6-②目撃
「やべ、消せ」
どれも坊主頭。野球部であるのは間違いないが、古びた蛍光灯が薄暗く黄色い光を明滅させていて顔まではよく分からなかった。しかしユウキは天井にユラユラ上りながら消えていく白い煙を見逃さなかった。
「なんだ、ヒョロいのか。何しに来た」
煙に気を取られていると、いつの間にか中條に後ろを取られていた。
「ボールが落ちていたので片付けに来ました」
ユウキはボールを籠に戻すと、すぐに帰ろうと踵を返した。
「おい、何も言うなよ」
蛇のような目で中条は彼を見る。そしてドアノブを掴もうとするユウキの手首を掴み、制した。
「チクんのか」
部屋中の空気がヒリついているのが嫌というほどわかる。同時に、ヤニ臭い匂いが鼻孔を突いた。
「そんなことしないですよ」
ユウキはドアノブに目を落としながら呟く。
「そうか、じゃあ、お前も一本吸ってくか」
急にフレンドリーになった先輩は肩を組んで人差し指と中指の間に挟んだタバコを彼の口元に差し出した。
「いや、自分はいいです」
「なんだよ、遠慮すんなよ」
中條は強引にユウキの口にタバコを咥えさせようとする。
「勘弁してください」
その手を振り払うと、彼はドアノブを握り締めた。
「ビビってんじゃねぇよ」
中條は大袈裟に嘲笑しながらノブを廻すユウキの姿を見守った。
「だから選抜メンバーにも選ばれないんだよ」
彼は背中にそんな冷笑を受けながらドアを開け放つ。頭に血が上っていた。
「人よりちょっと走れるだけなんだから、野球部じゃなくて陸上部に入ればよかったんだ」
耳に入ってくる侮蔑に耐えながら彼は一歩を踏み出す。
「おい、ちょっと待て」
しかしすぐに呼び止められる。
「一年。挨拶は?」
冷たい言葉を浴びせる先輩に対し、彼はぎこちなく帽子を取り、失礼します、と力無く零した。
「いくら練習してもお前は俺より上手くなれないよ」
突き放すような物言いをすると、中條はそそくさと用具室へ戻っていった。
いくら練習をしても認められない。タバコを吸っている先輩が選抜メンバーに選ばれて当然としている。帰り道、ユウキはやり場のない怒りと失望に肩を落として家路についたのだった。