11-②ダブルデート
電車に乗り近場の遊園地に来ていた。動物園と遊園地のアトラクションやスポーツアクティビティが併設されている。そこは古くからある、幼馴染の中では【遊園地】と言えば、ここ、という慣れ親しんだ場所でもあった。
「ユウキの頭、触らせて」
ナナと名乗った女は、幼馴染にいきなりタメ口を遣い、慣れなれしい態度をとった。彼は嫌な顔一つせず、頭を差し出す。
「今が一番、触り心地いいかも」
少しだけ伸びて柔らかくなった坊主頭を撫でられてヘラヘラしている幼馴染にどこか苛立ちを覚えるが、アカネは遠巻きでそれを見て見ぬふりする。
「おまたせー」
加賀がアイスクリームを持ってくると、ユウキは満面の笑みになった。
「ガキ」
と言っても彼は笑顔を崩さない。
「あれ、ナナちゃん食べないの?」
いつまでも手を付けないナナを窺うと、ユウキは立ち上がり、自販機のところまで駆けていった。
「はいこれ」
戻ってきた彼の手には、ホットのペットボトルが握られていた。
「ありがとう、ユウキって意外と気が利くんだね。でもなんでわかったの」
ナナの問いに彼はやはりヘラヘラと頭を撫で、手が冷たかったからさ、と言った。どうやら彼は、ナナの身体が冷えているのを察したらしい。
「いらないならもらうぞ」
ユウキは言いながら、得も言えぬ苛立ちを押し殺していたアカネのアイスを頬張った。
「なんで食べるのよ!」
「いや、食べてないからいらないのかと思って」
「今から食べようと思ってたのに」
「そうなの? 悪いわるい」
アカネは彼を本気で怒る。
「いいよ、私いらないからこれ食べて」
するとナナが彼女に自分のものを差し出した。
「じゃあこれは?」
ユウキがアカネのアイスを指さしてナナに訊く。
「それはユウキが食べればいいじゃない」
ナナはペットボトルを手の内で転がしながら言った。
「まじで? ラッキー」
そう言うと彼はアカネから奪ったアイスを両手に持ち、本当に子供のようにそれらを舐め始めた。
「お腹壊して死ね」
遠慮なしの彼女の言葉にナナは一瞬身構えたが、すぐに噴出した。
「あんたたちって、まるで夫婦漫才みたいね」
そう言われた彼が満更でもない顔をしてくるから余計にアカネは複雑な気持ちになる。彼女には微妙なその言葉も、ユウキには額面通りの冗談にしか聞こえていないのだろうか。
アカネは不貞腐れ、アイスクリームを少しずつ舌で削った。