11-①ダブルデート
大会当日。帰宅部は自宅で勉強ということになっている。なのにどうして自分はこんなところにいるのだろう。アカネは人通りの多い駅前でただ立っていることができず、手持無沙汰に髪をいじってみたり、時計をしきりに見たりした。
待ち合わせの時刻のちょうど五分前。よく見慣れた上背の坊主頭が見慣れない洋服を着て現れた。制服とユニフォーム姿のイメージしかないユウキの私服姿は、小学生の頃にまで遡らなければ思い出せなかった。背が伸びる前のそれと体格ががっしりした今とでは、身なりの印象が大分変っている。アカネはどういうわけか目のやり場に困ってしまった。
「お待たせ待った―?」
「チャラい。待ってない。あんた性格はだらしないけど時間だけは守るからね」
恥ずかしさを冷たい態度で隠してしまう自分が可愛くないことはわかっていても、やめられない。きつい言葉もヘラヘラ受け流してくれるのだが、本当はどう思っているのだろう。傷ついていやしないか。嫌になってはいないか。疑問はすぐに噴き出してきてしまう。
「もういい。行くよ」
不安をうまく隠して歩きだそうとすると、思わずユウキに腕を掴まれた。
「なに」
思いがけない力強さにドギマギしてしまう。
「もうちょっと待って」
「待つ? 何を」
平静を装って訊く。
「まあまあ」
すると彼は周りを見渡した。ノドぼとけが近い。そう思ってアカネもやはり、視線をよそに向ける。待ち合わせ場所に選んだ駅前のロータリーには若い男女が何組か見て取れて、私たちもそう見られているのかと思うと、もはや俯くしかない自分がいた。
「もうついていたんだね、お二人さん」
間も無く現れた男女を見て、アカネは目を疑った。眼前には他クラスにまで噂が広がるくらいのチャラ男である加賀が立っていた。隣の女は名も知らない。おそらく、他校だった。
「どういうこと?」
怒気を含んだ声に、ユウキのヘラヘラ顔にもわずかに苦みが加わる。
「ま、こういうこと」
そして彼は大して悪びれず、加賀と話をしだしたのだった。
埋め合わせと聞いていた遊園地に向かうまでに、キッチリ事情を訊きだした。ユウキは私以外にもドタキャンをしていたそうで、埋め合わせをするには今日しかなかったから結果的にこうなってしまったのだと彼は言う。
「一度、約束破ってるからさ。断りずらくて」
「で、なんで私」
「アカネとの約束もドタキャンしちゃったって言ったら、連れてくればいいって。自分も女の子、連れてくるからってさ」
前の席でイチャイチャする加賀の頭を焼き尽くしてやろうと視線を送る。
「なんで言ってくれないの?」
「言ったら、来てくれないじゃん」
もっともな理由をユウキはつける。
「お礼もしたかったからさ」
「何の?」
「日頃の」
そんな反則な言葉を彼は平気で使った。
「じゃあ、今日はおごりね」
だからアカネは、思いっきり意地悪してやろうと決めた。
「え、ウソ?」
「当り前じゃない」
そっぽを向き、つんと鼻先を天に向ける。これじゃダブルデートみたいじゃない。改めて考えはじめると、鼓動がデタラメなリズムを刻みだす。それを悟られないように、彼女は先頭を切って可愛げなくズンズンと歩を進めたのだった。