き終わると、アカネは前方を睨みながら呟いた。ユウキはその言葉にも反応鈍く頷くだけだ。人を疑うことを知らない彼に、彼女はさらに苛立つ。
「思い当たる節はあるの?」
その問いにユウキは思わず中條の顔を思い浮かべてしまう。が、彼はそんな自分が嫌いだった。
「あるのね」
アカネは幼馴染の微妙なその表情を見逃さなかった。憤る気持ちを抑えつつ、彼女は彼が停学になると利益になる人物に考えを巡らせた。
しばらく考えても答えの見当はつかず、ユウキに訊いても芳しい情報は引き出せそうになかった。
「でも、一つだけ確かなことがある」
写真を配った犯人の見当はつかなくとも、写真を撮るのに協力した人物は疑いようがなかった。昨日、偶然通りかかったら在校生がビールと煙草をやっているところを目撃し写真に収めましたなどというのはあまりにも出来過ぎだし、それをわざわざ学校にまで送る手間を考えるとなおさらユウキの停学を狙った誰かの仕業だと考えざるを得なかった。
「いつまでうじうじしてんのよ。あんたはいつでもヘラヘラしてるんでしょ。笑ってればいいのよ」
そう言って勢いよくアカネは幼馴染の尻を蹴りあがた。
「もうちょっと優しい言葉とか、ないのかよ」
ユウキは尻を押さえて苦く笑う。
「ないね」
少しだけヘラヘラが戻ってきたのを確認しつつ、アカネは突き放した態度を崩さなかった。
「とにかく、潔白を証明する必要がある」
暮れなずむ空に向かってアカネはそう諭す。
「あんた、このまま泣き寝入りなんてしないよね」
念を押すようにすると、徐々にユウキの背筋も伸びてきた。
「悪いことなんてしてないんだし、どうやってでも疑惑を晴らさないといけないよ」
そう言うと彼は強く頷いた。
「でも、どうやって」
改めて浮かんだ疑問に、二人は再び沈黙に帰る。もうすぐお互いの分かれ道にくる。そうすればもう、ユウキとはサヨナラだ。彼女はそう思うといたたまれない気持ちになった。
「今日は休んで、明日、改めて先生に話してみたら」
「でも、停学なんだから学校に行っちゃいけないんじゃ」
弱腰の態度に、再びアカネはユウキの尻を蹴り上げる。
「納得してないなら、朝一にでも先生に直談判して復帰を認めてもらいなさいよ」
どうやって、と開こうとする口を彼女は強い眼差しで封じ込めた。
虚勢を張ったはいいが、彼女は言い知れぬ焦りを抱えながら、トボトボと帰路につく幼馴染の背中を見守ることしかできなかった。