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7-①土曜日の夜

 土曜日の夜。

 こんなに眠れないのはいつ以来だろう。暗闇に天井の壁紙の模様が浮かび上がっていた。アカネはとうとう瞼を持ち上げ暗順応した目で暗闇の中の自室を眺めたのだった。

  明日の予定はキッチリ立てた。待ち合わせにユウキが遅れて来てもいいように何パターンかのルートを立てて、滞りなく遊園地を楽しめるよう万全を期した。あとは何も考えないで早く寝て、早く起きようとベッドに入った。が、気付くと明日のことを考えていていつしか頭が冴えきっていた。

  朝のおはようをいつもどおり言えるだろうか。私の着ている服を見て何か言うだろうか。明日、何着て行こう。少しお化粧をしてみよう。あいつは気付くだろうか。何の話をすればいいんだろう。遊園地では何から乗ろう。当たり前だけど、ずっと私があいつの隣を歩き、正面に座るんだ。他に誰もいない、二人きり。

 止め処なく取り留めのない疑問が湧き上がってくる。数を数えたり呼吸を深くしてみたりして無理にそれらを遮ってみても、眠りは意識の隅っこに追いやられて一向に訪れる気配を見せない。

  思えば、偶然二人きりになったことは数え切れないほどあっても、申し合わせて会うのは今度が初めてだった。だからなんだ。これって世間一般でデートと呼ばれているものなのではなかろうか。いや、違う。そんなんじゃない。

 彼女は布団を頭からかぶって頭を押さえ、周りの雑音を遮ってみる。

 あいつは私のことを単なる幼馴染としか見ていないのだから、私は幼馴染として振る舞っていればそれで良いのだ。野球バカに普通の学生が送っている退屈な休日を味わわせてあげればそれでいい。何を期待しているのだ。そんなことを幾度も自分に言い聞かせる。

  それにしてもあんなに野球が好きで今までの人生を捧げてきたというのに、唐突に練習を休むなんて一体、何があったというのだろう。大会のメンバーに選ばれなかったことがそこまでショックだったのだろうか。興味がないふりをしてみても、心配になってしかるべき行動を最近のユウキは取っていた。野球を休むのも初めてに近いし、ましてやサボるなどありえなかった。普通の学生生活に興味を持つところも、どうも彼らしいとは言い難かった。だからと言ってユウキはアカネに、他の大勢と同じような詰問を望んでいるわけではないらしかった。あいつは私に、幼馴染としてただただ楽しい休日をともに過ごすことを望んでいる。そう、幼馴染として、だ。それ以上でも以下でもない。そう思うと、今度はなんだか腹立たしくなってきた。

  アカネは暗闇の中、天井を睨んで膨れっ面をする。

 どうせなら思い切りキレイな格好をして行ってやる。お化粧もして、私がもう大人の女だということを知らしめてやるんだ。

 そう意気込んだはいいが、今度はどこか緊張してきてやはり眠れなくなってしまった。

 ———その時、携帯電話に一通のメールが届いた。

『ごめん! 明日行けなくなった! 練習試合に呼ばれた! 投げる予定! この埋め合わせは必ずするから! ほんとごめん!』

 その文面を見てひとしきり憤った後、でもなんだかどこかでホッとしている自分をアカネは見つけた。夜はすでに深く、彼女の意識はいつしか暗闇へ沈んでいったのだった。



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