1-①通学路が一緒なだけだから
雨上がりの初夏の空。アカネは河川敷を歩きながら、朝陽に煌く川面に目を細めていた。
「おは」
振り向くと、寝癖頭のユウキがにこやかに近づいてきた。彼は鞄を肩に担ぎ、もう片方の手でトーストを持っている。口元から零れたパン屑が腰履きした学生服に点在している。だらしない姿を認めると、アカネは気づかない風を決め込み歩を早めた。
「おい待てよ」
「ついてこないで」
「何言ってんだよ。一緒の学校なんだから一緒にいけばいいじゃん」
そう言ってユウキは駆け寄ってくる。が、アカネは同じ速度で小走りし、差を縮めることを許さなかった。
二人は小学校からの幼馴染で、偶然か必然か同じ高校に進んでいた。文武両道の名門校にアカネは家から一番近いという理由で、ユウキは野球の特待で学費が安く済むという理由で進学を決めたのだった。
「朝練は?」
三歩後ろを歩くユウキに訊くが、答えは返ってこない。
「朝練はどうしたのってきいてんの」
苛立ちながら振り向くと、幼馴染はすごい勢いでパン屑を零していた。
「パン齧りながら通学するなんて、今どきドラマでもありえないから」
だから思わずそう忠告したが、彼は表情を崩さず緩慢な動作で裾を手で払うだけだった。
この作品は5/31から開催されている【文学フリマ短編小説賞】参加作品になります。
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