9-①それもまたあいつらしい
いつもと何も変わらないようでどこかが変わっている校舎。日曜日。休日の学校はどうしてこんなにも来る理由のない者を拒む雰囲気を醸し出すのだろう。
アカネは校門を素通りし、校庭を見ないように歩く。昨晩、深夜まで起きていた彼女はたっぷりと寝坊をした後、隣町のショッピングモールまで足を伸ばした。明確な目的があるわけではなかったが、なんだか家でじっとはしていられなかった。誕生日だから。彼女はそんな理由を付けて、普段は買わないようなものにも手を伸ばしてみた。洋服、雑貨、本、化粧品。思いつくまま足を向けた。友達を誘うことも考えた。が、誕生日を理由に呼び出すことはあまのじゃくな自分にはできないことだった。
買い物を終えて行き帰りに否が応でも通る高校に差し掛かった時、彼女は無意識に首が伸びている自分を諫めた。各部の部室に隠されて校庭は見えなかったが、野球の掛け声がそこかしこから上がって彼女の耳に届いたのだった。
「アカネ」
校庭が見えてくるとすぐに声を掛けられた。
「なんで見つけちゃうのよ」
彼女はユウキに向かって半ば呆れた声を出す。
「だって、たまたま見たらいたんだもん」
そう言って彼はあっけらかんと笑う。フェンス越しのブルペンゾーンで控えとして肩を作っていたらしい。
「今、七回。そろそろ出番かも」
目をギラギラさせてユウキは言う。遠くのグラウンドを見ると、フルベースでピンチが続いていて、マウンドでは中條がプレートをしきりに蹴っているのが見て取れた。
「負けてるの?」
「勝ってるよ。でも、打たれたら同点」
言っている傍から金属バットの響く音が鳴り、それを追いかけて歓声が上がった。
「やべ、行かなくちゃ」
そう言う顔はまるで子供だった。呼び出される前に彼はキャッチャーの寺内に一礼し、外に駆け出て行った。